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とにかく死なずに済んだ。
あの悪意の塊からの難を逃れ、少年は胸を撫で下ろした。
「とりあえず良かった。えっと……何だっけ? あ、そうそう、食糧調達……」
目の前のウサギに目をやる。ウサギは視線に気付いたのか、少年のほうに目を向け、近寄って少年の足に鼻を動かした。そしてつぶらな瞳で少年を見つめた。
モフモフの毛並み、寂しそうに潤んだ目、真ん丸い体。
少年は体を震わせて叫んだ。
「いや、こんな可愛い子、無理!」
少年は腹を擦って確かめた。
今はさほど空腹ではない。必要に迫られていないのであるならば、とりあえず他を探すことを少年は選んだ。
「でもこんなことしてたら生きていけないよな」
少年はウサギを逃がすことにしたが、これから先のことを思うと甘い考えの自分に不安にもなった。
少年はウサギを抱きかかえた。ウサギは少年の腕の中でもおとなしく鼻を動かしている。
「可愛いなぁ」
少年は癒されながら、ウサギを抱えた腕の傷に目をやった。血は止まっている。
「噛まれた時にウサギは何ともなかったのに、僕が耳を掴んだらウサギからオーラが消えた。あの力は僕の意思に関係あるのかな」
「ほう、亜人族か」
思考に入り込んでいた少年の背後から突然、重低音の声が聞こえた。
少年は振り返った。
そこには先程見かけたブタ顔の人間がひとり立っていた。先ほどの仲間はいない。
少年とウサギとの攻防の音を聞き付けて近寄ってきたようだ。少年は思考に夢中でその足音に気付けなかった。
逃げようにも少年は足が震えてその場に立ち尽くした。
少年を覆うほどの背丈があり、横幅もあるため、圧倒的な脅威があった。ブタは腰に提げたケースからナイフを取り出した。その手のウサギをよこせと言わんばかりだ。
少年はどうやって逃げようかとウサギを抱えながら考えた。
「亜人を食えるなんて久々だな」
ブタは舌舐めずりをして少年に近づいた。
少年は心で叫んだ。
えっ、僕を食うの!?
悪意しかないだろ!




