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地獄姫 〜初期ポイントを容姿に全振りしたら、とんだクソザコナメクジに生まれ変わってしまった〜  作者: 相舞藻子
偽りの主人公

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白銀同盟(二)

感想、誤字報告等、ありがとうございます。






「どうだ紅月、俺の集めた情報は」


「……何だこれは。ウィキから引っ張ってきたのか?」




 ユグドラシル上にある、紅月家のホームネットワーク。

 そこで、朱雨は学校の友人を集めて、とある調べ物をしていた。


 集まったメンバーは、朱雨を入れて3人。

 片目を包帯で隠したちょっと”イタい男”と、フードで顔を隠した”謎の少女”。

 どういう集まりなのか、心配になる面子である。




「あの、紅月くん。関係あるのかは分からないけど、最近、”電子精霊”っていうのが流行ってるらしくて」



 フードの少女が、朱雨にスマホの画面を見せる。




「ああ、そういえば、そんなメールがあったな。ただの詐欺メールじゃないのか?」


「えっと、実はこのページを開くと――」




 ネットワーク上ながら、現実と変わらない様子で朱雨たちは交流していた。

 そんな紅月家のホームネットに、この家の”本来の住人”がやって来る。




「おお、友だちか? なかなか、……個性的なメンバーだな」




 扉を開けてやって来たのは、輝夜のアバターだった。

 現実と変わらない容姿で、服装は白のTシャツのまま。


 突然の輝夜の出現に、部屋の面子は驚きを隠せない。




「紅月、その人は誰だ?」


「……ちょっと待ってろ」




 片目包帯の男が尋ねるも、朱雨には答える余裕がなく。

 ”玄関”へと向かう輝夜を、先回りして制止する。




「おい、ちょっと待て。どこに行く気だ?」


「ゲームの集まりだよ。いわゆる、オフ会ってやつか? ”こっち”なら足も折れてないし、どこに行こうと勝手だろう」


「いや待て。お前、その格好のまま行くのか?」


「まぁ、こっちの服は持ってないからな」




 輝夜は初期アバターから何も弄っていない。本当に、Tシャツを着た輝夜そのものである。




「あの、紅月くん。その人が、前に言ってたお姉さん?」


「……悪いが、少し黙っていてくれ」




 この格好のまま、輝夜はゲームの集まりに行こうとしている。

 たとえオンライン上とはいえ、朱雨には看過できなかった。




(なにか服を買わせるか? いや、ゲームのオフ会なんて9割が男の世界だ、そんな場所にこいつを放り込むのは危険過ぎる。服装は大した問題じゃない。……いや待てよ、流石に”この顔面”なら、作り物のアバターと判断されるか? ネカマアバターは普通にいるだろうし、こいつもその一種だと。――いや、だとしても)




 一瞬の内に思考を巡らせ、朱雨は”最善の策”を導き出す。




「少し待ってろ。俺が衣装をプレゼントしてやる」


「おおー、気が利くな。わたしも、流石に初心者丸出しは恥ずかしかったんだ」





 朱雨は、自身の所有する”衣装”を輝夜にプレゼントした。

 早速、輝夜はそれを着てみるものの。





「……なぁ、おい。これで本当に大丈夫なのか?」


「ああ。ゲームのオフ会なんて、こんな感じの奴ばっかだ」




 身に着けた衣装に戸惑いながらも、輝夜は何とか歩行を行う。

 朱雨の友だち2人は、その”異様な姿”に言葉を失っていた。




「じゃあ行ってくる。君たち、弟と仲良く――」


「いいから、さっさと行け」




 玄関を通って、輝夜は別のエリアへと転移した。

 紅月家のホームネットには、再び静寂が訪れる。




「おい紅月! お前、あんな人と暮らしてるのか!?」


「今のって、本当のお姉さん? 実は血が繋がってなくて、結婚できるみたいな話じゃ無いよね?」


「……くそ」




 もうここに、友だちを呼ぶのは止めよう。

 朱雨は、そう心に決めた。

















 ユグドラシル上にある喫茶店、アイム・アライヴ。


 脳に信号を送り、味覚すらも再現可能なユグドラシルにおいて、こういった喫茶店は珍しいものではない。

 内装は現実の喫茶店とほとんど変わらず、大人数をさばくために複数のルームが存在する。


 その中の、ルーム66では。ERゲーム、アルマデル・オンラインのオフ会が行われていた。




「こいつ、一人で”タートクス”と戦って、粉々に壊されてんだよ」


「マジで? 全ロスト?」


「ソロで戦う相手じゃねぇよ」




 数十人というプレイヤーが集まり、ゲームの会話に花を咲かせていた。

 ユグドラシルにおけるアバターは、基本的には現実と同じ人間型である。初期アバターとして、記憶から読み取った現実の素顔を与えられるが、見た目や性別の違うオリジナルのアバターも製作可能。当然、ある程度のお金は必要だが。

 声なども自在に変更可能であり、いわゆるネカマ行為も非常に高い精度で行うことも出来る。

 喫茶店の中には、何人か女性のアバターが存在するが。果たして、本当にそうなのかは疑問である。


 このような不特定多数の集まりに参加する場合は、現実と同じアバターでは身バレのリスクが伴う。

 ならば、全員がアバターを変更しているのかと言われれば、そうとも限らない。紅月家に遊びに来ていた朱雨の友達のように、素のアバターにコスプレ的な変装をするのも一般的である。

 ゆえに、堂々と素顔を晒している美女は、大抵はネカマの地雷であった。




 そんなプレイヤーたちの集団から少し離れた席に、”ヨシヒコ”は座っていた。

 彼のアバターは、王冠を付けた骸骨という、ちょっとイタめのセンスである。


 ヨシヒコはここにいるプレイヤーたちと違い、ほとんどズブの素人に近い。ゆえに仲間内には入れず、入ったとしても会話についていけない。

 ヨシヒコは隅っこに座ったまま、強制参加を命じた”唯一の知り合い”を待った。





 そんなさなか、喫茶店に新たなアバターがやって来る。





「うわ、何あれ」




 身バレを防ぐために、こういった集まりの場合は、別のアバターを使ったり、顔を隠したりするのが一般的である。

 とはいえ、そういった変装にも”限度”がある。



 新たにやって来たアバターは、”巨大な大福”であった。

 いわゆる、ゆるきゃら風の衣装である。


 確かにきぐるみを着ていれば、顔を見られる心配は皆無だが。”現実的に考えて”、喫茶店にきぐるみを着てくる人間などあり得ない。



 どすどすと、巨大な大福が喫茶店の中に入ってくる。

 椅子やテーブルに、思いっきりぶつかりながら。




「誰だよ、あんなの呼んだ奴」


「ここ喫茶店だぞ?」




 我が物顔で現れた、巨大な大福。

 彼女は集まっていた他のメンバーを見渡し、隅っこにいるヨシヒコの元へと近付いていく。




「え?」




 正面にやって来た、巨大な大福。

 蛇に睨まれた蛙のように、ヨシヒコは動けなくなる。




「お前、ヨシヒコか?」


「スカーレットさん!?」




 仲間がやってきた嬉しさよりも、それが大福だった事への驚きが勝った。




「”ボッチ感”で、すぐに分かったぞ」


「……どうも」

















「それじゃあ、我らがクラン、”白銀同盟”によるボス攻略会議を開始します」




 クランのリーダーらしき男が声を上げる。

 他のメンバーたちが拍手をするものの、輝夜はきぐるみの構造的に拍手が出来なかった。




「今回の特殊個体、名前は”アーク・バイドラ”。ご存知の通り、このゲーム初となる飛行型の汚染獣で、今までの特殊個体とは――」





 リーダーの男が、討伐対象についての解説をし始める。



 アーク・バイドラは巨大な鳥のような姿をした汚染獣で、基本的に地上には降りてこない。

 獲物であるプレイヤー、ロボットを発見すると、殺すために地上に接近してくる。しかし、プレイヤー側が一定以上の人数の場合、脅威と判断して接近してこない。


 今までの特殊個体と同様に、その戦闘能力は桁違い。

 一対一でどうにかなるような相手ではなく、少なくとも討伐には10人以上のプレイヤーが必要である。


 鋭い爪やクチバシでの攻撃のほか、翼から衝撃波を発生させる力を持つ。

 その攻撃力は非常に高く、どの攻撃もプレイヤーを一撃で破壊するほどの威力がある。


 飛行型の汚染獣ということもあり、単純な防御力は今までの特殊個体よりも弱いと考えられる。

 だが、遠距離武器に対する何らかの耐性を有しており、現状の最高火力を叩き込んでもダメージを与えられない。





「襲われた際に体を掴まれて、”数百メートル”の高さから叩き落されたプレイヤーも存在する」




 男の話す内容に、他のメンバーはざわめき立つ。

 数百メートルからの落下。いくらゲームとはいえ、確実にトラウマものである。




「それで、僕たちが考えた作戦だけど――」




 リーダーの男が、メンバーたちに作戦を伝える。



 作戦の要点は3つ。



・囮


・罠


・総攻撃



 何とも”単純”で、面白みのない作戦である。






「なんだ。結局の所、おびき寄せて袋叩きにするだけか」


「まぁ、それが一番、確実ってことなんじゃ」




 リーダーの話を聞き終わり、輝夜とヨシヒコが話していると。

 そこに、一人の男がやって来る。




「――弱者が怪物を殺すには、姑息な手段しかないからね」




 やって来たのは、ヴィジュアル系バンドマンのような格好をした、黒髪の男。

 派手めな化粧で、端正な顔立ちだが、それが素顔なのかは不明である。




「お前、”アモン”か?」


「大当たり。きぐるみの君は、スカーレットだね? お隣は、ヨシヒコだったかな?」


「あっ、はい。そうです」




 まさか、自分も覚えられているとは、ヨシヒコは思っていなかった。




「ねぇ君たち、僕と連絡先を交換しない?」



 そう言って、アモンはスマホを取り出す。




「なんだ? こっちでもスマホが使えるのか?」


「ああ、もちろん。君ってもしかして、ユグドラシルは浅いのかい?」


「まぁ、今までは必要なかったからな」




 基本的にユグドラシルは、”ルナティック症候群”の患者のために創られた世界である。

 今はこうして、ゲームを楽しんでいるものの。この喫茶店に集まっている多くのメンバーは、治療のために脳インプラントを施術している。

 ルナティックでもないのにインプラントをしているのは、輝夜くらいなもの。




「現実のスマホとリンクさせれば、こっちでも同じように使えるんだよ。いわゆるミラーリングに近い。だから、普通に通話機能だって使える」


「なるほど。そいつは便利だな」



 とはいえ、今の輝夜はこちら側のスマホを持っていない。




「じゃあ、交換はまた今度ということで。代わりにヨシヒコとしておこう」


「あっ、はい」




 そうして、ヨシヒコとアモンは連絡先を交換した。







「ところで君たち、特殊個体と戦ったことは?」


「いいや、初めてだ」


「僕も、昨日始めたばかりなので」


「……ズブの素人、いいねぇ」



 何が気に入ったのか、アモンは笑みを浮かべる。



「このゲームはリアリティを追求してるから、戦闘における人数制限やルールなんてものは存在しない。だから現実世界と同じで、ある程度の人数を集めて袋叩きにすれば、大抵の汚染獣は倒せるんだ」


「とはいえ、”特殊個体”に関しては別。奴らは攻撃力、防御力ともに規格外で、プレイヤー側が一撃で壊されるのも珍しくない。体を完全に破壊されると、修理も出来ずにパーツを”ロスト”しちゃうから、みんな迂闊には手を出せない」




 コントローラーを使う、従来のゲームとは違う。あくまでも、自分自身の体で怪物を退治しなければならない。

 例えるなら、生身で戦車や戦闘機と戦うようなものである。




「だがそれでも、前回、前々回と倒したんだろう?」



「……前回の特殊個体は、”暴走列車”のように強大な個体だった。とても手を付けられるような相手じゃなくて、一時期”ゲーム性が崩壊”しかけていたよ」



 アモンは、実際に戦った時の事を語る。



「崩壊都市エリアがあるだろう? 実はちょっと前までは、まだ建物が結構残ってたんだ。でもあいつが暴れまわったせいで、全てが瓦礫の山と化した」


「でも、そういう相手だからこそ、まだ倒しようがあったんだ。こちら側がどれだけ居ようと、正面からぶつかってきたからね。だから前回の戦いでは、スクラップシティの近くに大量のプレイヤーが集まって、罠やら何やら、圧倒的な数の暴力で倒すことが出来た」




 それが、前回のボス攻略戦である。

 圧倒的な人数を用意しての総力戦。

 美しさも何もない、数の暴力による勝利であった。



 だがしかし、今回の相手はそうもいかない。

 一定以上の人数を確認すると距離を取り、戦いを成立させること自体が不可能となる。



 まるでゲームの運営側が、”前回のような倒し方”を望んでいないかのように。




「そういえば君たち、チュートリアルではどうだった? レヴァリーを倒した後、”大型の奴”とは戦ったかい?」


「わたしは戦ったぞ」


「僕は、そのレヴァリーに殺されたので」




 チュートリアルでのみ戦える、大型の汚染獣。

 唯一の敗北を味わったため、輝夜は当然のように覚えている。




「チュートリアルで戦う例の個体は、”未実装の特殊個体”だと言われてる。つまり一応、特殊個体の強さはチュートリアルで体験できるのさ。まぁ、武器とバッテリーの関係から、ダメージすら与えられないようになってるけど」


「……なるほど」




 絶対に勝てないチュートリアル。

 それ故に、輝夜は負けた。


 あの時の敵の強さを、輝夜は覚えている。




(こっちの武器が強ければ、一対一でも戦えた)




 ”ソロでは太刀打ちできない化け物”。他のプレイヤーたちは、口を揃えてそう言った。

 しかし、輝夜はそうは思わない。





「――殺せるだろ、普通に」



 迷いなく、そう言い切った。





「へぇ」



 そんな輝夜を見て。

 アモンはこれ以上なく、愉快そうに笑っていた。















「それじゃあ、作戦の決行は”水曜日の夜”で。各自仕事終わり、学校終わりに集まりましょう」




 リーダーの締めの一言で、攻略会議は終了した。


 きぐるみの中で、輝夜は伸びをする。




「しかしこのクラン、思ったよりもレベルが低そうだな」


「そ、そうですか?」


「ああ。前回の討伐の話を聞いて確信したよ」




 ボスを倒した連中。そう言えば聞こえは良いが、要は集団リンチに参加しただけのこと。

 輝夜の想定していたような、”凄腕”の集まりではない。


 やたら気にかけてくる”アモン”だけは、若干毛色が異なるが。




(これなら、次からは参加する必要がないな)




 とりあえず、水曜日の作戦だけは参加する。

 そう結論づけて、輝夜が帰ろうとしていると。




「あのー! この中で、”姫乃”で暮らしてる人ってどのくらい居ます?」




 リーダーの男が、そう呼びかけ。


 集まっていた”半数以上”のメンバーが、手を挙げた。

 ヨシヒコと輝夜も、一応挙げる。




「今回の討伐が終わったら、”リアル”でオフ会やりません? ユグドラシルじゃなくて、姫乃のどっかで」




――あぁ、良いかも。


――僕は全然大丈夫です。


――やろう!




 リーダーの提案に、かなりのメンバーが賛同していた。

 とはいえ、輝夜はあまり乗り気ではない。




(なんで、そんなに集まりたいんだ? これは”殺しを楽しむ”ゲームだろ)



 輝夜と他のメンバーでは、ゲームに対する根本的な考えが違っていた。




「……もしかしたら、友だちを作るチャンスかも」


「お前、正気か?」




 どうやらヨシヒコは、オフ会に乗り気な様子。




(車椅子参加なら、行けるか?)




 戦い以外の部分で、若干の不安を感じつつ。

 輝夜は、初めてのボス攻略戦に挑むことに。






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