19
ブヒノスケはようやく落ち着きを取り戻し、辺りを見回した。
「あの魔女は?」
ブヒノスケは傍らに眠る少女を指差され驚いた。
「この娘が魔女?」
「『だった』かな」
悪意を取り除いた少女は、亜人と変わらない体をし、フードの付いた白い法衣と白いスカートを纏っていた。顔立ちには幼さがあり、女魔法使い、もしくは魔法少女といった様相であった。
「う、うーん……」
少女は目を覚ました。目の前に大勢のブタ族がいる。こちらを見ている。
少女は座った状態で身構えた。
「な、なに? わたしを食べる気?」
ヨキは怯える少女へ歩み寄り、しゃがんだ。
「君は魔法使い?」
少女はヨキに目を移した。亜人がいることで構えた表情が少し和らいだ。
「あ、あなたは……? ハッ!」
少女は目を見開いた。
「さっきわたしから魔力を吸い取った人? どうやったの?」
「なんか触れたら悪意を祓えるみたい」
「あ、悪意を?」
「君も誰かに感染されたんじゃないか?」
少女は尋ねられて首を傾げた。
「うーん、どうだったかな。気付いたらここにいたような……」
少女は村の様子を見回し、ブタ族の視線を受けて、自分の体を抱えた。
「えっ、もしかしてわたしを火あぶりにするの?」
「いや」
否定したが少女は聞いていなかった。
「そうなんだ! 拷問して火あぶりにされるんだぁぁ!」
「い、いや……」
聞く耳を持たず泣きながら嘆いた。
「こんなに若いのにぃぃ! わたし、死んじゃうんだぁぁ! こんなに若くてカワイイのにぃぃぃ!」
「だ、大丈夫だって」
「ウソ! だってみんなこっちを見てるじゃない!」
ブタ族が少女を眺めている。
「大丈夫だよ。きっとみんな君のことを恨んでいないよ」
ブヒノスケが立ち上がり、少女へ近付いた。
少女は再び身構えた。
「な、なに?」
ブヒノスケはつぶらな瞳で少女を見下ろした。
「あなたも我々と同様、悪意に侵されただけだ。それはあなたのせいではないのだ」
「で、でもわたしはあなたにその悪意を感染したんでしょ?」
ブヒノスケは首を振った。
「それもまたオレの及ばない精神力のせいだ。あなたが悪いわけではない」
「そ、そんなこと……」
村の者たちが少女に声を掛けた。
「そうだ、オラ達が油断したせいだ」
「んだんだ。心配せんでええ」
「それよりお嬢ちゃんは大丈夫かい?」
「心配ねぇべ。オラ達より強そうだ」
「そりゃそうだ。がはははは」
皆の明るい笑い声に少女は包まれた。
少女はその言葉に涙ぐんで、速やかに立ち上がって頭を下げた。
「ごめんなさい! 皆さんを傷つけてしまって」
「なに、気にすることねぇべよ」
「そうだ、そうだ。がはははは」
村の者たちはあっけらかんと笑い飛ばした。
少女はその温かい気遣いに頭を上げた。
「ありがとう、みなさん……」
少女は右手を空へ向けた。手には緑色の炎が湧き上がっている。
「せめて、これくらいは」
少女が右手を振りかぶると、緑のオーラが集まった村の者たち全員を包んだ。
傷を負った部分が癒されてゆく。
少女は法衣を翻した。
「ヒールです」




