表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/33

7話 邪悪

ちゅん子の指示に従い訪れた草原。

そこには確かに何者かの魔力の痕跡。

目には見えないが気配だけは感じられる。


「ここでちゅん」

「ふぅむ……確かに何か感じられ―――むぅっ!?」


タカアキの厚底眼鏡が不気味に輝く。


「幼女の匂いっ! まだ、濃い!」

「ええっ!?」


これにはゼステルも困惑。

風に影響されない魔力ならともかく、匂いなど直ぐに風に流されてしまうだろうに。


「間違いありません。私が幼女の匂いを間違えようはずも無く」

「その自信は何なんですかっ!?」

「ついでにフェイリーさんの匂いも確認しました。どうやら、幼女と一緒だったようです」

「っ!」


タカアキ、ゼステル共に一つの可能性に辿り着く。

フェイリーは攫われた幼女を追いかけたか、それとも人質に取られて従うしかなかったのではないか、と。


というか、あの短いやり取りで狼娘の匂いを覚えていたんかい、変態がっ。


「匂いの痕跡は……あちらですね」

「森が見えますね」


タカアキが示す方角には不気味な森の姿。

だが、ゼステルはそこに森があった記憶など無い。


「変だな……あんな所に森なんてあっただろうか?」


ゼステルは首を傾げた。

そのタイミングで、ちゅん子がタカアキに小声で情報を伝える。

「ごしゅじん……てんせいしゃの、まりょくですっ」

「む……今回の件は転生者が絡んでいる、と?」

「ひてい、できません」


タカアキは顎を擦りながら、しかし、森に向かって歩き出す。

普段は見せない、どこか焦りを感じさせる行動だ。


「とにかく行ってみましょう。幼女の身に何かあったら、私は世界を滅ぼしそうです」

「そんなにっ!?」


冗談だよな、とゼステルは思ったがタカアキの雰囲気がマジなので、取り敢えずは彼に従う事にしたもよう。

サラマンダーのサランとリスのラタートもドン引きだ。


しかし、森に入って早々、タカアキ、暴走。

うっそうと茂る木々に業を煮やす。


「幼女っ! 早くっ! ええいっ! 邪魔ですっ!」


タカアキはまさかの自然破壊に打って出た。

張り手で巨木を粉砕して行く。


「このような、まやかしで私を止めようなどとっ!」

「ひえぇぇぇぇぇっ!? タカアキさんっ、落ち着いてっ!」


粉砕された巨木が「ぎゃー」と悲鳴を上げる。


「この世の至宝を脅かそうなど、魔王が許しても、勇者である私が許しませんっ!」

「それは違う! 魔王も許さんっ!」


自然破壊に混じる黒い影。


黒い長髪に青白い肌。

鋭い貌には真紅の瞳。

頭部からは漆黒の角が三本伸びている。

金の意匠があしらわれた黒のタキシードに黒のマント。


黒尽くめ過ぎる青年は突如として現れた。


「むむむっ、魔王ですかっ」

「魔王だっ!」

「それは、それとしてっ!」

「幼女を救えっ!」

「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」」


「わけがわからないよーっ!」


ゼステルは自然破壊に巻き込まれて吹っ飛んでいった。

だが、どぽん、という音が聞こえたので池か沼に着水したのであろう。

きっと無事だと思う。うん。


変態二名が大木をなぎ倒す。

すると、その大木は青白い粒子となって消えていった。

そう、この森は何者かが魔力を用いて作り出した仮初の森だったのだ。


「ふおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

「きぃえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」


明らかにテンションがおかしい二名は、その勢いのまま森の中心部へ突入。

そこには巨大な魔法陣。

そして、十体のトロールの姿。


複雑な魔法陣は青白く輝いており、その中心には複数名の幼女の姿。

その中に縄で縛られたフェイリーの姿が。


「な、何事っ!?」


驚愕する魔女。

桃色に近い紫髪は癖があり、一見すると綿菓子のよう。

大きなとんがり帽子は魔女らしさを強調していた。

見開かれた大きな目にはオレンジの瞳。

魔女らしいデザインの黒のワンピースは、型崩れし始めた肉体を引き締めている。

手には実用性が無さそうな箒の姿。


魔女クリスティーネ。

一昔前に有名になった魔女で、【誘夢のクリス】と恐れられた存在だ。

その莫大な魔力を以って空想を現実の物とし、多くの男たちを誘惑。

悪事の限りを尽くした、とされている。


だが―――時は過ぎ、彼女の美貌も衰えが見えてきた。


彼女は転生者。

強力無比の能力を授けられ、好き放題してきた彼女だったが、そのツケを支払う時がやって来たのだ。


能力に頼り切り、老後の対策を怠った結果、クリスティーネは美貌を失いかけている。

危機に迫られ、ようやく重い腰を上げたが時既に遅し。

能力による美貌の修復期間は終了しています、との無常な宣告を受けていた。


クリスティーネの能力は美貌ありきの条件が多く、現在の美貌では殆ど使用不可能だった。

そこで、彼女は別の方法で美貌を取り戻そうと考えた。


それが、他者から若さを奪う、というものだ。


条件としては複数の幼女を魔法陣に入れ、チート能力【夢現】にて若さを奪う魔法を生成。

幼女たちから若さを奪う、という寸法だ。


若さを奪われた幼女たちは大人の姿へ強制的に変えられてしまう。

そうなれば用済みなので、人買いに売り払う。

それなる外道行為を繰り返していたのだ。


現在は初老から中年の姿、そして二十代後半の姿にまで返り咲いている。

もう少しで完全体になろうとしていた。

というのも、フェンリルの若い雌、という最高の生贄が手に入ったからである。


「おのれっ! どうやって、ここまでたどり着いたっ! デビルトレントはどうしたっ!?」


魔力で作った森は、その全てが邪悪な意志を持つ樹木、デビルトレントが擬態したものだ。

火が弱点であるものの、森の中で火を使うのは自殺行為。

かといって、デビルトレントは、Bランクの冒険者が勝てるかどうか、という強さを誇っている。


しかし、変態はランクに納まる存在ではないので問題は無かった。


「そんなのは、どうでもよかろうなのですっ!」

「幼女を虐待するとか絶対に許さんっ! じわじわと嬲り殺しにしてくれるっ!」


迫真の集中線。

邪悪なる魔女も、このロリコンどもにドン引きだ。


「ちょっ、どういうことっ!?」

「問答っ!」

「無用っ!」


自称変態勇者と自称変態魔王が「ほぉぉぉうっ!」と飛翔する。


「はわわわわ……」


何がなんだか分からない魔女は怯えるしかなかった。


「しゃおっ!」

「しゃおっ!」


一閃。

変態どもの手刀が魔女を襲う。


しゅばっ、しゅばばばばばばばっ、との音が鳴り、魔女の身に着けていた物は全て切り刻まれ大地に還る。


零れる乳房を慌てて抱え、魔女は蹲った。

意外と初心である。

というか、この魔女、処女である。


うっそだろ、お前!


「ひぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!? な、なにすんのよっ! 変態っ!」

「安心してください! あなたに興味はありませんっ!」

「年増に用はねぇよっ! ぺっ!」

「このロリコンどもがっ!」


流石にこれは失礼だ。

しかし、相手は邪悪な魔女なので辛うじてセーフである。


「トロール! こいつらをやっておしまい!」


なんと、魔女クリスティーネはトロールを制御する術を開発していたのだ。


しかし―――。


「彼らはもう」

「死んでいる」


ぴぶー、という効果音と共にゆっくりとスライドして行くトロールたち。

十体いたトロールは全て肉塊と化し完全に死亡した。


「はぁっ!? ト、トロールよっ! 不死身の怪物なのよっ!?」

「そんな事はどうでもよかろう、なのですっ!」

「幼女を怖がらせた貴様には地獄も生温いっ! 来たれ、うねうねローパー君!」


魔王はローパーを召喚。

地面の魔法陣より怪物が姿を現す。


ローパーとは、ずんぐりとした円柱の身体から無数の触手を伸ばす、プロのエッチ製造機である。

それが三十匹。

もう、いろいろと酷い光景だ。


「ひぃぃぃぃぃぃぃっ!? き、きもいぃぃぃぃぃぃっ!」

「ふはは、怖かろう。やれ」

「ほぎゃぁぁぁぁぁぁっ!? キモいのが来るっ! こ、来ないでっ!」

「ろぉぱぁ♡」


きもい割には鳴き声は可愛らしかった。

ただし、魔女の鳴き声は野獣のようで可愛くない。


「悪は滅びました」

「うむ。この魔王トウキチロウに敵はいない」

「ほぅ……私は勇者タカアキです」


二人の変態は固い握手を交わした。

言葉などいらなかった。

そこには確かな友情ロリコンがあったから。


その背後ではモザイクが掛かって、わけが分からない光景が広がっている。

野獣の汚い咆哮あえぎは負け犬の遠吠えとなって響いた、とかなんとか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] トウキチロウなにやってんのー妹どうした妹
[一言] ギャグで倒されてるが騙されるなよジョー☆さん!この魔女かなり真正の悪だぜ!ゲロ以下の匂いがするなぁーッ!
[一言] あ~あ出会っちまったな… 神「もうこの世界は終わったな…」 魔王(自称)「まだいけるだろ!」 勇者(自称)「熱いリピドゥーを出せ!」 NG「そうゆうところだよ…」
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ