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地獄姫 〜初期ポイントを容姿に全振りしたら、とんだクソザコナメクジに生まれ変わってしまった〜  作者: 相舞藻子
ソロモンの夜 Ver.1.41421356237

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ただ一度だけ






「大変にゃ、大変にゃ。急ぐにゃ、急ぐにゃ」




 暗き闇の世界。そこにポツンと存在するシェルターの中で、タマにゃんは忙しなく動き回る。

 継ぎ接ぎだらけの回路、今にも壊れそうな操作盤。それらを弄って、来たるべき時に備える。




『エネルギー低下を確認。プロテクト維持のため、補助電源に切り替えます』




 轟音が鳴り。

 ほんの一瞬、シェルター内が停電するも、すぐに明かりが戻った。




 そんな忙しない様子を、2人の輝夜と、リタが見つめる。




「随分と、その、慌ただしいな」


「気にしないで。あなた達が元の世界に戻れるように、タマにゃんは準備を始めたの」




 ここは、遠く離れた別の世界。

 地球。人間界、魔界という区分ともかけ離れた、別次元の領域なのだから。




「元の世界。あのネックレス、燕の子安貝は壊れたんだが」


「大丈夫よ。世界を超える方法は、1つだけじゃないの」




 タマにゃんと、もう1人のカグヤ。

 2人はこの世界で生き、より多くの叡智を身につけていた。




「本当は、この世界のこととか、詳しく教えてあげたかったけど。あいにく、時間が足りないからごめんなさい」


「……異世界だなんて。正直、未だに信じられないわ」




 深い闇に包まれ。得体の知れない怪物が闊歩する、異常なる空間。

 それでもリタは、別の世界に来たという感覚が信じられない。




「タマにゃん曰く。ここは元々、強くて美しい世界だったらしいわ」


「暗くて最悪の世界の間違いじゃないか?」


「元々、って言ったでしょ? かつて、大きな災いが起きて、世界は致命的なダメージを負ってしまった。それこそ、修復不可能なほどに。その結果、このシェルターの外みたいに、地獄みたいな空間が広がってるの」




 世界が、致命的なダメージを負う。あまり理解の出来ない感覚であった。




「まぁ、わたしがこの世界に来た時には、すでにこの状態だったから。最悪、タマにゃんの嘘って可能性もあるでしょうけど」



 タマにゃんが嘘を吐いている。それこそ、意味のない話である。




「なにせわたしも、タマにゃん以外の人間に会ったことがないのよ。まぁ、人間というか悪魔だけど」


「あの化物たちは、人間にカウント出来ないか」


「あれは、この世界を侵す闇そのものよ。そしてここは、アビスと呼ばれる深い穴の底。人の生活する地上とは、あまりにも距離が離れすぎている」


「あー。つまり、クソみたいな世界の、そのまたクソみたいな場所ってことか?」


「そうね。その認識で合ってるわ」




 つまらなそうに、カグヤは分厚い窓からシェルターの外を見る。




「果たして、地上にも生き残りが居るのかしら」




 ここは、末期世界。すでに終わりが確定した世界。

 暗い井戸の底からは、何も知ることは出来ない。




「ここは終わった世界だけど。そっちは、まだ違うでしょう? 歴史を変えて、世界を救うためにも、あなた達は帰らないといけない」




 そう、忘れてはいけない。今こうしている間にも、時間は刻一刻と過ぎ去っている。

 ソロモンの夜。姫乃を舞台にした戦いは、まだ終わっていないのだから。




「まぁ、準備はタマにゃんに任せて。わたしの話をちゃんと聞いてちょうだい。これが、最初で最後だから」




 最初で最後。

 それはつまり、この邂逅に2度目はないということ。




 輝夜とリタ。

 2人の顔を見て、カグヤは深く頭を下げた。





「――ごめんなさい。そして、ありがとう。わたしが伝えたいのは、この気持ちよ」





 カグヤが語るのは、その心に秘めた真実。

 ここで、伝えなければならない言葉。















 その言葉は、輝夜とリタの2人に向けられるもの。

 この場所まで辿り着き、さらに先を行く者たちへ。




「わたしが、役割を放棄したばっかりに。これまで、2人には迷惑をかけたわ」


「……役割を、放棄?」




 リタが、疑問を口にする。




「ええ。全ては、わたしのせい。ここにもう1人のわたしが居るのも、全部」




 そもそもリタが困惑しているのは、なぜ輝夜が2人も存在しているのか。

 この2人の違いは、何なのか。




「そうね。まず、1000年以上も月で過ごして、かぐや姫と呼ばれて。あなたと友達だったのは、こっちのわたしよ。……そっちのわたしは、見た目こそ同じだけど、中身はまるで別人。遠い世界から連れ出した、名も知れない誰かさん」




 同じ名前と、同じ顔。

 けれども2人は、全く異なる人間である。


 なぜ、こうなってしまったのか。




「世界を変えようとした、あなたの時間逆行。実はあの時、わたしも力を貸していたの」


「それって、10年後の未来?」


「ええ。あの、最悪の時代。わたしは月で槍を握りながら、あなた達の行く末を見守っていた」




 それは、別の歴史を辿った世界線。

 あの世界の、本来の歴史とも呼べるもの。




「10年も時を越えるなんて、無茶にもほどがあるもの。だから、わたしも月の魔力を回して、あなたを後押ししたの」




 過去へ向かって、飛び立てるように。そっと、背中を押してあげるように。

 だがしかし、それは思いも寄らない事態を招く結果となった。




「どういう因果かしら。わたしはその時間逆行の流れに巻き込まれて、過去へと飛ばされてしまった。リタの目指した10年前よりも、さらに昔へ。気づけばわたしは、あの真っ白な病室で、幼い頃の自分に戻っていた」




 それは、輝夜も知っている光景である。

 始まりの記憶、この世界と、この肉体、紅月輝夜の原点とも言える場所。





「――そこで、わたしは”絶望”したの」





 カグヤの口から語られるのは、嘘偽りのない感情。

 絶望という、あまりにも重たい言葉。




「どうしてわたしが絶望したのか。2人には分かるかしら」



 カグヤは、輝夜とリタに問いかける。




「あー。また、あの地獄みたいなリハビリをするのは、まじで勘弁、みたいな?」


「違うわよ、バカね。そもそも、わたしはリハビリなんてしなかった。呪いで肉体が使い物にならないなら、魔法で補えばいい。バカ正直に、アナログなリハビリを行うなんて、考えすらしなかったわ」


「む」




 そんな、辛辣な言葉を吐きながらも。

 とはいえ、カグヤは考えを改める。




「結果としては、あなたのほうが正解だったのかもね。わたしは呪いの抑制に魔力を回してしまったから、他に何も出来なくなってしまった。でも、あなたは違う」




 5年という月日をかけて、輝夜は自分自身の力で動くことが出来るようになった。

 だからこそ、この戦いの道を歩めている。




「わたしの時は、戦いに回す魔力なんて残ってなかったから。戦いはいつだって、彼の役目だった」




 遠い過去、遠い思い出。

 カグヤはそれを、静かに懐かしむ。




 では、疑問は原点へ。

 どうしてカグヤは絶望したのか。




「あの悲惨な未来を、もう一度繰り返すのが怖かったの?」



 リタは、そうつぶやく。




「あなたは、人間が嫌いだったものね。人も悪魔も、揃いも揃って、醜いエゴをぶつけ合う。わたし達の未来は、本当に間違いだらけだった」




 けれども、カグヤは。

 何とも言えない表情でリタを見る。




「あなたって、やっぱりバカね」


「ちょっと、わたしは真剣に」


「ええ、知ってる。あなたはいつだって真面目で、いつもわたしの味方だった。初めて会った、あの日からずっと。ずっと、ね」




 リタ・ロンギヌス。1000年の時を生きる魔女。

 かぐや姫の、唯一の友達。




「でもあなたは、肝心なところで間違ってる。これだけ長生きしても、まだ学習しないのね」


「……どういう意味なの?」




 リタには分からない。

 自分が何を知らないのか。何を間違えているのか。


 だから、こんな場所まで来てしまった。




「言葉にするのも面倒だから。ちょっと、待ってて」




 カグヤはそう言うと、目を閉じて。

 ゆっくりと、深呼吸をした。




「手を、2人とも」




 輝夜とリタ、2人の手を取って。

 自分自身の胸へと、カグヤは押し当てた。




「ほんの刹那でも、あの感覚は忘れない」




 カグヤの胸。

 そこから感じられるのは、脈打つ心臓の鼓動。


 2人は、よく分からないという顔をする。





「――これが、恋の鼓動よ」





 真面目な顔で、カグヤはそう言って。

 まさかの言葉に、2人は固まってしまう。




 恋の鼓動。

 カグヤはそう言った。


 けれども、理解が追いつかない。




「これは、わたしだけの感情よ。善人を好きになった、わたしの恋心」


「ぷっ」




 その言葉に、思わず輝夜は吹き出してしまう。




「よ、善人? お前、あいつが好きだったのか? あの頼りなくて、ビビリで。おまけに最近、なんか二重人格になってるあの?」


「失礼ね! わたしの好きになった彼と、あなたの世界のアレを一緒にしないでちょうだい。……そっちのぼんくらと違って、わたしの世界の善人は、最高のヒーローなんだから」




 最高のヒーロー。

 そんな言葉を、カグヤは大真面目に口にした。


 その世界を、その歴史を知らない輝夜にとっては、まるで理解の出来ない言葉であった。




「……まぁ。これが、わたしとあなたの一番大きな違いかしら。あの病室で、善人と出会ったわたし。出会わずに、5年後にズレてしまったあなた。これが、わたし達の運命の分かれ道ね」




 花輪善人との出会い。それが異なるだけで、2人の輝夜はまったく別の人生を辿ることになった。


 どちらが正解というわけではない。


 それが、運命だっただけの話。




「そして、この感情こそが、リタが1000年費やしても得られなかったもの」




 真面目な顔で、それでいて哀れむように。

 カグヤはリタと目を合わせる。




「何が、言いたいのかしら」


「あら、何か間違ってたかしら。恋バナ、誰かを好きなったとか、そういう話。長い付き合いだけど、あなたの口から聞いた記憶がないのだけれど」


「はっ、はぁ!? それは、確かにそうだけど」




 痛いところを突かれたように、リタはうろたえる。




「ねぇ、もう1人のわたし? 1000年以上も生きて、一度も恋を知らない魔女とか。ぶっちゃけ、どう?」



 そう、問いかけられて。

 輝夜は少し、真面目に考えると。




「ぷっ」



 またもや、吹き出してしまう。




「ちょっと、何よその反応!」


「いや、まぁ、うん。1000年も恋を知らないとか、言葉にされると。色々と、アレだなぁと」


「アレってどういう意味!?」




 顔を真っ赤にして、リタは憤慨する。


 2人の輝夜に、まるでバカにされるような。

 今まで生きてきて、味わったことのない感覚であった。





「いい!? 恋とか、愛とか。そういうのって、一般的な人間には当たり前かも知れないけど、わたし達には縁のないものなのよ? だって、魔法使いは寿命とか関係ないし、子孫を残す必要だってないもの。それに、そうよ! 生物的に考えても理にかなってるわ。寿命の短い生き物ほど子供を産んで、逆に長寿の生き物ほど子供を生みにくい。繁殖ってそういうものなの。――だから、わたしが一度も恋をしてないとか、何もおかしな話じゃないのよ!!」





 それは文字通り、魂の叫びであった。

 リタという人間の根底にある、ある種のコンプレックスが爆発する瞬間でもあった。




「そ、そもそも、こっちは真面目な話をしてるつもりだったのに。急に恋がどうとか言わないでくれるかしら」




 そう言って、リタは開き直る。

 自分は何一つ間違っていないと。




 だがしかし、

 この恋という単語が、話の根底であった。




「……わたしにとっては、それが、何よりも大事だったのよ」



 理解されないのは分かっている。けれども、カグヤも譲るわけにはいかない。






「だからわたしは、絶望した」






 あの日、あの病室で。

 時間を遡ったことを知って、カグヤは悟った。


 何よりも、残酷な世界のことを。










◆◇ ただ一度だけ ◇◆










 その静寂の中で、カグヤは自らを知覚する。

 小さな肉体、動かない身体、落ち着かない機械音。



 目を開けて見えるのは、真っ白な天井。

 姫乃第一病院、その中でも特別な病室である。



 カグヤはこの場所を、知っている。

 拭い去れない過去と、心が警鐘を鳴らしている。




(うそ。冗談、でしょ)




 理解が追いついていく、現実を認識していく。

 何よりも、恐怖が湧き上がってくる。





 未来を知っている。

 大きな災いが起き、世界が滅ぶ未来を。


 だが、そんなことはどうでもいい。

 それよりも大きな恐怖を、カグヤは知っていた。





――わたしが目覚めた日。それはすなわち、彼と出会った日。





 想うだけで、心臓が痛くなる。なんと生きるにつらい肉体だろう。


 魔力を手繰り寄せて。

 体を起こし、扉を見る。


 覚えている、この光景を。かぐや姫が死に、紅月輝夜として生まれ変わったこの日。

 扉を開けて、彼と、花輪善人と出会う。






 まだ、”わたしのことを知らない彼”と。






「……あ」




 それが、絶望。




 人生は、ゲームなんかとは違う。簡単にやり直しをすることなんて出来ない。心はリセットされない。

 あの世界を、あの物語をもう一度なんて、出来るはずもない。


 彼と出会い、彼に恋をし、彼を失う。

 それが、わたしの歩んだ物語である。




 涙が、溢れ出た。

 わたしは未来を知っている。この日から動き出せば、多くの事柄を変えて、世界そのものすら自在にできるかも知れない。その可能性が高いだろう。


 きっと、想像以上の苦難が待ち受けている。でも、もう一度。わたしと彼が力を合わせれば、どんな未来にだって変えられるはず。

 けどそれは、わたしの未来ではない。




――お願い、わたしの名前を呼んで。




 あり得ないと分かっていても、そう願ってしまう。

 彼に会いたい。善人と。もう一度わたしは彼に会って、今度こそ本当の気持ちを伝えたい。

 でも、それはあり得ない。


 仮に扉を開いても、そこにいるのは、わたしを知らない彼。異なる世界線を生きる彼。その道は、決して交わることはない。


 なんて、地獄。こんな人生をもう一度なんてあり得ない。

 彼との出会いを、記憶を、想いを。全て過去と割り切って、もう一度新しい人生を歩むなんて。




 魔力の糸が途切れ、カグヤはベッドに倒れ込む。

 扉は、開くことはない。




 全てを忘れて、諦めて、ここで死を選ぶという選択肢も、頭によぎった。しかし、それが最悪の選択だということも、同時に理解が出来た。


 多くの願いを込めて、リタは時間を遡った。でもその先に、紅月輝夜というパーツが存在しなかったら?

 この肉体は、この世界において大きな役割を担っている。世界を左右する力が、わたしにはある。だから、この命は無駄には出来ない。


 だがしかし、もう一度、この足で歩こうとは思えない。




――彼との物語を、始めからなんて。




 だからカグヤは、探すことにした。自分の代わりになってくれる存在を。


 この肉体との互換性を持った、稀有な魂の持ち主を。


 遠い、遠い世界まで。








「そうして見つけたのが、あなただった」




 今、現在。

 カグヤと輝夜が見つめ合う。


 本来ならば、決して交わることのない2人が。




「なるほど。だから、こうなったわけか」


「ええ。遠い世界に暮らす、まったくの別人だけど。それでもあなたの魂は、わたしとの相性が良かった。なんと表現すればいいのか、波長が、合ったのかしら」




 それが、あの始まりの日に起きた、全てのきっかけ。

 選ばれた理由。




「あー、うん。なんというか、あの時のことはよく覚えていないんだが。……確かわたしが、珍しくゲームを買った日で。そして――」




 気まぐれで始めた、ゲーム。

 その最初の画面で、それは起こった。




「そう。あれが、わたしとあなたの契約だったの」


「契約? いやいや。普通に、ゲームを動かしてただけだったような」


「そう見えるようにしていたのよ。あの時点でのあなたは、まだ何者でもない一般人だった。魔法なんて、理解も出来ないでしょう?」




 ただのゲーム画面。ステータスを決めて、物語を始める準備をする。

 しかしそれは、あくまでも表面的なもの。




「実際にはあの時、裏では複雑な魔法式が動いていたの。なにせ、遠い世界のわたし達が、魂を入れ替える魔法だもの」



 悪びれる様子もなく、カグヤは白状していく。




「あなたが選択肢でYESを選ぶたびに、あなたの魂は術式に囚われていった。そして、まぁほとんど詐欺みたいな形で、あなたはわたしになったの」





 それが、この物語の始まり。

 紅月輝夜が新生した日。


 2人のかぐや姫は、こうして発生した。





「リタも、理解してくれた? わたしが役割を放棄した理由。そして、こっちのわたしが生まれた理由を」




 カグヤとリタが、見つめ合う。

 1000年を超える付き合いがあっても、知ることのなかった秘密。


 唐突な告白に、リタの瞳が揺れる。




「でも、わたしは、あなたのために。あなたを幸せにするために、もう一度世界をやり直そうと」




 そう訴えかけるリタに対し、カグヤは静かに首を横に振る。




「ほんと、バカなんだから。せめて相談とかなかったの? もう一度人生をやり直したいなんて、わたし一言でも言ったかしら」




 そうやって、2人はずっとすれ違い続けてきた。

 初めて会ったあの日から、ずっと、ずっと。




「恋は。わたしの恋は、一度だけなの。……たった、一度だけ」




 胸を突き動かす鼓動。

 湧き上がるような激情。


 それに、二度目はあり得ない。




「わたしが好きになった彼は、あの世界、あの時間、わたしの隣りに居た善人だけなの」




 たとえ、時間を遡ったとしても。扉を開けた先にいるのは、自分のことを知らない真っ白な彼。

 そんな残酷な世界を歩むことを、カグヤは選べなかった。




「そんなっ。なら、だったらわたし、本当にただのバカじゃない!!」




 ただ、彼女の幸せを願って。彼女のためを思って、時間すら遡ったというのに。

 けれどもそれは、カグヤの恋情を踏みにじるものであった。


 何も知らずに。知ろうともせずに。

 なんと愚かな魔女であろう。


 そう、自分を思うリタであったが。




 包み込むように、カグヤが抱きしめる。





「いいの。もういいのよ。あなたがとても優しくて、わたしを一番に考えてくれているのは、知っているから」





 なぜなら。

 魔女は、かぐや姫の唯一の友達なのだから。





「許して、なんて言わないから。でもせめて、知ってほしいの」


「違うのよ、カグヤ。謝るべきなのは、わたしなのに」




 生まれた星が、世界が、時間が、全てが悪かっただけ。

 本当は、ただ純粋な友達で在れたのに。


 すれ違いも、結末も、そういう運命だった。




「……」




 抱きしめ合う2人を見て。輝夜は、なんとなく既視感を覚える。

 この感情を、自分は知っている。




(あぁ、そうか)




 重なり合う姿は。

 まるで、自分と影沢舞のように。


 心をさらけ出して、全てを打ち明けられる。

 それは友を超えた、”理解者”と呼べるもの。


 この2人は、1000年以上の時を経て、ようやく辿り着いたのだ。





「ごめんなさい、かぐや。いっつもいっつも、つらい役目を押し付けて」


「なに言ってるの。つらい思いをしてたのは、あなたも同じでしょう? そういう運命だったんだから、仕方がないのよ」





 始まりの日から、どれほどの時間がかかったのだろう。

 どれだけの回り道をしてしまったのだろう。



 月で出会った、2人の無垢な少女は。

 こうして、分かり合うことが出来た。






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