12
森を抜け、爽やかな風が顔を叩いた。
ずっと緊張していたせいか、風が暖かいことをヨキは初めて知った。
森を抜けても一面に緑が茂り、大地の息吹をそこはかとなく感じる。洞窟から見渡した時同様、この世界は本来美しいのだろう。
ヨキは歩きながら、穏やかな自然を心地良く思った。
南東へ向かって緩やかな坂が続き、その道の先に集落が朧気に見えてきた。
「あれが村か」
ヨキが呟くとブヒゾウは足を止めた。
「はい」
立ち止まって3人は作戦を練った。
「このまま村へ進んでも勝ち目はない。どうにか長を孤立させる手立てはないか?」
ヨキの問いにブヒゾウとブヒタロウは腕を組んで首を傾げた。
「うーん」
何か習慣や性格から奇襲策を導き出せるかと思ったが、2人には思い当たる節がないようだ。
「なぁ、ブヒタロウ。村のみんなは全員紫のオーラを纏っているんだな?」
ヨキが尋ねるとブヒタロウは頷いた。
「はい。全員すごい紫色してたです」
「それで村が成立するもんかね? たとえば肩がぶつかったら、すぐ喧嘩になったりさ」
「それはもうしょっちゅうあったです。相手の耳を食いちぎったり、棍棒で腕をへし折ったり」
「いや、悪意のみ! 修羅場じゃないか!」
「紫になってから仲間はみんなそんな感じになったでがす。
前はみんな争いなく仲良く暮らしておったです。魚を釣ったり、畑でイモを作ったり、どんぐりを探しに行ったり。それなのに……」
ブヒタロウは悲しそうに涙ぐんだ。
「悪意によって村は荒れてしまったということか」
ブヒタロウはヨキに縋りついた。
「ヨキ様! オイラ、何でもするです! だから村のみんなを元に戻してやってくだせぇ」
涙ながらに懇願する姿にヨキも奮い立った。
助けてやりたい。
ヨキはしばらく考え、そして決心した。
「よし、ブヒゾウ」
「はい」
「僕を人質として長の前まで連れていってくれ」
ブヒゾウは驚いた。
「えっ、ヨキ様、 それはさすがに無謀では……」
「もちろん賭けだ。だが、50人を相手に出来ないし、僕の力では長に近づくのも難しい。ここは正面突破をしたいと思う」
「し、しかし……」
「聞いてくれ。ブヒゾウは僕を連れてゆく。何もしなければ仲間はブヒゾウを襲うことはあるまい。触れられなければブヒゾウも感染はしない」
ヨキは続けて説明した。
「ただ村に入った途端、長の統率力でブヒゾウは侵されるかもしれない。だから僕は常にブヒゾウの体に触れておく」
ブタ族の2人は心配そうにヨキを見つめた。
「ブヒゾウ、一瞬でもいい。長を止めてくれ。その隙に僕が長の体に触れる」
これはブヒタロウの言っていた、長が治れば村の者も治るという仮説を信じての作戦だ。もし間違っていたならば、相当に危険な状況になる。
けれど、ヨキはブヒタロウの言うことを信じることが出来た。どうしてかは定かではないが、なぜだかブヒタロウの言う通りになる気がした。
ブヒゾウはヨキの作戦を聞いて不安そうにしていたが、ヨキの自信ありげな表情に感化されて決心固く頷いた。
「分かりました! お任せ下さい!」
「ヨキ様! ヨキ様! オイラは?」
ブヒタロウは忙しなく自分を指差した。
「ブヒタロウは……」
ふんふん、とブヒタロウは聞き耳を立てる。
「村の外でじっとしとけ」
ブヒタロウはスッ転んだ。
「ひどい! ヨキ様、オイラを能なしみたいに! オイラだって力になりたいのに!」
「ブヒタロウは隠れていてくれ」
「嫌でげす、そんなの!」
「ブヒゾウとブヒタロウ、2人が暴走したら僕は止められない。分かってくれ」
「そんなぁ!」
「ピンチの時に呼ぶから。お前はとっておきなんだ」
「とっておき……」
ブヒタロウは喚くのをぴたりと止めた。
「お前にしか出来ない役だ」
ブヒタロウは頭の中でヨキの言葉を反芻した。表情は段々と恍惚に変わる。
「…………分かったです!」
ブヒタロウは赤ら顔になって機嫌を直した。
3人は村へと目を向けた。
ヨキは2人を奮い立たせた。
「よし、行くぞ!」
2人は喊声を上げた。
「おー!」




