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4図書委員

「さて。俺は何をすれば……?」


 図書館に来てみたが、勝手が分からない。 


 図書委員の仕事は簡単に言えば、図書館の清掃や本の整理などだ。その他にも受付担当などあるのだが、前任の岡島さんが整理担当だったので俺はその仕事を引き継いだ形になる。


 放課後の図書館だが、この学校では本に興味があるやつが少ないらしくて人はちらほらと見える限りだ。


 本の数は十万文字以上。さらに調べ物が出来るパソコンまで完備されている。こんなに良い条件が揃っているのに誰も来ないなんてどうかしてるぜ。


 どうするかなー、何て考えているとマイ天使(エンジェル)が降り立った。


「……何してるんですか、兄さん」


 そこには不審者を見る様なジト目の紗耶香がいた。


「いやあ、図書委員になっちゃってさ。何をどうしたらいいのか分からなくて……。困ってた?」

「何で疑問形何ですか。……全くもう。着いて来て下さい」


 何が何だか分からないが、とりあえず紗耶香に着いて行くと受付カウンターの裏まで連れていかれた。そして棚から一着のエプロンを取って、俺に渡した。


「これ。着て下さい」

「エプロン?」

「ええ。図書委員は仕事中は着る事になってるんですよ。知らなかったんですか?」

「あー、そういえば……」


 思い出してみると本を借りる時にいる受付の人はエプロンをつけていた気がする。


 俺もエプロンをつけてみると想像以上に似合わない。これが似合うのは眼鏡男子か女の子だけだよ……。


「…ぅ………」


 ほら、紗耶香も絶句するほどだ。相当似合っていないのだろう。


 今から気が重いが、ロッカーの鍵と引き換えの仕事だ。しっかりやらないとな。


「それじゃあ紗耶香先輩。ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」

「やっ、やめてください。兄さんの方が年上じゃないですか」

「いや、図書委員としては紗耶香の方が先輩だから」

「はあ。まあ、いいです。仕事の説明をしますから、付いて来て下さい」

「はい! 紗耶香先輩!」


 紗耶香と一緒に本棚の方に向かう。

 図書館の構造は一階と二階が吹き抜けになっていて、吹き抜け部分の一階に受付カウンターがある感じだ俺と紗耶香が向かった本棚は二階。どちらかと言えばマニアックだったり、古い本があるコーナーだ。


「と言っても、私達の仕事は基本的にジャンル別に分別する事だけですが」

「そうなのか?」

「はい。ジャンル別に分けたらあいうえお順で並べます。それと本の状態確認ですね。悪戯されている事があったりするので、そういった事がされていないかを分別と同時作業で行います」


 それなら俺にでも出来そうな簡単な作業だ。

 ただ……。


「それって、専門の係をつけてまでやる事か?」

「いえ。まあ、人数合わせのために無理矢理作られた仕事ですからね」

「やっぱり?」

「ええ。まあ、私は地味な仕事は好きなので良いですが」


 そう言いながら、棚から一冊の本を取り出してパラパラとめくり出した。

 なるほど。そうやって確認するのか。


 地味な仕事が好き、か……。まあ俺も嫌いではない。反対側の棚から本を取り出して、パラパラとめくる。


「岡島さんはどうしたんですか?」


 紗耶香がそう聞いてきた。その口ぶりからすると岡島さんの事を知っているみたいだな。まあ同じ委員会だし、当たり前か。


「何か、子供出来たらしいよ」

「えっ!?」


 紗耶香は図書館で大声を出してはいけない、という事を思い出してハッとして口を塞ぐ。

 まあその気持ちもわかるけどな。俺もめっちゃびっくりしたし。


「で、でも、お相手は……?」

「社会人らしいし、結婚するんじゃないかな?」

「なるほど、そうですか……」


 それだけ聞いて紗耶香は作業に戻った。

 少しして小声で言った「いいなぁ…」という呟きが頭から離れなかった。



 それからは黙々と作業をした。途中で面白そうな本を見つけたので、後で借りて読んでみるのもいいかもしれない。

 それにしても全く別の場所にあるはずの本まであったぞ。どうなってるんだ。あっち行ったりこっち行ったりでかなりの時間をロスしてしまった。


「……兄さん」

「ん?」

「兄さん、時間ですよ?」

「ん。もうそんな時間か」


 紗耶香に呼ばれて気が付く。近くにあった時計を見ると二時間も経っていた様だ、

 ずっと同じ姿勢でいたせいで身体が固くなっていたので、んーっと身体を伸ばすとぽきぽきと音がする。


「疲れたー」


 それにしても、二人でやって二列って効率悪すぎだろ……。もっとこう、他にも仕事あっただろ。例えば宣伝用のポスターや学校で配る図書館のプリントの作成とか、色々とさ。


「荷物はここのカウンターに置いて行っていいですからね」

「うちの担任よりはホワイトだな」

「え?」

「いや、何でもない」


 あの人、地獄耳だから聞かれるとマズイ。


 エプロンをカウンターに置いて、当然の様に一緒に並んで帰る。嬉しい。


 ただ校門で部活終わりの生徒達から注目を浴びて、紗耶香の友達っぽい二人組の女の子から話しかけられた。


「あ、白雪さん」

「その先輩ってもしかして……」

「そうですよ」

「「きゃ~!」」

「お幸せにね!」

「今度話聞かせてね!」

「はい。また明日」


 紗耶香は二コリと笑って、二人の友達に手を振った。

 

 ふむ。二人が俺の事を知っていたみたいだし、もしかして……。


「もしかして、俺の事って下級生でも噂になってるの?」

「ええ。朝は凄く追及されましたね」

「ふむ。その様子だとあまり困っていないみたいだが?」

「へ?」


 信じられないという表情でペタペタと顔を触って確認する。何その仕草、可愛い。


「そう、ですか……?」


 良く分からない様で首を傾げているが、かなり表情に出ている。


 それだけ気を許して貰っている証拠なのか、今までは俺の前では見せなかった表情を見せてくれるようになった。


 それから二人で話しながら家へ帰る。

 

「あ、そうだ。弁当美味しかったよ」

「っ。そう、ですか」

「ああ。もう毎日でも食べたいくらいだ」

「……なら、明日も作りますか?」

「まじで!?」

「兄が菓子パンばかりで身体を壊されたら溜らないので」

「ははっ。その時はまた看病してくれよ」

「……考えておきます」


 二人で一緒に同じ場所に帰るという事に妙な嬉しさが俺の心の中に広がっていた。

ちなみに図書委員は当番制で週に二回やる事が決まっていて、前任の岡島さんが紗耶香と一緒のペアになっているので、裕次郎も紗耶香と週二回、一緒に図書委員をやります。


岡島さん。名前だけの登場ですがとっても優しいのでファンになってあげてください。


ここまで読んでいただきありがとうございます。ブックマークや高評価、感想など作者のモチベーションアップに繋がりますので是非よろしくお願いします。

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