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地獄姫 〜初期ポイントを容姿に全振りしたら、とんだクソザコナメクジに生まれ変わってしまった〜  作者: 相舞藻子
ソロモンの夜 Ver.1.41421356237

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青春狂想






 輝夜たちの学校にやって来た2人の転校生、アリサとランス。


 彼女たち、”バルタの騎士”と呼ばれる者たちが、今までどのような戦いを繰り広げてきたのか。

 それはとても、昼休みの時間だけで語り切れるものではなく。

 残りは、また別の機会に聞くことに。


 その後、帰りのホームルームにて。




「はい! それでは皆さん、そろそろ種目の最終決定をしたいと思います」




 来たるイベント、体育祭。

 その参加種目を決めるべく、担任が楽しげに声を上げていた。




「では次、”男女混合二人三脚”を希望する人は挙手を――」


「――はい!!」




 どのクラスメイトよりも早く、そして元気に。

 ”輝夜”は手を挙げた。


 白く美しい手を、高らかと。




「えっと、紅月さん? 男女混合ペアだから、一緒に走る人が必要なんだけど」


「いえ、ペアはちゃんと居ます」




 輝夜は何一つ動揺した様子はなく。

 どうやらすでに、二人三脚の相手を決めているようで。




「……」




 それを眺めながら、善人は複雑な表情をしていた。

 なぜなら自分は、その事を知らないから。


 つまり彼女は、自分以外の誰かを誘い、すでにペアを組んでいるのだろう。



 ”自分以外の、誰か”と。



 そう思っていると。





「花輪善人、あいつと一緒に出るので」


「……え」





 善人は、勝手に強制参加させられていた。









◆









 学校終わり、日が傾きかけた時間帯。

 そよ風の心地よい河川敷に、輝夜と善人の2人はやって来ていた。



 デジタルに特化された現代社会。外で遊ぶ子供の数も、それほど多くはなく。広い面積は、走ったりなどの運動にはピッタリである。

 ゆえに輝夜は、ここを”練習場所”に選んだ。




「よしっ、やるぞ!」


「お、おー」




 なぜ、輝夜は選択種目を二人三脚に選んだのか。

 それは当然、黒羽に入れ知恵されたからである。


 今回の二人三脚は、”男女混合”。まだ学校に馴染んだばかりの、高校1年生の男女。紆余曲折あってペアになったとしても、”それほど熱心に練習を行うペア”は居ないだろう。


 なにせ、男女のペアなのだから。


 もしも仮に、その男女がカップルであったのなら。気軽い感じで、放課後に練習を行えるかも知れないが。この体育祭の、この二人三脚で、一体どれほどそんなペアが居るのだろう。


 少し仲が良い、その程度の男女ペアなら、そんな気軽に練習を行ったりはできない。体を密着させる競技である以上、それだけで気恥ずかしさを抱いてしまう。

 その微妙な距離感、”青春”を演出するために生み出されたのが、男女混合二人三脚であった。


 だがしかし、輝夜は違った。


 他の男子生徒とはほとんど話したことがないものの、善人は別である。

 地面がひっくり返っても、恋人などという関係ではないが。自分の都合で、いくらでも言う事を聞かせられる男。それが善人であった。




「あの、輝夜さん。これってもしかして、毎日やるんですか?」


「ああ、もちろん。嬉しくてたまらないだろう?」


「……そ、そう、ですかね」




 体育祭まで、およそ2週間ほど。それまで毎日練習を行えば、一体どれほどの練度になるであろう。


 純粋な身体能力、スタミナだけでなく、コンビネーションを大切とするこの競技。この競技なら、魔力無しの自分でも活躍できるはず。

 輝夜はそう確信したからこそ、善人をパートナーに、二人三脚を行う道を選んだ。


 この体育祭で、自分でも勝てる可能性があるのは、”この競技しかないと”。




「マーク2に調べさせたところ。とりあえず最初は、足を結ばずに練習する方がいいらしい。下手にやると、怪我をする可能性もあるからな」


「了解です」




 確かに、始めは驚いたものの。

 善人は冷静になると、全くもって断る理由が浮かばなかった。


 たとえ、”都合がいい”という理由で、自分が選ばれたのだとしても。

 体育祭で、輝夜と二人三脚を行える。しかもこれから毎日、放課後に練習ができる。


 ゆえに、絶対に期待を裏切ることはできない。

 これから毎日練習をして、彼女を勝利に導いてみせる。


 善人も、本気であった。




「遠慮せず、腰をしっかり持てよ」


「は、はい」




 だがやはり、これは二人三脚。

 輝夜と軽く抱き合うというのは、善人にとって中々に刺激的なものであり。




「頑張りましょう!」




 新しい青春の1ページが、ここに始まろうとしていた。








◇








――いちに、いちに、いちに。




 夕焼けに染まる河川敷を、2人の男女が二人三脚で走っていく。

 真剣な表情で、より速く、より効率的に。

 より息を合わせるように。



 暫くの間は、それでモチベーションが保つ2人であったが。



 冷静に考えて。高校生の男女が、放課後に何をしているのだろうか。

 そう思った瞬間、




「……疲れた」




 輝夜の足が、ここに来て止まってしまう。


 とはいえ、あまり足に負担もかけられないので。一旦、2人は休憩をすることに。




「ふぅ」




 涼しい河川敷の坂で、風に当たりながら、輝夜はほっと息をつく。

 これくらいの運動が、素の輝夜にとってはちょうどいい疲労感であった。



 ほのかに汗ばんだ肌に、風が心地よく。

 これ以上ないほどに、”青春っぽさ”を感じる。


 輝夜も善人も、そこは同じ感想を抱いているようで。

 両者の間に、無駄な言葉は不要であった。




「……」




 しばらく風に当たりながら。

 輝夜は自分の足を、セルフでマッサージする。


 いつもなら、お隣の少年にでもさせるのだが。

 流石に汗もかいているので、輝夜にも羞恥心というものが働いていた。




「足、大丈夫ですか?」


「あぁ。この程度なら、問題ないよ」




 5年間のリハビリ生活を経て、輝夜は自力での歩行能力を手に入れた。

 その間に、疲労骨折をした数はどれほどか。

 輝夜は何となく、自分の体の限界というものを理解していた。




「そういうお前は、疲れてないのか?」


「そうですね。まぁ、これでも結構鍛えてるので」




 そこそこ汗をかいた輝夜と違い、善人は息も切らさず、特に疲れた様子もなかった。

 鍛えているという言葉も、どうやら嘘ではないらしい。





 心地よいそよ風が、輝夜の髪をなびかせ。


 汗ばんだ身体が、程よい感じで冷やされていく。





「……なにか。タオルかハンカチくらい、持ってくればよかったな」


「輝夜さん、そういうの持ってないんですか?」


「まぁ、そうだな。他の女子は、結構持ってるイメージだが」




 思い返してみれば、輝夜はそういったものを学校に持ち込んだことがなかった。




「体育の時間とかになるとな? 一部の女子が、わたしに毎回タオルを貸してくれるんだよ。これを使って〜、みたいな感じで」


「へぇ」




 体育の時間は、女子と男子で分けられているため。善人はそれを知らなかった。




「ちなみに。その、輝夜さんが使い終わったタオルって、その後どうしてるんですか?」


「……いや、な」



 輝夜は、少し複雑な表情をする。



「わたしも最初は、洗って返すと言ったんだが。なんかあいつら、凄いこだわりが強いというか。”自分の家の洗濯機しか信用してない”、とか言って。絶対に持って帰るんだよ」


「……そう、ですか」



 何ともいえない理由に、善人も言葉を失う。



「その人って、もしかして。結構、アレな人というか。輝夜さんの”使用済みタオル”を手に入れるのが、目的だったりしないですかね?」


「……いやいや、そんなまさか」




 あり得ないと、輝夜は否定するも。

 勘が良いのは、善人の方であった。




「もしもそうだったら。わたしは変態のクラスメイト相手に、ずっと使用済みタオルを渡してきた、”マヌケ女”ってことになるぞ?」


「で、ですよね」




 残念なことに。

 輝夜は、マヌケ女に該当していた。






「……ちなみに。フリマアプリとかで、わたしの使用済みタオル、いくらで売れると思う?」


「輝夜さん!?」




 それはもう、完全にアウトな考えである。




「額によっては、結構な小遣い稼ぎになると思わないか?」


「いやいや、その。法律的に、というか。倫理的にダメというか。……そもそも輝夜さんのお家って、お金持ちじゃないですか?」


「まぁ。確かに、欲しいと言ったものは、だいたい買ってもらえるけど。それと小遣いは、また別というか」



 輝夜にも、”お金が欲しがる理由”はあった。



「買ってもらえるのは、舞が”いい”って言った物だけなんだよ。つまり、舞が許可してくれない物は、自分の金で買うしかない」


「……舞さんが許可してくれないって、例えばどんな?」


「それは、まぁ……」




 善人の問いに、輝夜は無言で。

 ただ、遠くの空を見つめていた。




「今のところ、ダメと言われた物は存在しないが。……”いざという時のために”、備えは必要だろう?」


「いざという時、ですか」





 そう遠くない未来。

 輝夜は”その時”が来ると、不思議と予感をしていた。




 アモン曰く、輝夜の命を蝕む呪いは、”サタン”という正体不明の悪魔によって刻まれたらしい。


 魔力の恩恵、ナノマシンによる抑制があっても、輝夜の命は保って数年。

 それまでに、元凶であるサタンを見つけ出し、呪いを打ち消す必要がある。


 ”紅月輝夜として”。

 この先の未来を生きるのであれば、それは避けては通れない道。




「……」




 この姫乃の地を飛び出して、”呪いを消すための旅”に出る。

 それこそ、輝夜が誰にも話していない、人生最初にして、最大の目標であった。


 そのためにも、軍資金はいくらあっても足りないくらいである。




「ちなみに輝夜さん。もう結構、貯金とか貯まってるんですか?」


「……」




 その問いに、輝夜の瞳から光が消えた。




「前に、な。ドロシーに、店とかで食事をしたいときは、わたしの金を使っていいぞって、財布を渡したら、その……」




 輝夜は今でも、その時の判断を後悔している。




「1日で、空っぽになって返ってきたんだ」


「……そ、そんな」




 一体彼女は、どんな場所で、どれほどの物を食したのだろう。

 輝夜は、魔王という存在を舐めていた。




「まぁ、それ以来。あいつは魔界の金を両替して、こっちで使ってるらしい」


「あっ、そんなこと出来るんですね」


「ああ。……わたしの金が無くなる前に、言ってほしかったな」




 今さら、使った分を返してくれとは、プライド的に言うことができず。

 輝夜は今現在、お小遣い待ちの状態である。


 しかし、毎月のお小遣いを全て貯めていっても、その額はたかが知れている。

 ゆえに、輝夜はお金を欲していた。




「もし仮に。わたしの使用済みの下着だったら、どれくらいの値がつくと思う?」


「……輝夜さん」




 プライドはともかく、倫理観はどこへ行ってしまったのか。




「そんなこと、友達としても、容認できませんよ」


「うむ。……いや、絶対に需要はあると思うんだよ。むしろ、あり過ぎるというか」




 輝夜は静かに、微笑みを浮かべる。





「例えば。”お前なら”、いくらで買う?」


「……え」





 小悪魔のような微笑み。

 蠱惑的な囁き。


 唐突に自分に向けられた、彼女の瞳に。

 善人の呼吸は、思考は、活動不能になって。






「――ぷっ、バーカ。真剣(マジ)に考えるな、冗談だよ」


「えっ、あ」






 善人は、見事に弄ばれてしまった。




「ふふーん」




 輝夜は、自らの美しさを知っている。

 頂点であると理解している。


 なにせ、自分という人間の中で、”唯一”と言っていい長所なのだから。

 他の全てが最底辺でも、ビジュアル面では負けられない。


 確かに、楽に金は稼ぎたいが。

 自分を安売りするほど、輝夜は愚かではなかった。




「そもそも、”気高いプライド”を持つわたしが、そんな恥知らずなことをするわけないだろ」


「確かに、そうですよね」




 プライドはともかく。

 ”知性”というか、”隙”はいくらでもありそうなのだが。




「……」



 そういった面から、善人は心配でたまらなかった。








 冗談交じりの雑談に、花を咲かせる2人であったが。


 輝夜のスマホに、通知が1つ。




「ん?」




 メッセージか、それともアプリの通知か。

 何となく、輝夜はスマホの画面を開き。




「……」



 そこに表示されていた内容に、眉をひそめた。









◆









「じゃあ輝夜さん、また」


「あぁ、またな」




 とても元気に溢れているようで。

 善人は爽快な足取りで、河川敷を後にしていく。


 帰宅がてらのランニング。輝夜には難しい行為なので、少し羨ましそうに見つめて。


 しばらく、そうしていると。




 輝夜のそばに、契約悪魔が1人。

 ドロシー・バルバトスが、その姿を現した。




 輝夜とドロシーは、無言で意思の疎通を行い、”その時”を待つ。


 先程、輝夜のスマホにきた通知の内容は、ソロモンの夜に関するもの。





『”マドレーヌ・クライン”から、悪魔バトルを申し込まれました』





 いくつかの疑問が、脳内の中に浮かんだものの。輝夜は取り乱すことなく、善人との特訓を終えて。

 そして今、この場所で対戦相手を待ち受けていた。



 悪魔バトルを挑んでくる人間。それすなわち、遺物(レリック)保有者(ホルダー)。

 この街に居る遺物(レリック)保有者(ホルダー)は、ほぼ全員が輝夜の身内、味方関係の人間である。

 それを除けば、新しくこの街にやって来た、”バルタの騎士”しか存在しない。



 ならば、バルタの騎士の一人が、自分に悪魔バトルを挑んてきたのか。それだけでも、十分に疑問を抱くことだが。

 問題は、対戦相手の名前である。


 ”マドレーヌ・クライン”。


 どんな相手なのか、輝夜には想像もつかないが。マドレーヌという名前には、少々覚えがあった。




 アリサの回想話にも登場した遺物(レリック)保有者(ホルダー)。

 アリサを最初に襲ったという、赤毛の少女。


 もしもこの対戦相手が、”その話の人物”だとしたら、また疑問が湧いてくる。


 だがしかし、今考えても仕方がない。

 たとえ、どんな敵が相手でも。戦って勝てば、何の問題もないのだから。


 隣りにいるパートナーは、それを100%可能にしてくれる。

 そんな自信から、何の不安も抱かない輝夜であったが。




「ねぇ」


「うん? どうかしたか?」




 頼れる味方、最高戦力。

 そんなドロシーが、いつもと変わらない瞳、いつもと変わらない声で、輝夜に問いかける。





「――もしも、もしもの話よ? もしもわたし達の”運命”が違って、敵同士の関係で出会ったとしたら、どうなっていたかしら」


「……どういう、意味だ?」





 不意に来た質問。

 しかしその内容は、輝夜の想定、理解の外にあるものであり。


 戸惑い、体がこわばる。





「そうね。なら、違う言い方で。――”今回とは違う出会い方だったら”、どうしたかしら」


「……え」





 今回とは、違う。

 今回とは、どういう意味か。


 輝夜はそれを知っている。




「それ、は」


「……」




 いつもと変わらない、ドロシーの瞳。

 けれどもそれは。


 まるで、”全てを見透かしている”ようで。

 




「お前、まさか。前回の記憶が――」






 輝夜が問おうとした、その瞬間。


 ”空の色”が、変化した。





 空というよりも、世界というべきだろうか。

 周囲一帯の、雰囲気が変わるような。



 空が青く染まり、何かがこの一帯を包み込んでいく。




「これは?」


「……多分、月避けの結界ね。ある程度”力のある悪魔”なら、可能だと聞いたことがあるわ」




 輝夜とドロシー。


 確実に、話すべきことがある。

 それは紛れもない事実だが。


 今は、目の前の問題に対処する必要があった。






「……来たか」




 河川敷へとやって来たのは、輝夜の”想像していた通りの人物”であった。




 ”真っ赤なツインテール”が特徴的な、中学生程度の少女。


 不良が木刀を持つかのように、月避けの傘を肩にかけ。


 敵意剥き出しの表情で、こちらを見つめている。




 ソロモンの夜を開き、間違いないと確信。

 彼女こそが、今回の悪魔バトルの相手。


 マドレーヌ・クラインである。




「さてと。やっちまおうぜ、”ウヴァル”」


「――おぅよ」




 アリサの言っていた話と、全く同じ。


 マドレーヌのパートナーであろう悪魔。

 くすんだ赤髪の青年、ウヴァルがその姿を現した。


 ひしひしと感じられるプレッシャーは、紛れもなく”魔王級”。




「……中断させずに、最後まで聞けば良かったな」




 今さらながら、輝夜は昼休みのことを後悔する。



 アリサの回想話が確かなら、目の前に現れた2人は、彼女と戦ったはず。

 戦ったのならば、どちらかが勝者で、どちらかが敗者になるはず。



 アリサが敗者なのはあり得ない。

 なぜなら、彼女は未だに遺物(レリック)を所有し、魔王グレモリーと契約しているのだから。



 ならどうして、マドレーヌとウヴァルというペアが、未だにこの世に存在し。

 そして今、自分たちに勝負を仕掛けているのか。



 分からない。

 今の自分には、分からないことが多すぎる。





『――これより、悪魔バトルを開始します』





 日が完全に落ち。

 人気の無くなった河川敷にて。




 心揺れる輝夜のもとに、新たな脅威が襲来した。






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