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ビョウブは口から大量の血を吐いた。大剣は背中から刺さり、ビョウブの体の中心を激しく貫いている。
「な、なにがあった!?」
ヨキ達は身を屈め、ビョウブの後方を確認した。しかし誰もおらず、気配も感じられない。
ビョウブは前のめりに倒れ、大剣は地面に刺さり、ビョウブの重みで鋒が折れた。
ビョウブはそのまま俯せに倒れ込んだ。
「いったい何が? どこから飛んできた?」
混乱するカナをヨキが落ち着かせた。
「今ならまだ間に合う。ビョウブにヒールを!」
「う、うん」
善意の力を含んだヒールであれば、傷を治しつつ、悪意を排除できるはずである。
カナが魔法を唱えようとしたその時、カナは体を強く押された。
「危ない!」
その瞬間にカナの耳元で激しい音がし、カナは押された衝撃で倒れ込んだ。
その倒れたカナの目の前で、地面に横たわっているのは、ヨキであった。
ヨキの背中には抉るように切り裂かれた数本の傷痕がある。
「ヨキ!」
カナは四つん這いになってヨキへと近づいた。ヨキは蒼褪めた顔を歪めながら吐血した。
「ヨキ! 大丈夫!?」
カナは急いでヨキへとヒールを唱えた。ヨキの体が緑色に包まれる。
しかしヨキの傷は癒えない。
「な、なんで!?」
カナはもう一度ヒールを唱えた。
しかしヨキの体は一向に治らない。
「どうして治らないの!?」
カナはヨキの能力を思い出した。
ヨキの体はどんな魔法も無効化する。
どんな魔法も。
「まさか……、ヒールすら無効化してしまうの!?」
カナは絶望の中で、涙ぐみながらも何度もヒールを繰り返した。
「お願い! 治って!」
しかしヨキの体はカナの願い空しくヒールを撥ね除けてしまった。
「そ、そんな……」
段々と弱っていくヨキの姿をカナは呆然と見つめた。
その時、カナはひどい頭痛に見舞われた。
目の前に朧気に映る光景。
白黒の映像が断片的に続く。
なに……この光景……
ひどい頭痛はその光景が消えると共に止んだ。
カナは頭を振って目の前のヨキに焦点を戻した。
その視線が影に覆われていることに気づいた。
カナは不穏な気配に振り返った。
目を覚ました悪意のトラ、ノモンが激しい息を蒸気のように吐きながら立ちはだかっていた。
右手の鋭い爪には血が滴っている。
ヨキの背中の傷痕と一致する。
しゃがんだカナにはノモンが山より大きく見えた。カナは体の力を失い、絶望に身を震わせた。
ノモンは荒い息を繰り返し、右手を高く挙げ、カナに向けて振り下ろした。
カナは自分の体を抱きしめながら目を瞑った。
しかしカナの体は何も起こらなかった。
恐る恐る開いたカナの目に映ったのは、ノモンを抑えて立ちはだかるブヒゾウの姿であった。




