3先生
マイペースに投稿して行きますが、長い目でお楽しみください。
カツカツと音を鳴らして、チャイムと同時に教室に入って来たのは俺達の担任の黒川真純先生だ。黒い長髪を腰まで伸ばして、目の下に隈を作って紗耶香とは違った意味で目付きが鋭い。服装はいつも黒いスーツを着ているのだが、スカートではなくズボンで、さらにスレンダーなのも影響してるのか、どうみても堅気の女には見えない。
それと俺は何度か車に乗せてもらった事があるのだが、先生が運転する時はサングラスをかけて、手袋を嵌めて、片手にたばこを持つその姿は完全にヤクザみたいになるのだ。
そんなんだから彼氏も出来ねえんだよ、と言ったら「神が私に恋人を作るなと言ってるんだよ!」と思い切り拳骨を喰らわされて終わった。
ただ美人なので学校内での人気は紗耶香にも匹敵する、学園の二大美女の一人(勝手に作った)。
「あー、あと裕次郎。お前、昼休みに準備室来い」」
「はい?」
滅多に個人で人を呼んだりしない先生からの突然のお呼び出し。え、何それめっちゃ怖いんですけど。
クラスメイト達からも「お前何やったんだよ……」「よっぽどの事したのね……」とか憐みの目を向けられるしさ!
そして昼休み。休憩時間もクラスメイト達からの追求を受けてクタクタになった俺は国語準備室まで来ていた。それに重量級の弁当袋も一緒に持ってきた。だって食べる時間無いし、話を聞きながら食べるとしよう。
「失礼しまーす」
適当に扉をノックして、返事を聞かずにズカズカと侵入する。
「おう。来たか」
実はこの国語準備室に俺は頻繁に出入りしているので、もう勝手も知っている。何なら先生よりも俺の方がどこに何があるのかを知っている。次のテストの答案の隠し場所も知っている。まあカンニングとか面倒くさいのでやらないけどな。
この部屋には仕事をするためのデスク以外にローテーブルとソファがあるので、そこに腰を下ろす。先生も向かい側のソファに座ると俺が持ってきた弁当を珍しそうに見た。
「ん? 何だ、弁当か。珍しい」
「妹が作ってくれたんすよ」
「あー。お前ん家に居候してるっていうあの子か」
「そうっすね。てか、生徒の前でたばこ吸ってもいいんすか?」
「お前はノーカン」
酷い……。別に俺は良いんだけどな。
弁当袋から弁当箱を取り出して、蓋を開ける。二段構えになっていて一段目にはおかず、二段目にはお米のホットランチになっていた。ホカホカと湯気が出ている。
すごく美味しそうだ。まずは綺麗に焼けている卵焼きに、魚の形のケースに入れられた醤油を垂らして頂く。
うん。めっちゃうまい。
「それで先生、話って何です?(もぐもぐ)」
「いや、食べ終わってからでいいぞ」
「まじすか。あざす」
その後はケチャップで味付けしたタコさんウインナーを白米と一緒に掻き込む。美味い!
白身魚のフライも美味い! ご飯に振りかけられた鮭フレークも美味い! ブ、ブロッコリーも……う、美味い……。
かなり量が多いと思っていたんだが、意外にもあっさりと完食することが出来た。
「はー。美味しかった」
「随分と味わって食っていたな」
「そりゃあ愛しの妹が作ってくれた弁当ですから」
「シスコンか」
「シスコンで何が悪い」
「あ、うん……」
おお、珍しく先生が言い淀んでいる! 俺の勝ちだ!
嬉しくてガッツポーズをすると、右の肩が痛んだ。
痛てて……。
「何だ、痛めたのか?」
「いや、実は教科書が重くって……」
「自業自得だろ」
そう。いつもの学生カバンなら肩にかけても痛くも痒くも無いのに…………教科書重いんだよ! それだけじゃなくてノートとか筆箱とか色々入ってるんだぞ! 肩外れるかと思ったわ!
全国の小中高学校に言うが、置き勉を許可しろ! まじで肩とか腰とか背骨とか死ぬぞ!
「さて、裕次郎君。君だけが置き勉をして怒られている理由はわかるかい?」
「分からないです!」
本当に何で俺だけ置き勉だめなんだよ……。置き勉専用のロッカーだってあるのに。
「それはね、君がロッカーの鍵を忘れたからだよ」
「おお!」
いやあ、それは盲点だった。
確かに良く考えてみれば鍵が無くて、ロッカーが開けられなかったと記憶している。
なるほど。そういう事だったのか。
すると先生が懐から一つの鍵を取り出した。
「実はここにロッカーの鍵のスペアがあります」
「おお! 流石先生、超絶美人! ――――って、あれ?」
「タダで渡すわけが無いだろう?」
取ろうとした鍵をひょいっと上に挙げられて、取れなくなってしまった。
先生の顔を見るとニヤッと口角を上げている。最初から渡すつもりが無かったな……。
「くっ、何が目的だ! まさか俺の身体……」
「いらんわ!」
バシッ、と近場のティッシュ箱で顔面を叩かれた。痛い……。
「体罰っすよ、これ……」
「ふん。ここには私とお前の二人しかいないからいいんだよ」
「うわ最悪だこの人」
女教師の暴挙に驚愕し、ちょっと引いた。
ただこの程度はいつもの事なので忘れて、スッと頭の中を入れ替える。机の上に両肘を突き、両手を重ねてそこに顎を乗せて神妙な雰囲気を作り出す。
「……それで条件は?」
「図書委員に入ってくれ」
「え、それだけですか?」
「うん」
何か、意外。
「何だ、何か言いたそうだな」
「いや、だって、今までの条件に比べたら簡単過ぎて……」
思い出しただけでも恐ろしくて身震いしてくる。
「そんなにキツイ条件が良いのなら、別のに……」
「ごめんなさい嘘です勘弁して下さい」
先生の背後に黒いオーラが……!(震)
……まあ、冗談は置いておこう。
「てか、図書委員って岡島さんの仕事じゃなかったんじゃ?」
「あー、岡島はな、子供出来たから退学するってよ」
「は!? え!? まじで!?」
「おう。二個上の社会人の彼氏らしいぞ」
うへー、まじか。まじかー……。
岡島さんはクラスでは冴えない方の女子で陰キャの部類だったのかもしれない。少しぽっちゃりしているがおっとりした性格で、何故モテないんだろうと思っていたんだが……。
「子供、ですか……」
「子供だな……」
産まれてこの方、彼氏も彼女も出来た事が無い二人で顔を合わせて「はあ」とため息を吐いた。
岡島さん、どうかお幸せに~。
黒川先生、まじ半端ねぇっすよ。サブヒロインの一角が登場しました。
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