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21話 変態なる追跡者

その日より、転生者狩り狩りが始まった。

いうまでも無く、その首謀者は勇者タカアキである。


一人が始め出せば、それに便乗し名を上げようと目論むのが人間の性。

力ある転生者たちが一人、また一人、と転生者たちを逆に襲い始める。


転生者狩りたちはまさかの逆襲に混乱をきたし、狩られる側へと転落して行く。

漏れるはずの無い身内の情報が敵に筒抜けになっている、と気付いたのは組織が崩壊寸前になってからの事。


だが、転生者狩りの組織の首領は、ここまでの事態を予め想定していたようで、組織ごと切り捨て逃走を果たしていた。


場面は組織の本部。その地下通路へと移る。


「しゅ、首領様はいずこにっ!?」

「もう駄目だっ! 押さえられねぇっ―――たばっ!?」


転生者狩りの一人がふっ飛ばされ、通路最奥の鋼鉄のドアに叩き付けられた。

その飛距離、実に30メートル。

全身鎧に身を固めていなければ、激突した衝撃で死んでいた可能性が高い。


「ひぃっ!?」

「はい、通りますよ」


めこっ、という音。

肥満の勇者のチョップが鋼鉄の兜をいとも容易くへこませる。

守備を任された転生者狩りの男は鼻血を噴き出して昏倒した。


タカアキ相手に鋼鉄製の装備は心許ない。

せめて魔法金属クラスの鎧が無ければ攻撃を受けきることは叶わないであろう。


だが、たとえ受けきったとしても、今度は精神に来る攻撃が待っているのだが。


タカアキは最奥へと移動。

そこを護るのは先ほどの激突にて変形してしまった鋼鉄製のドア。

鍵が掛けられているのだが、タカアキはお構いなしにドアを開く。

開くというよりかは引き千切ったという表現が適切だろう。


べりべり、とあり得ない音を立てて機能を果たさなくなった鋼鉄のドアを放り捨てる。

タカアキは最奥の部屋へと進入を果たした。


そこは首領の部屋。

主の趣味を反映させているのだろう、ほぼ全てが金色で染め上げられている。

だが、もぬけの殻。人っ子一人としておらず。


「逃げましたか。まぁ、想定内です」


タカアキもそう簡単にメインターゲットを確保できるとは思っていなかった。

なので、最初からここに来た目的は別の場所にある。


クソデブはスンスンと鼻をひくつかせた。

これは、部屋の主のにおいを分析しているのである。


「……推定年齢、二十代後半。女性。どうやら、男遊びが好きな方のようですねぇ」


残り香で、ここまで正確に情報を割り出せるのは、この男くらいなものだ。

この推測は正しく、逃走した首領は女性。

年齢も正しく、二十六歳。

男遊びも行っている。


だが、それは男の自我を奪い自分の顔を覚えさせないようにしてから行為に及んでいる。

部屋の隅には虚ろな目をした若い男―――いや、年端もゆかぬ少年の姿。


「ショタ喰いですか。感心しませんねぇ、犯罪です」


タカアキの正義の心に灯が点る。


タカアキにとって、幼き者は男女問わず尊いものなのだ。

それを穢す輩は断じて許すわけにはいかない。


部屋の最奥には、ぽっかりと開いた穴が確認できる。

タカアキは、そこに近寄った。


「隠し通路……ここから逃げた、と考えて良さそうですね」


広さは大人の女性がギリギリ通れる程度の広さ。

流石のタカアキもここを通るのは厳しい。


「どうやら、ここまでのようですね。ですが―――においは覚えましたよ」


タカアキの変態的嗅覚は王都ルネイサの全域をカバーする。

人を隠すのは人の中、を行えば、たちまちの内にタカアキに捕捉されてしまうだろう。


首領は小賢しく用心深い。

相手がタカアキ以外であれば、この手法は十分過ぎるほど効果を発揮したことであろう。


だが、変態相手には分が悪い。

ここの残り香で対象を発見するなど犬でも難しい。

それほどまでに、においが入り混じっているのだ。


しかし、タカアキの嗅覚は的確に、においを分別し記憶する。

咽かえるかのような香の匂いに混じる男女の分泌液の臭いすら区別できるのだ。


「さぁ、追い詰めましょうか。悪は決して許すわけにはいきません」


タカアキは急ぎ、元来た道を引き返す。

地上へ出てにおいを辿るためだ。






ところ変わり、王都ルネイサの中央区。

人で賑わう市場の中に、転生者狩りの首領の姿があった。


しかし、その姿はタカアキが推測したものとは大きく異なっている。

背丈は七歳程度しかなく、女性らしい隆起は一切無い。

穢れの無い白い肌は、男遊びなどまったく知らない事を証明しているかのようだ。


身に着けている服も正しく幼児のそれ。

子供が好みそうな少し派手な色合いの半袖、ミニスカートだ。

日に当てられ若干透き通って見える青の長髪はツインテールで纏められていた。


顔の作りはややきつめなのだが、将来は純分過ぎるほど美人になるだろう、と容易く予想できる。

だが、現在はそのきつめの顔を歪ませており、子供とは思えぬほどの鋭い表情へと変貌させていた。


大きな目に納まる瞳の色は赤。

赤というよりかは黒に近い。

近いところで言えば鮮血の色。

見ようによっては禍々しさも感じられる色合いである。


「(ちっ……想定外だったわ。折角、軌道に乗ったお遊びがご破算になっちゃった)」


転生者狩りの首領はしかし、気持ちを切り替える。


元々は【暇潰し】のために作り上げた組織だったのだ。

それは失おうと失うまいと、どうでもよかった。


ただ、想定外だったのはタカアキの強さ。

規格外というに相応しい理不尽な強さは、転生者狩りの頭領に危機感を覚えさせるには十分過ぎた。


「(あのクソデブ……対策無くして正面からやり合うのは危険だ。なんとかして弱点を見つけ出さないと)」


ツインテールの少女は爪を齧る。

ギリギリと噛み締めたそれを食い千切る、とそれは粘液のように糸を引いた。

それは彼女の唾液であっただろうか。


しかし、それを確認させる前に彼女は次なる行動へ移る。


「(追いかけてきた!? まさか、偶然――――!?)」


いや違う、確実にこちらに迫ってきている。

しかも一直線、一切の迷いも無い気配の動き。

頭領の少女は慌てず焦らず、タカアキとの距離を保つことにした。


ある程度、距離を保っていればいつか諦めるだろう、と踏んだのだ。



だが、タカアキは呆れるほどに忍耐強い男である。

この忍耐強さはコミケで培われたものなので、そう易々と破綻するものではなかった。

真夏の炎天下であっても、お目当ての薄い本を手に入れるまで我慢できるオタクの根性を舐めてはいけない。


「(し、しつけぇっ!? もう二時間は追いかけて来てやがるっ!)」


頭領の言葉遣いが乱暴になり始めた。

流石にここまでしつこいと、そろそろ直接やり合った方がいいのでは、と短絡的な思考に侵され始める。

だが、それは得策ではない、と理性が少女を諫めた。


「(くそ……いっそ、連中の下に逃げ込むか? 巻き込んでしまえば五対一だ。万が一も発生しないが――――)」


大きな借りを作ってしまう。

それはそれで面白くない。


ならば―――と頭領は自分の分身体を無数に生み出す。

股間より、ボトリと粘液上の塊が地面に落下。

それはたちまちの内に膨張し、頭領と瓜二つの少女へと変化した。

それを三体ほど生成し、それぞれ別の方角へと歩かせる。


「(これなら、奴も惑わされるだろう)」


しかし、頭領の意識には急ぎ足でこちらに向かってきている巨漢の姿を捉えていた。

分身体の視覚を通し、タカアキが通りずぎていったのを確認したのである。


「(分身体には目もくれないか。確実にあたしの本体を捉えている)」


少女は覚悟を決め、タカアキと直接、やり合う事に決めた。

場所は丁度、南区のスラム街。その開けた場所に出たからだ。


ここであるなら、多少の被害があっても文句は言われないし、目撃者も手軽に消してしまえる。

頭領にとっては恰好の場所。


そこにて目標が到着するであろう僅かな時間いっぱいを使って仕込みを行う。

頭領にとって十分とは言えないものの、タカアキに通用する可能性のある罠を無数に仕込んだ。


彼女は腕を組み、余裕のある態度をもって変態勇者を向かい撃つ。


「追い詰めましたよ、お嬢さん」

「幼児を追いかけて喜ぶか―――変態め」

「ふふ、あなたを幼児と呼ぶには老け過ぎです」


どこまで見抜いているのだ、この男は。

表情には出さないものの、頭領は戦慄を覚えていた。


「さて、そろそろお仕置きの時間です。ガタガタ震える準備はよろしいですか?」

「その言葉、そっくりそのままお返ししよう。もっとも―――」


そんな暇も与えはしないが。


頭領は、その言葉を思い浮かべる前に仕込んでいた罠を発動させた。

殺すと決めた瞬間、既に行動は終っているのだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 決戦の幕が… 衛兵「詳しい話は詰め所の方で…」 タカアキ「はい…」 頭領「流れ作業過ぎて罠を発動させる スキがなかった…」
[一言] 自分の複製を生むとかこいつすげえ変態だぜ。
[一言] いや? この人は「殺すと決めたら」ブーメランになるの、間違いでは!? ガクガクブルブル…
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