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ブタは幹に触れて体を震わせていた。少年はその姿を眺めた。
「君のおかげで僕の能力の情報が得られた」
ブタは紫のオーラを失い、その場にどさりと倒れ込んだ。
地面がその衝撃で揺れ、砂煙が舞った。
少年は額の汗を拭い、落ち着きを取り戻した。
「ふう、つまり生物には僕の能力を流し込むことが出来るみたいだ。ウサギやこの木のように。
木の枝は無機質という扱いなのか無理だったみたい。一応君の体に投げてみたけど、君の体に何の反応もなかったし」
少年は倒れたブタを眺めながら腕を組んだ。
「それにあの紫の靄。仮に『悪意のオーラ』と呼ぼうか。その悪意のオーラを纏う者が持つ無機物にも悪意はなかった。このナイフもただのナイフだ」
少年は木に突き刺さったナイフに目をやり、こめかみに人差し指を当てた。
「そして、木の幹に刺さったナイフを抜こうとした時も、僕の能力は木を伝い、ナイフを伝ってブタには届かなかった。
つまり、僕の能力も悪意のオーラも無機物には影響がないわけだ」
大の字に倒れているブタを少年は見下ろしながら胸を撫で下ろした。
「いやぁ、しかし幹に触れてくれてよかった……。
直接このブタの体に触るの恐かったし」
ブタは若干体が縮んだようにも見える。悪意のオーラが無くなったせいか、ピンク色の肌はつやつやと血色を取り戻して、顔も角がとれて穏やかだ。
その時、倒れていたブタは目を覚ました。
ぱちくりと瞬きをさせて起き上がった。
少年が目の前まで寄ると、ブタは少年に視線を向けた。
獰猛に見えた先程とは違い、つぶらな目と垂れた耳が、明らかに無害そうであった。
少年は未だに警戒していた。完全に悪意が無くなったかは分からないし、そもそも元がどんな性格かも分からない。
けれどブタは少年を見るなり、両手をついて頭を下げた。
「す、すんません」
どうやら大丈夫なようだ。
「ナイフを投げたりして」
そっちかよ!
少年は心で突っ込んだ。
「僕を食べようとしたことじゃなくて?」
「め、滅相もない! オイラは亜人は食べません」
少年は変化したブタを眺めた。
「そうか、やはり悪意のオーラのせいで……」
「食べたことはありますが」
「食べるのかよ!」
「あ、いや、それは仕方なくです。オイラ、淡白であまり好きじゃなくて」
「味の問題かよ! 舌舐めずりしてたじゃないか」
「すんません、オイラ、どうにかしてたもんで」
ブタは深々と頭を下げた。
「すんませんでした!」
「いや、いいんだよ」
本人のせいではなく、あの紫のオーラのせいであることは瞭然である。
「気にしないでくれ。善きかな、善きかな」
少年はブタに頭を上げるよう促した。
「ところで、君、名前は?」と少年は尋ねた。
ブタは頭を上げた。
「オイラですか? ブヒゾウです」
「すごい名前だな……」
見た感じ、顔はブタ、体は人間とほぼ同じ。手の指も5本ある。獣人という類いだろう。
「君はつまり、オーク族か?」
「オーク? 何ですか、それ?」
違うのか。
少年の予測は外れた。
「オイラはブタ族です」
「………………何ですか、それ?」
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