10話 女体化の呪い
タカアキがセドックに相談した内容はこうだ。
どうしたら、幼女を魔法少女にできるか―――。
「ふむ……興味深いね」
「興味深いね、じゃねぇだろ」
セドックにローランドのツッコミが突き刺さる。
しかし、セドックは割と乗り気である。
決してロリコンではないが、彼は魔法馬鹿。
魔法で武装した幼女、というコンセプトを聞かされて興味を示さないわけも無く。
加えて最近、幼女誘拐事件が発生したばかりである。
幼女の自衛という観点からも、セドックは関心を持ったのである。
「しかも、テイマーの話じゃなかったのかよ」
「はっ、そうでした。私としたことが、うっかり」
セドックの指摘に、タカアキは見たくもない、てへぺろを披露する。
無論、この相談はわざと間違えた。本命はこれからする。
「さて、本題はここからです。実はゼステルという少年の象さんがワニさんになってしまった、という珍事が発生してしまいまして」
「うん? 象さんがワニさん?」
「これより詳しく説明すると超常現象が発生し、この世が崩壊します」
「いやいや、そんな怖い案件なんて耳にしたくないよ」
「すみません、もっと簡単に説明するべきでしたね。要は男の娘がマジもんになってしまったのです」
「なるほど、わからん」
タカアキの説明は少々、分かり難い、ということでちゅん子が代わりに説明。
この勇者は特殊性癖の持ち主でありオタクという事もあってか、漫画やアニメに出てきた展開が発生すると少々、いや、むっちゃ自制が効かなくなる。
ゼステル少年がタカアキと共に魔女の森へと進入した際、タカアキの突撃の衝撃の余波で吹き飛ばされた。
その際に奇妙な色をした池に着水、その時から身体に違和感を感じるようになった、という。
しかし、当時は従者を早く発見したい、という焦燥感に駆られていたため放置してしまった。
だが、それは間違いであり、致命的な状況へと追いやってしまう。
誘拐事件が一段落し、宿に戻ったゼステルは衣服を取り換えた。
その際はまだ、男性器は健在。まったく異常無しの状態だった。
それが、悲劇を加速させる。
見た目には異常はなかったが、確実に異常は発生していたのだ。
従者を救出し安堵したのか身体が火照っている。
池に落ちたのだから風邪でも引いたのだろう。
安易な気持ちでベッドへと潜る。
疲労が溜まっていたのでゼステルは直ぐに眠りに落ちた。
睡眠時間は魔法抵抗力が一番減衰する時間だ。
だからだろう、魔女の呪いはゼステル少年の肉体情報を書き換えに成功。
そう、彼が落ちた池は、男だけ性別を変えてしまう恐ろしい池。
元々はショタっ子を幼女に変えるために作られた池なのだ。
若さだけなら男の子でもいいのでは、と思われるが魔女クリスティーネは変なこだわりがあったもよう。
ただ、ゼステル少年は転生者なため、微妙に魔法抵抗力が高く、女体化は実に緩やかに進行することになる。
彼は無実の罪で投獄されたタカアキを釈放すべく、足蹴く衛兵の詰め所を訪れる。
そこには実にリラックスしたタカアキがいるわけだ。
最早、実家のような安心感すら覚えている彼に呆れつつ、衛兵に詳しい事情を説明。
それを、一週間ほど繰り返す。
その間にも女体化は進行するのだが、彼はそれに気付かなかった。
というのも、彼のおっぱいは実にささやかだったのだ。
そして、小賢しいことに、女体化の呪いは股間部を最後の仕上げに取って置き、一気に変えてしまう作戦。
その作戦は呆れるほどに有効であり、気付いた時には工事完了。
打つ手無し、の状態となっていた。
朝目覚めたゼステルは股間の異変に気付き、慌てて全裸に。
何故、全裸になったかは不明。
きっと、そういうお年頃だったのだろう。
そして、ツルツルになった股間部を目の当たりにして悲鳴。
その声も女性のものになっており、更に悲鳴。
女体化したのに大平原な胸に悲鳴。
そして、宿屋の女将に叱られて悲鳴を上げた。
もう踏んだり蹴ったりのゼステル元少年だ。
だが、彼の褒めるべき部分は、すぐさま事情をタカアキに打ち明けた事。
本人的には、藁にも縋る思いだったのだろう。
お人好しのタカアキは無論、ゼステルの呪い解除に協力する旨を伝える。
しかし、彼は豚箱に入っている身だ。
だが、そこは事情を一緒に聞いていた衛兵さんが気を利かしてタカアキを釈放。
彼女的には牢屋を彼一人で埋めたくない、という事情もあったりする。
そして、今に至る。
「というわけでちゅん」
「ほうほう、興味深いねぇ」
セドックは顎を擦りながらニヤリと悪い笑みを浮かべた。
「なるほど……呪いというアプローチもあったか。だが、それは副作用が強そうで常用するには幾つもの改良が必要そうだね」
「まぁ、そうですが……解呪だけでいいのですよ?」
「解呪するだなんてとんでもない。素敵なサンプルじゃないですか。いいですか、世の中には女性として生まれたかったの男性も多いのです。これは、彼女らの苦痛を開放する手段の一つになり得るのですよ」
ここで、セドックの悪い癖が出た。
言っている事は分かるが、それとこれとは話が違う。
「ううむ、言いたいことは分かります。それならば、直接、本人と交渉するべきでしょう」
「ふふ、話が早いね。流石はタカアキさんだ」
タカアキは上手く乗せられたかな、と理解しつつも、ゼステルの呪いを解くにはセドックの助力を仰ぐのが最適解との見解を示す。
「呪いで女にねぇ……寧ろ、そのままでいいんじゃねぇのか? それともブスなのか?」
「いいえ。ゼステル君は可愛らしい女の子になりましたよ、ローランドさん」
「じゃあ、それでいいじゃねぇか」
「ところが、そういうわけにはいかないのです。彼の従者が割と暴走しそうで」
事はそう簡単ではなかった。
もし、ゼステルの従者がゼステルの性別に感心が無ければ問題は発生しなかった。
しかし、最上位の従者、特に守護獣士は人間形態であれば間に子を設ける事が可能。
その守護獣士がことごとく雌だったのが話を難しくした。
「彼は優れたテイマーでして、特別な女性たちを従者としていたんです」
「あ? 獣じゃなくて女を従者にしてやがんのか?」
「ざっくり、ぽっきり、しっとりと説明すれば、そんな感じです」
「なろぉ……一発、ぶん殴ってやろうか」
「今は女の子なので勘弁してあげてください」
憤っているローランドを諫めるタカアキは早速、ゼステルとセドックを対面させるべく彼の宿を訪れる。
可もなく不可も無く、というランクの宿屋。
中堅当たりの冒険者もチラホラと窺えた。
「ふむ、ここですね」
話に聞いていた部屋のドアをノック。
すると、中から慌てた声が聞こえてきた。
「ど、どちらさまですかっ!?」
「どうもタカアキでございます」
「ちょ、ちょっと待っててくださいっ!」
バタバタ、ガタン、ガシャン、というのっぴきならない物音が聞こえる。
こんな音を聞かされては、勇者としての使命感が無駄に発動するのは必然。
「ひゃあっ! 我慢できませんっ! 大丈夫ですか、ゼステル君っ」
タカアキはドアを蹴り破り、内部へと突入。
そこに待ち受けていた光景とは。
「―――あ」
なんという事でしょう、そこには全裸のゼステルの姿があったではありませんか。
それなりに鍛えられていた胸板は、極僅かに膨らんだ脂肪が独占。
元々付き難かった筋肉の代わりに女性特有の柔らかなもち肌が。
身体は丸みを帯びており、男性らしさは完全に皆無。
ムダ毛なども一切消滅しており、実にビフォーアフターな美少女ゼステルがそこにいた。
「ひゃ……ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!」
「おぉ、これは眼福」
ここで、慌てて言い訳をせず、堂々と構えるのが勇者流。
流石は格が違う男である。
というかゼステルが女の子過ぎる。
いったいどうした。
「こんの変態がっ!」
「ゼステルは渡さないっ! この子はうちの子よっ!」
「あー、豚の人だわん」
守護獣士の情け容赦のない急所攻撃!
タカアキは股間に114514のダメージ!
タカアキは倒れた!
「おぉ、そこはいけません。私でなければ死んでいたでしょう」
「知るかっ!」
「というか、もう回復してるっ!?」
タカアキは結構なダメージを受けたが、この場面はギャグ場面。
恐るべき回復力を発揮し股間へのダメージを無かったことにした。
「タ、タカアキさんっ。待っていてくださいと言ったじゃないですかっ」
「すみません、物々しい音に勇者的使命感がオートアクションしてしまいました」
「そ、そうなんですか」
顔を真っ赤にしたゼステルは、しかし、もじもじした後に問うた。
「……あの」
「はい、なんでしょう」
「僕の裸、どうでした?」
「ふむ……(ここは差し当たりの無い返事を―――ならばこれですね)」
質問の意図するところは良く理解していないが、タカアキは差し当たりの無い返事を返すことにした。
「直ぐ押し倒して、ぐへへ、したくなるくらいには魅力的でした」
「―――っ! そ、そそそ、そうでしゅかっ! ふひっ! ぐひひっ!」
どこが差し当たりの無い返事なのであろうか。
しかし、返ってきた返事は不気味なもの。
タカアキはすぐさま呪いによる副作用ではないかと疑いを掛ける。
ならば行動は早い方が良い。
「はっ!」
「ほぎっ!?」
タカアキはゼステルに当て身を喰らわせた。
ただでさえ貧弱なゼステルは女性になったことによって更に貧弱に。
そのようなものだから、簡単に気絶してしまった。
「こうしてはいられませんっ! 呪いによる邪悪化が始まっています!」
「「「ええっ!?」」」
まったくもって勘違いなのだが、急いだ方が良いのは間違いない。
「とうっ!」
タカアキはゼステルを抱きかかえ、窓を破って外へと飛び出した。
どう見ても強盗誘拐犯である。
というか、何故、そこから出ようと思った。
「ちょ―――!? せめて服をっ!」
守護獣士たちの声はタカアキに届くことはなく。
結局、ゼステルはスッポンポンのまま、ダッチ荘まで運ばれたのであった。
私の小説には欠かせないイベントっ。




