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サントーリオの長ったらしい説明を要約すると、
ネコ族を道すがらバッタバッタと薙ぎ倒していったブヒゾウだったが、大きな石橋を渡っていたところ、前後からネコ族に囲まれた。
サントリーオも加勢しに向かったところ、橋の下から更に数人のネコ族が現れ、ブヒゾウは剣を振るっていたが、その手を噛まれ、善意の剣を川へ落としてしまった。
なす術を失ってしまったブヒゾウは、取り囲んだネコ族に連れていかれたという。
「でも、剣を持ってたらブヒゾウの体に触れても、悪意が取り除かれたんじゃないの?」
カナは基本的なことを質問した。
サントーリオはそれについては首肯した。
「触れた者や噛んだ者は浄化されました。しかし噛まれた痛みは変わらないのです」
つまり、悪意を弾いても、痛みがないわけではないということである。
殴られれば痛みがあるし、噛まれれば出血する。
まずブヒゾウに剣を落とさせ、その後残った者がブヒゾウを捕らえたということであろう。
なかなか頭が切れる。
「剣を落としたってことは、そのあとブヒゾウが感染者に触れられたら?」
カナが眉間に皺を寄せてヨキに尋ねた。ヨキは神妙な顔つきで答えた。
「……悪意に侵される」
一同に戦慄が走った。
「ただ、連れ去られたってことは、まだ治せる望みがあるってことだ」
ヨキは虚ろな目をしたブヒタロウに話し掛けた。
「どうする、ブヒタロウ?」
ブヒタロウはハッと我に返って顔を上げた。
「な、なんでオイラに訊くでがすか?」
「海に行くか? それともブヒゾウを追い掛けるか?」
「オ、オイラは……オイラは……ヨキ様に従うです」
ブヒタロウはそう言いながら視線を反らしていた。
ヨキはそのブヒタロウを凝視した。
「クジラの骨を調達して、一旦トンディーク国に帰る。そして武器を整えてからブヒゾウを助けにいく。そのほうが堅実だ」
「………………」
「連れていかれたってことは、生け捕りってことだ。早々危険な目には遭うまい」
「………………」
「それでいいなら、じゃ、行くぞ」
「………………」
「荷車を海に向かって牽いてくれ」
歩いていくヨキの背中を見て、ブヒタロウは荷車の梶を手から放した。
「そ、それじゃ遅いでがす! 先に助けに行くでがす!」
ヨキはゆっくりと振り返った。
「僕に従うって言ったじゃないか」
「…………そうでげすけど」
「それにブヒゾウと仲悪そうに口ゲンカしてたじゃないか。それからずっと口をきいてもいない」
「そ、それは……」
「分かったんなら、海へ行くぞ」
ヨキは海へ向かって歩き出したが、ブヒタロウは動かなかった。そして梶を激しく叩いた。
「ヨキ様! そんなの普段のヨキ様じゃないでげす! 冷たすぎるです!」
ブヒタロウはヨキに迫った。
「ブヒゾウが可哀想でがす! ヨキ様に一刻も早く助けてほしいって思ってるでげす!」
ブヒゾウは荷車を放棄して拳を固めた。
「ブヒゾウはきっと恐い思いをしてるでげす! オイラは助けに行くです! ひとりでも助けに行くです!」
ブヒタロウの渾身たる叫びが周囲に響いた。
「ひとりでどう助ける?」とヨキは冷淡に尋ねた。
「そ、そんなこと分かんないでがす! それでもオイラはあいつを助けるでがす!」
ブヒタロウは声が嗄れるほど叫んだ。
「ブヒゾウはオイラの兄弟みたいなもんでげす! 大事な仲間なんでげす!」
ヨキはその魂の叫びに足を止め、ブヒタロウへ振り向いた。
「よく言った、ブヒタロウ」
「ヨキ様……」
「ブヒゾウが斥候を買って出た理由が分かったか?」
「えっ?」
「ブヒゾウは皆を守りたかったんだ。自分の力不足を感じ、それでもなんとか役に立ちたいと、ひとり先陣を切ったんだ」
ヨキはブヒタロウの肩を叩いた。
「守りたいと思う者の中に、お前も含まれてるんだぞ」
「………………」
「ブヒゾウを今すぐ助けに行くぞ!」
ブヒタロウは表情をぱっと輝かせ、それでいて精悍な顔つきになった。
「はいです!」




