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地獄姫 〜初期ポイントを容姿に全振りしたら、とんだクソザコナメクジに生まれ変わってしまった〜  作者: 相舞藻子
ソロモンの夜 Ver.1.41421356237

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原罪の少女(3/3)






「ちっ、こいつは骨が折れそうだ」




 姫乃の上空。

 薄暗い空に、強く輝きを放つ光の輪。


 それに対し、善人は無数の白銀の槍を射出するも。

 どれほどの強度なのか。ジョナサンたちを蹴散らしたその攻撃でさえ、光の輪には通用しない。




 上空で、善人が単独、光の輪の破壊を目指す中。

 姫乃タワーの最上階では。




「……」


「……」




 怒れる魔王。ドロシー・バルバトスが、巨大な剣を黒羽えるに向けていた。

 殺意が、もはや目に見えるような。その圧倒的なプレッシャーに、黒羽は呼吸すらままならない。




「輝夜は、どこ。どこに隠したの?」


「……お、落ち着いて。わた、わたしを殺しても、紅月さんは戻ってこないから。むしろ、わたしも彼女が居なくなった原因を知らないから」




 浴びせられるプレッシャー。けれども、いま手を止めたら、暴走するシステムによって全ての遺物(レリック)保有者(ホルダー)が強制的に転移されてしまう。

 ゆえに、手だけは止めない。




「今わたしを殺すと、かろうじて踏みとどまってるみんなが、あの光の輪に吸収されちゃう。だからお願い。せめて、殺すのは全てが終わった後にして」


「……」




 恐れているのは、死そのものではない。暴走するシステムによる、未曾有の大惨事。それを止めようとする意志が、ドロシーの殺意を上回る。


 周囲を見渡せば、宙に浮かび上がるジョナサンと。それを必死に引き留めようとする悪魔たち。

 空では、善人が光の輪に対して熾烈な攻撃を続けていた。


 それらの要素を、頭の中で整理して。

 ようやくドロシーは、剣をおろした。




「……あの子の魔力。遺物(レリック)との繋がりが感じられないの」



 ドロシーを突き動かしていたのは、それだけの単純な理由。




「紅月さんが忽然と姿を消したのは、こっちでも把握してる。おかげで、色々とてんやわんやになってるから」


「そう」


「彼女が、どのタイミングで居なくなったのかは知らないけど。少なくとも、この街のシステムには彼女が転移を行った痕跡が残ってない。つまり、なにか超物理的な現象が起こったのか。あるいは、わたし達には認識できないほど、高度な力が働いたのか」




 それを、見ていないのだから。いいや、たとえ見ていたとしても、おそらく理解は出来なかったであろう。

 それほどの奇跡が、輝夜とリタの身に起こったのだから。




「他の連中は、下で風船ごっこしてて役に立たないし。どうやら、動けるのはわたしだけのようね」




「――いいや、わたし達もいる」




 そう言って、姫乃タワーに現れたのは。


 真紅のドレスに身を包んだ美女、魔王グレモリーと。

 その契約者である少女、アリサ・エクスタインであった。




「うぅ……凄い魔力ばっかで、吐きそう」


「アリサ、凛としろ。今やお前も当事者だ」




 魔王と、それを使役する少女という意味では、輝夜とドロシーの関係に似ているが。

 どうやらこの2人の場合、主従関係のバランスがちぐはぐな様子。




「バルタ騎士団。あなた達は、全員遺物(レリック)保有者(ホルダー)のはず。なのにどうして、」


「動けるのか、だな?」


「え、ええ」




 今現在、遺物(レリック)を保有する者たちは、ほぼ例外なく、光の輪の引力によって吸収の危機にあるはず。

 なにせ、紅月龍一でさえ、タワーのそばで風船のように弟子に引っ張られているのだから。


 しかしアリサは、善人と同じように平然としていた。




「アリサの持つ遺物(レリック)は、聖剣と呼ばれる特別な代物だ。太古の昔、当時の騎士たちによって幾重にも力を束ねられている」




 アリサは、剣の形をしたネックレスを取り出すと。

 光と共に、その形が変化。



 輝ける聖剣として、その真なる姿を解放する。




「よかった。多分だけど、力は使えそう」


「……頼りないが。こいつは騎士団の”最大戦力”だ。本来は切り札として秘匿する予定だったが、どうやらその余裕は無さそうだ」




 上空の光の輪を見つめながら、グレモリーはそうつぶやく。

 アリサも、多少の怯えはあるようだが。力を行使する覚悟は出来ていた。




「なら、話は簡単ね。わたし達が全員で攻撃して、あの輪っかをブチ壊す。そうすれば、きっと輝夜も帰ってくるわ」




 ドロシーはそう結論づけるも。

 黒羽が待ったをかける。




「ちょっと待って。あの光の輪は、どんな物理攻撃でも破壊不可能なように設計されてる。それに現に今、花輪くんがずっと攻撃してるけど、まるでびくともしてないでしょ?」


「……確かに。あれほどの魔力量で、僅かな損傷すら確認できんとは。我々が攻撃に加わったとしても、焼け石に水か」


「そう。しかも、あれは遺物(レリック)を吸収しようとしてる最中なんだよ。花輪くんやエクスタインさんは、たまたま影響を受けてないようだけど。何かのきっかけで吸収されたら、命の保証はできない」




 黒羽とグレモリーは、そう冷静に判断するも。

 ドロシーは、まっすぐと光の輪を見つめている。




「そうかしら。みんなのちからを、あわせれば? ちからはなんばいにも、とか。よく言うじゃない」


「そんな棒読みの言葉を聞かされても、何の説得力もないぞ」


「うん。そんなウォーズマン理論じゃ、あの光の輪は壊せない」


「むぅ」




 ドロシーは引き下がるしかなかった。




「わたしが設定したせいでもあるけど。あの光の輪は、地下のジェネレーターから、最優先でエネルギー供給を受けるようになってる。たとえ、世界中から核攻撃を受けたとしても、あれは無傷で耐える」


「ならば、地下の発電設備を止められないのか? それが全ての土台になっているのだろう」


「それは、わたしには難しい。この街の電力を賄ってるのは、”AMコア”っていう未知なるテクノロジーなの。多分、開発者はニャルラトホテプ。彼女本人じゃないと、あのジェネレーターは止められない」




 これは黒羽の計画というより、この街の構造上の問題であろう。

 天才的な頭脳を有する彼女を持ってしても、手出しの出来ない領域はあった。




「なら破壊すればいい。電力が失われれば、この街の防衛機能もダウンするだろうが、アレが暴走するよりはマシだろう」


「それは絶対にダメ。わたしも、ジェネレーターの仕組みを完全には理解してないけど。あれは、原子炉を鼻で笑えるほどのパワーを有してる。この街全体に広がるラインと、防壁の構造、それと地下のエネルギー反応から察するに。……無理に破壊したら、姫乃を含めた周囲一帯に致死量のガンマ線が放射される」


「そうか。……それは、確かに不味いな」




 街の地下に、そんな代物が存在している。

 それを今まで、微塵も知らなかったという事実に、グレモリーは戦慄する。



 彼女たちが、そんな話をしていると。





「――あぁ、もう。意味のないお喋りは大嫌い」





 タワー全体が、激しく揺れるほど。

 強烈な魔力の高まりが。


 ドロシーの体より溢れ出す。




 血染めの鎧を、内側から食い破るように。

 隠されていた悪魔の尻尾が解放される。




「……尾が、七本? そんな悪魔が存在するなど、聞いたことが」




 全力を解放するドロシーの姿に、グレモリーは驚きを隠せない。

 仮にも、同じ魔王というカテゴリーではあるが。


 魔王バルバトスの持つ魔力は、まるで桁違いであった。




「100%、フルパワーを叩き込むわ。それでもダメだったら、まぁ。……もう一回、フルパワーで攻撃してみる」




 小難しい思考など不要とばかりに。

 ただ一点、壊すべき対象を睨みつける。




「グレモリー、わたしの足場を作って。こんな脆い場所じゃ、全力で踏み込めない」


「……了解した」




 圧倒的なまでの力。

 もはやそれに頼るしか無い。


 グレモリーは、自身に出せる最大級の魔力を持って、ドロシーの本気に耐えられるだけの足場を形成する。

 すなわち、本気のバリアを。




「これが、わたしの出せる最大強度だ」


「わかった。じゃあ、遠慮なく踏ませてもらうわ」




 半透明の魔力障壁の上に、ドロシーが立つ。

 すでにその身は、破裂寸前の魔力爆弾にも見える。





「衝撃に備えなさい」





 その一言を最後に。

 ドロシーは、全力で空へと跳躍した。


 まさに桁違いの魔力。

 ただ足場に利用されただけだというのに、グレモリーの魔力障壁に無数のヒビが発生する。




「これが、同じ生物か」



 グレモリーが、思わずそうつぶやいてしまうほど。






 最強の悪魔、圧倒的暴力。


 ドロシー・バルバトスが、地上より発射された。






「ッ、なんだ!?」



 上空にいた善人は、刹那に死のビジョンを感じ。

 光の輪から距離を取る。




 眼下に映るのは、空間が歪むほどの強烈な力の塊。

 それが生物であると、認識するのに僅かに時間がかかるほど。




「ありゃ、輝夜サンの」




 魔王、ドロシー・バルバトス。

 彼女が攻撃に来たのだと、善人も理解する。




 凄まじい勢い、凄まじい覇気。

 自分が標的ではないと分かっているものの、見ているだけで冷や汗が出る。




「あれが、最強か」




 息を呑み、ただ見つめるだけ。

 たとえ誰であろうと、それを止めることなど出来はしない。




 渾身の力、渾身の魔力を、ドロシーは大剣へと集中させる。




「――ッ」




 狙いは1つ。

 その瞬間に、全てを込めて。





 ドロシーの一撃が、光の輪へと衝突した。





 衝撃が、街全体まで広がるほど。

 大いなる力に、空間が悲鳴を上げる。



 一人の悪魔が、己の全てをかけた一撃。

 最強の一振り、だったのだが。





「……なるほど。確かに、死ぬほど硬いわね」





 光の輪は、なおも健在。

 破壊は叶わず。


 文字通り、全てを出し切ったドロシーは、地上へと落下していく。





 最強の悪魔、全力の一撃。

 それを持ってなお、破壊することの出来ない物体。


 目撃した誰もが、その現実に絶望する中。





「ッ」



 善人が、全速力で光の輪へと飛翔する。




 彼だけが、見逃さなかった。

 光の輝きゆえに、ほとんど目に見えないものの。


 攻撃がブチ当たったその箇所に、微かなヒビが入ったことに。




 ここしかない、この一瞬しか無い。

 そう自分を鼓舞するように、善人は全ての魔力を。


 右手に持った、光の槍に込めて。





「――これで、終わりだ!!」





 希望を、可能性を。

 最後の最後に、叩き込んだ。










◆◇










 声が聞こえる。


 生きようとする声、続こうとする声。


 世界の声、人の声が。





「掴んだぞ」


「そう。絶対に離さないで」





 身の裂けるような、力の濁流。

 決して抗うことの出来ない、世の理。


 けれども、”漆黒の刀”はそれを切り裂いて、在るべき場所を目指す。

 彼女たち2人を、本来の世界に導くように。





 やがて光が、全てを覆い。


 2人は、瓦礫の上に立っていた。





「……学校の校舎。そういえば、お前の攻撃で壊れたんだったな」


「後で直すから、勘弁してちょうだい」





 魔女の攻撃によって崩れ去った、神楽坂高校の校舎の上。

 瓦礫に立ちながら、2人は遙か先の”敵”を見る。





「わたしの知ってる未来と、随分と形状が違うな」


「そうね。でも、街が残ってるってことは、まだ間に合うってこと」






 少女は刀を握る。

 それが、託された想い、力だから。





「泣くのは終わりよ、輝夜。あなたが、未来を切り開くの」


「……あぁ」





 溢れ出る、大粒の涙を拭って。

 それでも前を向く。





「やるぞ、リタ」


「ええ、輝夜」





 輝夜と、リタ。


 遠い夢から、2人は帰還した。






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― 新着の感想 ―
更新したくれたことに感謝。 いよいよ大詰めって感じですね。
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