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地獄姫 〜初期ポイントを容姿に全振りしたら、とんだクソザコナメクジに生まれ変わってしまった〜  作者: 相舞藻子
ソロモンの夜 Ver.1.41421356237

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鐘の音を

感想等、ありがとうございます






「とりま、やってみるにゃん」




 黒い怪物、その動きを止められるかと問われて。

 防護服姿の女性、タマにゃんは行動に移る。


 取り出したのは、幾重にも改造を施されたスマートフォンのようなもの。限られた資源での改造、その努力の結晶が見えるような代物である。


 タマにゃんは装置を弄くると。

 なにかの”うめき声”のような、おぞましい音が大音量で発生する。




 すると、黒い怪物だけでなく。様子見をしていた炎の怪物たちまでも、悶え苦しむような仕草をして、後ずさっていく。




「ラッキー」



 タマにゃんの発生させた音により、怪物たちが輝夜とリタから離れたことを確認し。

 もう一人の防護服の少女が、輝夜たちのもとへとやって来る。




 黒い怪物の攻撃により、輝夜の腹部は血に染まっている。

 だがしかし、まだかろうじて息はしている様子。




「良かった、ギリセーフね」


「……」




 防護服、分厚いガラス越し。そこから聞こえる声と、薄っすらと見える顔。

 それに対し、リタは言葉を失う。


 なぜなら、それは。

 ずっと、ずっと、探してたもの。




「”カグヤ”、このダミーサウンドも長くは保たないにゃん! さっさと逃げるにゃん」


「……無理よ。こっちのわたしは、下手に動かせば死んでしまう。今、この場所で治療しないと」




 カグヤと呼ばれた少女は、目の前の存在。”自分と同一の存在”を見つめながら、冷静に容態を判断する。




「治療って、どうするにゃん!? そっちの輝夜には、治癒魔法も効かないはずにゃん」


「ええ。だからこそ、奇跡の出番ってわけ」




 魔法でも駄目なら、後は奇跡に頼るしかない。

 防護服のカグヤは、リタへと視線を向ける。




「聖杯、貸してもらえる? あなた、持ってるんでしょ」


「……え」


「ほら、ぼさっとしてないで。早くしないと、この子が死んじゃうわ」




 そう催促されて、言われるがままに。

 リタが手をかざすと、そこに黄金の聖杯が出現する。


 彼女が日本に来る際に発見した、五つの難題の一つ。

 仏の御石の鉢が、本来の持ち主の元へと。




「ありがと、リタ」


「……」




 なぜ、どうして。

 疑問は湯水のように湧き出るも、今は彼女に任せるしかない。


 防護服のカグヤが、聖杯を手に取ると。

 瞬間、眩いほどの輝きが聖杯より発生する。



 この暗黒の世界を照らす、小さな光のように。

 失った光を、聖杯は取り戻す。




「あぁ、良かった。とりあえず、まだ所有者として認められているようね」




 あの頃とは、何もかもが違っている。生きている世界も、時代も、肉体も。

 それでも聖杯は、持ち主をかぐや姫であると認識した。


 五つの難題、五つの宝具。

 それを扱えるのは、創造主である彼女だけなのだから。




「ちょ、マジにゃん!? 宝具を使う気にゃん?」


「ええ、もちろん」


「でもこっちの世界じゃ、コードに引っかかるにゃん」




 宝具の使用に、タマにゃんは驚きを隠せない。

 しかし、カグヤはもう止まらない。




「今が、その時なのよ。――タマにゃん、”コードブレイカー”を!」


「本気にゃん?」


「もろ本気よ。この子を失ったら、向こうの世界に未来は無くなる。変えるのよ、今度こそ、わたし達で」


「……わかったにゃん」




 コードブレイカー、それは世界を変える力。

 タマにゃんは懐から、光り輝く小さな輪っかを取り出した。


 これを、ここで使うという行為。

 取り返しのつかない事と、しっかり認識して。


 託すように、カグヤへと投げ渡した。




「よし」



 それを受け取って、彼女も決意が出来たのか。

 分厚い防護服を、その場で脱ぎ捨てる。




 それ紛うことなく、紅月輝夜と瓜二つの顔した少女。

 髪の毛は少々短くて、まるで巫女のような服装に身を包んでいた。




「リタ、わたしの防護服を着なさい。じゃないと、瘴気で体が腐るわよ」


「なっ、え?」


「ほら、ぼさっとしないで!」


「……わかったわよ」




 もう一人のカグヤに急かされて、リタは彼女の着ていた防護服を身にまとう。




「これが終わったら、いくらでも話してあげるから」




 そう言って。


 カグヤの左手には、聖杯が。

 右手には、コードブレイカーと呼ばれる光の輪が。


 その2つを、1つに。

 重ね合わせるようにして。



 すると、聖杯の持つ輝きが、より一層強さを増す。





 響き渡るは、小さな鐘の音。


 世界を変える力。


 理を壊す願い。





 たった一度の奇跡を纏って。

 聖杯、仏の御石の鉢はその真価を発揮する。




「あぁ、いつぶりかしら。この感覚」




 聖杯に宿る力、自身に流れ込むエネルギー。

 それを感じて、カグヤは安堵の表情を。


 聖杯を、高々と天に掲げた。





「――月の姫が命じる。生命の海よ、この辺獄を満たしなさい」





 その言葉に応じて、聖杯から黄金の液体が溢れ出す。

 勢い、量といい、それは文字通り海のように。



 黄金の海は、その姿を変えていく。

 力強いドラゴンのように、勇ましいペガサスのように、燃え盛る鳳凰のように。



 空想の生物へと姿を変えて、周囲に存在する全ての敵へと襲いかかった。










◆◇ 鐘の音を ◇◆










 暗黒の世界に、輝きが満ちていく。

 これが宝具の力、かぐや姫の真の力。


 彼女の願いが込められた五つの難題。

 その力の一端が、猛威を振るう。




 大量に存在していた、あの炎を吐く怪物だけでなく。

 輝夜に重傷を負わせた黒い怪物までも、その力に圧倒される。


 聖杯から溢れるのは、生命の海、無限の生き物たち。

 その圧倒的なまでの力で、黒い世界を塗り替えていく。




(あぁ)




 その勇姿を、後ろ姿を見つめながら。

 リタは静かに、これが現実であると確信する。


 わたしは知っている、この力、この愛しきヒトを。

 かけがえのない、友の名前を。




 戦局を塗り替えて、圧倒的な力を発揮した、黄金の聖杯。

 だがしかし、


 大きな音と共に、聖杯にヒビが入る。




「そんなっ」




 あり得ない光景に、リタは思わず声を漏らす。

 彼女はこれまでに何度も目にしてきた、かぐや姫が宝具を使う姿を。


 いくら久々に使ったとはいえ、この程度で聖杯にヒビが入るなど。




 しかし、担い手であるカグヤは、別に驚いてはいなかった。

 むしろ、当然であるかのように。




「……コードブレイカー。やっぱり、世界って残酷ね」




 ヒビが入ったことで、聖杯の輝きが急速に失われていく。

 無限にも思えた力が、見る見るうちに衰えていく。


 ならば、最後にこれを行わなければ。




 カグヤは聖杯を手に、横たわるもう一人の自分のもとへと。

 その傷口へ、黄金の液体を注ぎ込む。



 強靭な呪いによって、その身はあらゆる魔法を弾き返す。

 だがしかし、同等の力を持つ聖杯の力なら、呪いを突破することも出来る。


 生命そのものを注がれて。

 輝夜の傷は、癒えていった。




「ありがとう。これまで、ご苦労さま」




 労いの言葉を受けて。

 黄金の聖杯は、粉々に砕け散った。


 五つの難題、そのうちの一つが、こうして失われる。




「……ど、どういうこと? 聖杯が、壊れるなんて」




 またもや、リタの理解を超えていく。

 かぐや姫の宝具が失われるなど、未来でも起こらなかった現象である。

 それが、たった一度の使用で失われてしまった。


 使用者であるカグヤ本人は、この結末を受け入れている様子。




「ここは、ルールが違うのよ。強すぎる力は、コードによって弾かれる。あの怪物たちを追い払うためにも、コードを超える必要があった。その代償が、これってわけ」


「にゃー。それに、コードブレイカーは一度きりの切り札だったにゃん。この10年の努力の結晶が、粉々にゃん」


「ごめんなさい、タマにゃん。でも、これでいいのよ」


「……にゃ。それもそうにゃ」




 あの聖杯の輝きのために、一体何を犠牲にしたのか。

 何も知らないリタには、分かるはずもなかった。




「それじゃ、シェルターに戻るわよ。わたしが、わたしを運ぶから」


「にゃはは、了解にゃん」




 そう言って。

 カグヤが、もう一人の輝夜を抱きかかえる。


 その異様な光景に、リタは未だに放心状態である。




「ちょっと、なにボケっとしてるの? ……話したいこと、いっぱいあるんでしょ?」




 あの時、輝夜は言った。

 ”あのネックレスは、所有者の望む場所へと転移させる道具なんだよ”、と。


 あり得ないと思っていたが、今なら信じられる。




「えぇ」




 リタは立ち上がり。

 懐かしい友の背中を追った。






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