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この異世界は悪意しかない!  作者: 浅見青松
第2章 トンディーク編
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16


トリ族数十人は丘から飛び立ち、群れとなって上昇しては下降する動きを繰り返していた。


温めた体を重ね合わせて空気の暖流を作り、縦長の楕円(だえん)形に飛ぶことによって上昇気流を生み出している。

上空にコイルを巻くように飛び、丘を囲むように一周することで丘の上空にはドーナツ形の雲が作られた。


「すごい!」


ヨキは空を見上げ、作られてゆく雲に感嘆した。


濃度の増した雲からはポツポツと雨が降り出し、その雨は激しい音を立てて地面を打った。


雲を作り出したトリ族は任務を遂行し、無事に着地した。


「ど、どうですか、我々の団結力は?」


サントリーオ(次男)はヨキに自慢げに胸を張ったが、眼球が回っている。


「あ、ああ……、ありがとう。しばらく休んでいてくれ」


「わかりました。ウプッ」


サントリーオ(次男)は(くちばし)を羽根で押さえてヨキの元を退いた。他の者もみな足取りがフラフラだ。


「トリ族も酔うんだ……」




空には予防線が張られ、飛んでくる感染者は雨のおかげか訪れていない。しかし放送されるサントーリオの声に誘われて、感染者たちがぬかるんだ丘の坂を登ってくるのが見える。


「カナ、奴らは引き付けて一網打尽にしよう」


「わかった」


至近距離まで近づくまで待ってからカナは魔法を放った。


「ヒール!」





「そういったわけでございまして、わたくしたちがこの放送をしていることがご理解いただけたかと思います。

え、理解されてない? では、念には念を入れてもう一度説明いたしますね。

わたくしは王宮騎士団のサントーリオと申しまして……」




施設前ではバタバタと感染者たちが悪意を(はら)われ倒れていった。しかしその奥から奥から次々と感染者が現れる。

ぬかるみに足を取られ、登る速度が遅いのが救いである。


「ヒール!」


カナは続けざまに魔法を放っていった。




「……というわけでございます。そもそもわたくしが王宮騎士団に入隊したのは、他ならぬご縁がありまして、ある時都の市場で買い物をしておりましたところ……」




響き渡る放送に(しび)れを切らせたヨキは叫んだ。


「誰か! サントーリオからマイクを奪ってくれ!」


すると施設前で休んでいたサントリーオ(次男)とサントリオー(三男)が回復が完了したようで、真っ先に名乗り出た。


「は、直ちに!」

「行くぞ!」


2人は駆け足で施設内へ入っていった。



悪意を取り除いた者たちが施設の周りに無数に倒れ込み、トリ族やブヒゾウ、ブヒタロウはその者たちを内側へ引っ張って介抱した。

目覚めた者に状況を説明し、仲間が増えてゆく一方、感染者の接近もひっきりなしに続く。

その都度、カナは魔法を放った。


「ヒール!」「ヒール!」「ヒール! きりがないよ!」


「頑張れ、カナ。もう少しだ」


その防戦の中に放送が響いた。


「……といった経緯でございます。晴れて王宮騎士団になったわたくしは……モゴモゴモゴモゴ……何をする、サントリーオ!」

「兄さん、喋りすぎだよ!」

「まだ喋ってる途中でしょうが!」

「早くクックル様に代わって!」

「だからそのために会場を温めてるんだ」

「もうポカポカだよ! 暑苦しいくらいだ。サントリオー、そっちの翼を押さえろ」

「了解!」

「おい、サントリオーまで何をする!」

「ごめん、兄さん」

「やめなさい、こら! この前ミミズ多めにあげただろ!」


ガチャガチャと雑音が施設外に(こだま)した。饒舌(じょうぜつ)な者を力ずくで排除し、ようやく静寂が訪れた。



少しの間を置いて、かすれた声が聞こえ始めた。


「き、聞こえる?」


幼い声は全土に向けて語りかけた。


「わ、われはトンディーク国クックル王子である」


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