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地獄姫 〜初期ポイントを容姿に全振りしたら、とんだクソザコナメクジに生まれ変わってしまった〜  作者: 相舞藻子
ソロモンの夜 Ver.1.41421356237

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救済






「ミッツ、本当にこの下に居るの!?」


「がふっ」




 大量に崩れ落ちた、瓦礫の山。

 その中で、少年はとてつもない重量に耐え続けていた。




「シュークリーム? 生きてる? 生きてるなら返事してくれる?」


「……」




 聞き覚えのある声が、瓦礫の山を掻き分けている。

 けれども少年は、重さに耐えるので精一杯で、返事をすることが出来ない。


 その心に抱くのは、ただ無念の感情のみ。

 敗北という文字が、頭の中から離れない。




 やがて、次々と瓦礫が取り除かれて。




「はぁ、よかった。思ったより元気そう」


「いいや。最悪の気分だ」




 龍宮桜の手によって、紅月朱雨は瓦礫の山から助け出された。

 輝夜がこの世界から消えてから、ほんの数分後の出来事である。
















「で、何があったわけ?」


「説明する義務があるのか?」


「あったりまえじゃない! 助けてあげたんだから」




 瓦礫の山から救出され、紅月朱雨は不機嫌そうに地面に座る。

 そのそばには、彼を助けた龍宮桜と。

 朱雨の契約魔獣である、ケルベロスの姿があった。




「そもそもお前、なんでここに来たんだ?」


「とーぜん、近くでドタバカ音がしてたから。かぐちに、今日は家から出るなって言われてたけど。なんというか、見覚えのある? 魔力を感じたからさ。そりゃ助けに来るでしょ」


「……そうか」




 知っている魔力の持ち主が、家の近くで戦っていたのだから。

 気になって様子を見に来るのも、まぁ当然の話であった。




「それで? シューがあんなザマになってた理由は?」


「ぐっ」




 単純ながら。

 それは、言葉にしたくない内容であった。




「おい、ケルベロス。お前がもっと早く瓦礫をどけてたら、こいつに見つかることもなかったんだぞ?」


「がう」

※意訳 四足歩行なんだから、無理言わないでよ。


「そうそう! ミッツの体重が乗っかったら、もっと怪我してたかもよ」


「クソ」


「くそって言わない! まったく、そういう所だけは姉弟そっくりね」




 あまり、言われたくない指摘に。

 流石の朱雨も、白旗を上げざるを得なかった。




「……あの金髪の男。ジョナサンと戦ってたんだ」


「ジョナサン!? それって、あの。不動連合を壊滅させた?」


「そうだ。あいつがここに居るって情報を、輝夜から聞いたからな。待ち伏せしてぶちのめそうとしたんだが」


「逆に、ぶちのめされたと」


「そうじゃない! いや、まぁ。結果だけ見るとそうなんだが、そんな単純な話じゃなくてだな」





 およそ、10分前。

 紅月朱雨とジョナサン・グレニスターは、この場所で熾烈な攻防を繰り広げていた。


 まるで芸術のような魔法で、無数の剣を操作するジョナサンと。

 拳と蹴りのみで、それに対抗する朱雨。


 互いに無駄がなく、洗練された実力者ゆえに、周囲への被害が出ることなく。

 その姿はまるで、局所的な嵐のように。



 魔獣や悪魔の横槍もなく、正真正銘の一騎打ち。

 あの時の決着をつけるために、互いに負けられない戦いだったのだが。




――なに?




 双子の姉弟ゆえだろうか。

 輝夜がこの世界から消えた瞬間、朱雨はその異変に気づいてしまい。


 それゆえ生じた一瞬の隙を突いて、ジョナサンの有効打が炸裂した。




 その結果として、朱雨は瓦礫の山に埋もれ。

 ジョナサンはどこかへと消えてしまった。




 とはいえ、朱雨はまだ戦える。

 瓦礫から抜け出せないという失態を晒してしまったものの、肉体的にはそれほどダメージを負っていない。




「それじゃ、これからどうするの?」


「あの金髪男を追う。と、言いたいところだが」




 朱雨を迷わせるのは、あの感覚。

 確かにあの瞬間、輝夜の身に”なにか”が起きた。




「お前たちの学校、神楽坂高校に行く」


「かぐちの様子を確かめに行くわけね。もっち、あたしも行くわ」


「……好きにしろ」




 ただ、魔力を感じれるだけの足手まとい。だがしかし、瓦礫から助けてもらった以上、あまり強く言うことが出来ず。


 なおかつ、すでにケルベロスが桜を背中に乗せていたため、朱雨は同行を許すしかなかった。




(こいつは、かなりの厄介事だな)




 今夜、この街で何かが起ころうとしている。

 朱雨も桜も、それだけは確信していた。










◆◇ 救済 ◇◆










 それはまるで、一つ一つが命を持っているように。

 それでいて、集団で狩りをするかのように。


 魔力を帯びた無数の剣が、少女。

 黒羽えるに向けて襲いかかる。



 だがしかし、黒羽は意に介さないという表情で。



 瞬間、解き放たれた白銀の光によって。

 無数の剣は跡形もなく消滅した。




「なるほど。この期に及んで、ボディガード付きとは。なかなかスムーズに行かないものだな」




 剣を操りし王。

 ジョナサンが見つめる先には、1人の少年が。


 花輪善人が、白銀の槍を携えて立っていた。

 先程の強烈な光は、彼から放たれたもの。




「どこの誰かと思ったら。輝夜サンの実家を襲った、外国の保有者(ホルダー)か」


「君は誰だい? 思うに、初対面のはずだが」




 善人とジョナサン。彼らは一度、紅月輝夜の実家、不動連合の総本部にて顔を合わせている。

 だがしかし、その時の善人はまだ”以前の彼”であり。白銀へと変貌を遂げた今の善人を、ジョナサンは同一人物と認識できなかった。




「どうでもいいだろう? なんせお前は、ここで脱落するんだからな!」




 白銀の槍に、猛烈な魔力が宿り。

 純粋な殺人光線となって、ジョナサンのもとへと放たれる。




「くっ」



 咄嗟に、前方に剣を展開し。

 盾のような形で攻撃を受け止めようとするも。




 白銀の槍から放たれた光は、ジョナサンの剣を容易く打ち砕き。

 凄まじい衝撃と共に、着弾した。




 けれども、結果は不発。

 すんでのところで、1人の少女が間に入っていた。




「ジョン、危なかった」


「あぁ。助かったよ、レヴィ」




 ジョナサンの使役する”魔獣”の1人、レヴィアタン。

 人間体の姿は、可愛らしい白髪の少女だが。有している力は召喚者であるジョナサンをも凌ぎ、魔王クラスと言っても過言ではないだろう。


 そんなレヴィをしても、強い警戒が必要な相手。

 それが、今の善人であった。




「まったく、突っ走るから死にそうになるんだよ」


「!@#$%」




 続いて現れたのは、ピンク髪の少女と、クモのような下半身を持った女性型魔獣。

 ジョナサンの最初の相棒であるアスタと。最近、新規で召喚された魔獣、アラクネである。



 紅月朱雨とケルベロス。

 彼らを突破して、ジョナサンたちはここまでたどり着いた。





 ジョナサンと、彼の率いる3体の契約魔獣たち。

 対するは、戦闘能力皆無の黒羽えると、花輪善人、悪魔アミーという3人。



 戦える人数でいえば、ジョナサン側の圧倒的優勢だが。

 ”個”の持つ底力が不明なため、容易い戦いにはならないだろう。



 そんな、緊迫感の中。





「……」



 敵対する相手を見て、善人は怪訝な表情をする。

 黄金と白銀のオッドアイは、通常では見えないものすら看破していた。




遺物(レリック)保有者(ホルダー)はこれまで何人か見てきたが。3体と契約して、なおかつ3体とも悪魔じゃないって奴は初めてだな」


「なに?」




 善人の言葉に、ジョナサンは一瞬、理解できないという反応をするも。

 そのすぐ側で。


 アスタは、蛇に睨まれた蛙のように動揺していた。




「魔獣が2体と、”混ざりもの”が1体。指輪は、持ち主と相性の良い存在を呼び出すって聞いたが。その理論で行くと、アンタはよっぽどの物好きらしい」


「……まぁ、否定はしないよ」




 まるで、不安を分かっているように。

 ジョナサンは、相棒であるアスタの肩に触れる。




「この僕に仕える存在だ。普通じゃ、つまらないだろう?」


「ジョン……」




 自分の契約する存在が何者であろうと、ジョナサンは気にしない。

 その正体が何であれ、どんな秘密があろうとも。共に歩んでくれる仲間なのだから。




「フッ」



 だとしたら、相手にとって不足なし。

 善人は槍を手に、臨戦態勢へと入る。




「アミー、黒羽を守ってくれ。こいつらが相手じゃ、俺も本気で戦わないとヤバそうだ」


「了解した、相棒」




 今の善人は、黄金ではなく、白銀である。

 ゆえに、前までのような攻防一体のコンビネーションは使えない。


 善人が圧倒的な力で暴れ、アミーはそれを補助するのみ。




「花輪くん。暴れ回るのは良いけど、タワーやここの設備には危害を加えないでね。儀式そのものに影響はないけど。最悪、エネルギーの暴発で、みんな死んじゃうかもだから」


「今更ながら。お前、どんな馬鹿げた現象を起こそうとしてるんだ?」


「気にしない気にしない。泣いても笑っても、もう結末は変えられないんだから」




 すでに、約束の時は訪れた。

 もはや誰がどれだけ足掻こうと、ソロモンの夜は止まらない。




「なぁ相棒。この嬢ちゃんを守るの、本当に合ってるのか?」


「さーな。後で、輝夜サンに聞けばいいだろ」





 善人の持つ白銀の槍に、強烈な魔力が満ち満ちる。


 対するジョナサン側も、各々の力を解放。


 ソロモンの夜における、最後の戦いが幕を開けた。










◆◇










 深淵の底。星の影たちが闊歩する、地獄世界。

 そこに、ぽつんと存在するシェルター内にて。




「ど、どうしたにゃん!?」




 しんみりとした空気で見つめ合う、カグヤとリタ・ロンギヌス。

 その姿を見て、タマにゃんは愕然としていた。




「まぁ、なんだ。感動の和解? ってやつだな」



 輝夜はもちろん、特に何も考えていない。




「ミーが超特急で作業してる中で!? と、当然、諸々の説明は終わってるにゃん?」


「……あ、ごめんなさい。完全に忘れてたわ」




 カグヤは冷静に謝罪する。

 思えば、それなりに時間が経ってしまっている。




「なんというか、わたしの身の上話しかしてないわ」


「にゃ!?」




 想定外過ぎて、タマにゃんは開いた口が塞がらない。




「か、空の王への対抗手段は?」


「説明してない」


「花輪善人に関する懸念は?」


「まだ」


「他の宝具の所在地!」


「言ってない」


「厄災関連は……」


「ごめんなさい」




 まったくもって、約束が違うのだから。

 タマにゃんがうろたえるのも仕方がない。




「えっと、2人とも? 一応、わたしも未来に関しては知識があるから。そこまで心配する必要はないんじゃないかしら」




 リタが仲裁に入る。


 そもそも、最初に時間を越えて、未来を変えようとしたのは彼女である。

 今後、気をつけるべき事象なども把握しているつもりだが。




「ダメなのよ、それじゃ」



 カグヤはそれを否定する。




「すでに、運命の歯車は大きく歪み始めてる。今後、あなた達という”蝶”が羽ばたき続ける限り、その歪みは収まらない」




 リタの有する未来の知識は、あくまでも1つのルートのみ。

 ほんの僅かでも選択肢を間違えれば、異なるルートへと突入してしまう。




「いい? あなた達はこれから、姫乃の街を、ソロモンの夜を解決しようとしてるんでしょう? それが果たされた時点で、もう約束された未来なんて訪れないの」




 本来の歴史では、姫乃に空の王が出現し、街も人も全てを焼き尽くす。

 生存者は、輝夜と善人の2人だけ。




「紅月龍一という抑止力の消失と、それに端を発した悪魔たちの地上侵攻。あの動乱が起きないのは、とても良いことだと思うけど。あれがなければ、世界に誕生しないものもある。何もかもハッピー、とは行かないの」




 世界を救うほどの大きな変化。

 けれども、それを一度でも起こしてしまえば。リタの持つ知識、アドバンテージは大きく失われてしまう。


 ゆえにこそ、より多くの知識を共有する必要があった。




「にゃん。あっちの世界の潜在的なリスク、起こりかねない出来事、そのへんに対抗するための手段をいくつか考えてあるにゃん。で、その説明を、カグヤに頼んだつもりだったにゃん」


「本当、ごめんなさい。わたし個人、というより、わたしとリタの話に熱が入っちゃって。まだ1ミリも説明してないわ」


「なんでにゃん!?」




 カグヤの怠慢に、タマにゃんは吠える。




「はぁ。……今から説明すればいいでしょ? 別に、時間だってまだあるんだし」


「にゃ、それは間違いにゃん! いつどこで、どんなタイミングで、その時が来るかなんて分からないにゃん」




 タマにゃんの抱く焦り。

 それには、確固たる理由があった。





「時間の流れにも差異があって、戻った時の状況だって不明にゃ。ミーたちに引き金を引く権利がない以上。それは明日かもしれないし、1時間後かも知れないにゃ。最悪、今この瞬間にだって――」





 ”その時”が、いつ訪れるのか。

 分からないがゆえに、タマにゃんは事の重要性を強く訴えて。







――世界が、揺れた。







「……地震か?」


「いや、違うにゃん」




 長い事、この場所で生活してきて。物理的にそれはあり得ないと、タマにゃんは知っている。

 これは地震などではない。




 これは、音。


 鐘の音。


 世界を揺らすほど大きな、鐘の音。




 理解不能な現象が起きている。

 でも、これが鐘の鳴る音だと、誰もが理解してしまう。




「ねぇ、タマにゃん。もしかして、これ」


「にゃー。タイムリミットにゃん」




 この奇跡、この邂逅にも、終わりが訪れようとしていた。




「忘れて、ないわよね?」


「にゃん」




 時が来たのだと、カグヤとタマにゃんは悟る。

 もはや一刻の猶予もない。


 こちら側からの扉は、ただ一度しか開かないのだから。




「うぅにゃーん! もうヤケクソにゃーん!」


「ふぅ。やることやるしかないわね」




 何かしらの、覚悟を決めた様子の2人だが。

 輝夜とリタからしてみれば、まるで状況が理解できず。




「なんだ? この変な音」


「確かさっき、あなたを救うために、カグヤが宝具を使って。その時にも聞こえたわ」


「にゃん。ミーたちのコードブレイカーと、同じ現象が起きてるにゃん。つまりこの世界の何処かで、誰かがコードを、物理法則を破ったにゃん」




 コード。

 それはこちら側の世界に存在する、絶対的な法則。

 この世界を縛り付ける呪い。




「それにしても、わたし達のコードブレイカーとは桁違いじゃない? 下手したらこれ、大陸単位で距離があるわよ」


「にゃはは〜 ミーの計算が正しければ、3.52/ksほどの魔力が一瞬で爆発して、その余波でコードが崩壊したっぽいにゃん」


「なによ、その知らない単位。もっと分かりやすく教えてくれる?」


「にゃ。簡単に言うなら、地球が3回壊れるくらいのエネルギーってことにゃん」


「……馬鹿なの? それ」




 嘘か誠か。

 タマにゃんの話はスケールが大きかった。




「まぁ、どうでもいいわ。こうなった以上、わたし達は、わたし達の使命を果たすだけ」


「にゃ〜 楽しい時間は、一瞬にゃん」




 遥かな昔より、カグヤとタマにゃんは覚悟が出来ていた。何をするべきかを考えていた。

 自分たちに残された、この物語のフィナーレを。




「ねぇ、”わたし”。あの黒い刀を出してくれる?」


「ん? カグヤブレードのことか?」


「ええ、そうよ。その恥ずかしい名前のやつ」




 そんな事を話しつつ、輝夜はブレードをその手に出現させる。




「恥ずかしいって。お前の名前もカグヤだろう」


「いや、そういう問題じゃなくて。……え、これ天然なの?」




 もう一人の自分の感性に驚きつつ。

 カグヤは、黒い刀に手を伸ばす。




「ちょっと借りるわよ」


「あぁ、うん。一応、わたしのメインウェポンだからな。壊すなよ?」


「馬鹿にしないで」




 同じ、かぐや姫だからか。

 まるで所有者であるかのように、ブレードはカグヤの手に馴染み。




 本人も、それを実感すると。




 素早い動きで手首をひねり、もう一方の手で刃の部分を掴み。

 迷うことなく、力を込めて。





「――ッ」



 カグヤは、自分自身の胸を貫いた。





 予想もしない行為に、輝夜とリタは思考が追いつかず。

 そんな2人を見ながら、カグヤは笑う。





「これが、わたしの、最後のわがままよ」





 刀は確かに身を貫いて。

 真っ赤な血が、地面を濡らした。






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― 新着の感想 ―
滅茶苦茶面白いの一言。 小説家になろうとか、カクヨムとかじゃ伸びてないけど、ハーメルンで連載した途端、数万フォローが付きそうでちょっと惜しい感じがする。 投稿サイトを変えたら伸びそうなので、ハーメルン…
カグヤは初志貫徹ですね。芯がある。
まさかの切腹(*・ω・)ノ 継承でもするのかな?
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