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この異世界は悪意しかない!  作者: 浅見青松
第3章 ミャーザ・ワッケンジー国編
83/161

28


ビョウブは口から大量の血を吐いた。大剣は背中から刺さり、ビョウブの体の中心を激しく貫いている。


「な、なにがあった!?」


ヨキ達は身を(かが)め、ビョウブの後方を確認した。しかし誰もおらず、気配も感じられない。


ビョウブは前のめりに倒れ、大剣は地面に刺さり、ビョウブの重みで(きっさき)が折れた。

ビョウブはそのまま(うつぶ)せに倒れ込んだ。


「いったい何が? どこから飛んできた?」


混乱するカナをヨキが落ち着かせた。


「今ならまだ間に合う。ビョウブにヒールを!」


「う、うん」


善意の力を含んだヒールであれば、傷を治しつつ、悪意を排除できるはずである。


カナが魔法を唱えようとしたその時、カナは体を強く押された。


「危ない!」


その瞬間にカナの耳元で激しい音がし、カナは押された衝撃で倒れ込んだ。


その倒れたカナの目の前で、地面に横たわっているのは、ヨキであった。

ヨキの背中には(えぐ)るように切り裂かれた数本の傷痕がある。


「ヨキ!」


カナは四つん這いになってヨキへと近づいた。ヨキは蒼褪(あおざ)めた顔を歪めながら吐血した。


「ヨキ! 大丈夫!?」


カナは急いでヨキへとヒールを唱えた。ヨキの体が緑色に包まれる。

しかしヨキの傷は癒えない。


「な、なんで!?」


カナはもう一度ヒールを唱えた。

しかしヨキの体は一向に治らない。


「どうして治らないの!?」


カナはヨキの能力を思い出した。

ヨキの体はどんな魔法も無効化する。

どんな魔法も。


「まさか……、ヒールすら無効化してしまうの!?」


カナは絶望の中で、涙ぐみながらも何度もヒールを繰り返した。


「お願い! 治って!」


しかしヨキの体はカナの願い(むな)しくヒールを()()けてしまった。


「そ、そんな……」


段々と弱っていくヨキの姿をカナは呆然(ぼうぜん)と見つめた。


その時、カナはひどい頭痛に見舞われた。


目の前に朧気(おぼろげ)に映る光景。

白黒の映像が断片的に続く。



なに……この光景……



ひどい頭痛はその光景が消えると共に止んだ。

カナは頭を振って目の前のヨキに焦点を戻した。

その視線が影に覆われていることに気づいた。


カナは不穏な気配に振り返った。


目を覚ました悪意のトラ、ノモンが激しい息を蒸気のように吐きながら立ちはだかっていた。

右手の鋭い爪には血が(したた)っている。

ヨキの背中の傷痕と一致する。


しゃがんだカナにはノモンが山より大きく見えた。カナは体の力を失い、絶望に身を震わせた。


ノモンは荒い息を繰り返し、右手を高く挙げ、カナに向けて振り下ろした。

カナは自分の体を抱きしめながら目を(つむ)った。





しかしカナの体は何も起こらなかった。


恐る恐る開いたカナの目に映ったのは、ノモンを抑えて立ちはだかるブヒゾウの姿であった。


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