20
村の者たちは癒えた体を眺め合って叫んだ。
「おお、すごい! 治ってる!」
「千切れた耳も元通りだ!」
村の者たちは喜んで少女に笑顔を見せた。
「ありがとう、お嬢ちゃん!」
「ありがとな」
少女はお礼を言われ、複雑な表情を浮かべた。
「わたしの招いたことなのに、感謝されちゃった」
ヨキは少女へと目を向けた。
「悪意がないととても優しい種族なんだ。悪いのは『悪意』そのものだってわかっただろ?」
少女は無邪気な村の者たちを微笑ましく眺めた。
「うん。そうだね……」
その夜は宴会が繰り広げられた。
倒壊した家屋の廃材を村の中央に集めて火を焼べ、その周りを村人が囲んでいる。
山菜とイモのスープやキノコの丸焼き、ドングリを擂り潰して焼いたパンなどがヨキにも振る舞われた。
もしかしたらここに自分たちの姿焼きが加わっていたかもしれないと思うと、ヨキはゾッとした。
「お口に合いますか?」
村の長ブヒノスケがヨキや少女を気遣った。
「うん、美味しいよ」
ブヒノスケはにっこりと笑った。
「よかった。亜人の方は肉を好むようですし、こんな食事でいいものかと心配しておりました」
「ありがとう」
「なんなら、オレの腕を焼いて食べていただいても」
「いらないよ!」
ブヒノスケは真摯にヨキを見つめた。
「オレはあなたに助けられました。とても感謝しています」
「いや、もういいってば」
「なので煮るなり焼くなり好きにしていただいても構いませんが」
「いらないって!」
悪意がなくなり過ぎるっていうのも考えものだな、とヨキは困り顔を浮かべた。
(『煮るなり焼くなり』って。
豚汁と生姜焼きを思い浮かべちゃったよ……)
隣に座る少女も笑っていた。悪意に侵された姿を見た後だと、こんな穏やかな表情で笑う少女があの魔女と同一人物と思えない。
「そういえば君の名前は?」
ヨキは少女に尋ねた。
「えっ、名前?」
少女は表情を曇らせた。
「名前は……なんだろ?」
「覚えてない?」
「さぁ、元々ないのかも」
少女は表情に寂しさを浮かばせた。
「今まで名乗ることも、呼ばれることもなかったから」
名前は誰かが付けない限り存在しない。
それはヨキも同じだった。ヨキもまた名前は無いに等しい存在だった。自ら名乗るまで名前はなかったのだから。
『善きかな、善きかな』
自分の言葉からあの時は咄嗟に名前を付けたっけ。
「じゃあ、『カナ』っていうのはどう?」
ヨキは少女に微笑んだ。
「カナ?」
「そう、いい名前じゃない?」
ヨキは夜空を見上げた。星が瞬いている。
「昔、誰かに言われたことがある気がするんだ。『名前をつけると魂が宿る』って」
「魂?」
「そう、存在する証明って言うのかな」
夜空の星も誰かに見つけられ、名前を付けられることで、その存在が証明される。
名前にはそういう力がある。
「そう、だから名前があったら、きっと君も今から生まれ変わることが出来ると思うんだ」
「カナ……」と少女は呟いた。
「どう?」
少女は何度もその名前を口にしたあと、優しく微笑んだ。
「……うん、いい名前だね」
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