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この異世界は悪意しかない!  作者: 浅見青松
第3章 ミャーザ・ワッケンジー国編
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サントーリオの長ったらしい説明を要約すると、


ネコ族を道すがらバッタバッタと()ぎ倒していったブヒゾウだったが、大きな石橋を渡っていたところ、前後からネコ族に囲まれた。


サントリーオも加勢しに向かったところ、橋の下から更に数人のネコ族が現れ、ブヒゾウは剣を振るっていたが、その手を噛まれ、善意の剣を川へ落としてしまった。


なす(すべ)を失ってしまったブヒゾウは、取り囲んだネコ族に連れていかれたという。


「でも、剣を持ってたらブヒゾウの体に触れても、悪意が取り除かれたんじゃないの?」


カナは基本的なことを質問した。

サントーリオはそれについては首肯した。


「触れた者や噛んだ者は浄化されました。しかし噛まれた痛みは変わらないのです」


つまり、悪意を弾いても、痛みがないわけではないということである。

殴られれば痛みがあるし、噛まれれば出血する。


まずブヒゾウに剣を落とさせ、その後残った者がブヒゾウを捕らえたということであろう。

なかなか頭が切れる。


「剣を落としたってことは、そのあとブヒゾウが感染者に触れられたら?」


カナが眉間に(しわ)を寄せてヨキに尋ねた。ヨキは神妙な顔つきで答えた。


「……悪意に侵される」


一同に戦慄が走った。


「ただ、連れ去られたってことは、まだ治せる望みがあるってことだ」


ヨキは(うつ)ろな目をしたブヒタロウに話し掛けた。


「どうする、ブヒタロウ?」


ブヒタロウはハッと我に返って顔を上げた。


「な、なんでオイラに()くでがすか?」


「海に行くか? それともブヒゾウを追い掛けるか?」


「オ、オイラは……オイラは……ヨキ様に従うです」


ブヒタロウはそう言いながら視線を反らしていた。

ヨキはそのブヒタロウを凝視した。


「クジラの骨を調達して、一旦トンディーク国に帰る。そして武器を整えてからブヒゾウを助けにいく。そのほうが堅実だ」


「………………」


「連れていかれたってことは、生け捕りってことだ。早々危険な目には遭うまい」


「………………」


「それでいいなら、じゃ、行くぞ」


「………………」


「荷車を海に向かって()いてくれ」


歩いていくヨキの背中を見て、ブヒタロウは荷車の梶を手から放した。


「そ、それじゃ遅いでがす! 先に助けに行くでがす!」


ヨキはゆっくりと振り返った。


「僕に従うって言ったじゃないか」


「…………そうでげすけど」


「それにブヒゾウと仲悪そうに口ゲンカしてたじゃないか。それからずっと口をきいてもいない」


「そ、それは……」


「分かったんなら、海へ行くぞ」


ヨキは海へ向かって歩き出したが、ブヒタロウは動かなかった。そして梶を激しく叩いた。


「ヨキ様! そんなの普段のヨキ様じゃないでげす! 冷たすぎるです!」


ブヒタロウはヨキに迫った。


「ブヒゾウが可哀想(かわいそう)でがす! ヨキ様に一刻も早く助けてほしいって思ってるでげす!」


ブヒゾウは荷車を放棄して拳を固めた。


「ブヒゾウはきっと恐い思いをしてるでげす! オイラは助けに行くです! ひとりでも助けに行くです!」


ブヒタロウの渾身(こんしん)たる叫びが周囲に響いた。


「ひとりでどう助ける?」とヨキは冷淡に尋ねた。


「そ、そんなこと分かんないでがす! それでもオイラはあいつを助けるでがす!」


ブヒタロウは声が()れるほど叫んだ。


「ブヒゾウはオイラの兄弟みたいなもんでげす! 大事な仲間なんでげす!」


ヨキはその魂の叫びに足を止め、ブヒタロウへ振り向いた。


「よく言った、ブヒタロウ」


「ヨキ様……」


「ブヒゾウが斥候(せっこう)を買って出た理由が分かったか?」


「えっ?」


「ブヒゾウは皆を守りたかったんだ。自分の力不足を感じ、それでもなんとか役に立ちたいと、ひとり先陣を切ったんだ」


ヨキはブヒタロウの肩を叩いた。


「守りたいと思う者の中に、お前も含まれてるんだぞ」


「………………」


「ブヒゾウを今すぐ助けに行くぞ!」


ブヒタロウは表情をぱっと輝かせ、それでいて精悍(せいかん)な顔つきになった。


「はいです!」


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