第78話 【訓練の成果・2】
合図と同時に動いたのは、ニーアの方だった。
ニーアは使う属性魔法は〝火・水・風〟の三属性で、その中でも得意とする風の魔法を最初に放って来た。
「吹き荒れろ!」
グレンの無詠唱とは違い、ニーアは詠唱短縮によって魔法を発動させた。
発動された魔法は風属性の魔法の中でも、特に範囲攻撃として高い攻撃力のある〝ストーム〟だった。
「前もそれは見たぞ、ニーア」
「昨日の私と同じだと思わないでねっ!」
そうグレンは言うと、その魔法に向けてグレンは雷属性の魔法をぶつけた。
しかし、そのぶつけた魔法の後ろから新たな魔法、水属性魔法〝ウォーターランス〟がグレンに迫って来ていた。
最初の魔法は敢えて大きな声で叫んだのかと、その魔法を目にしてグレンは思った。
「だがその魔法、一つ前の魔法に比べて威力が乏しすぎるぞ」
「ッ!」
戦法は良かったが魔法へ込める魔力が少なく、ウォーターランスの威力は低くグレンが放った小さな雷魔法で軽く相殺された。
「ほら、どうした? もう攻撃は終わりか? なら、次はこっちから行くぞ?」
グレンはそう言うと、両手に雷魔法を発動させニーアに向けて放った。
放たれたその魔法は、二つが一つに重なり物凄い威力でニーアへと迫った。
その威力に相殺は無理だと感じたニーアは、咄嗟に風魔法で移動して魔法の回避に成功した。
「ほう、今のを避けるか。流石、Aランク冒険者だな」
「これでもグレンが来る前までは、クラン内で一番の魔法使いって呼ばれてたからね。そう言われてただけの実力は、自分ではあると思ってるわ」
「ああ、その通りだな」
感心するグレンにニーアは、嬉しそうに笑顔となった。
その後も戦闘は続き、戦いが終わる頃には訓練場として使っている平原には大きな穴が何個も開いていた。
戦いの結果は言うまでもなく、グレンの勝ちであり、ニーアは魔力枯渇状態だが、戦いに満足して嬉しそうに横になっている。
「グレン、どうだったかしら? 今日の私の戦いは」
「まあ、戦法は良かったぞ? ただ戦闘に夢中になるにつれて、魔量操作が乱れて一つ一つの魔法が弱くなってたな」
「うぐっ、そこはほら楽しさが……」
「戦いを楽しむなとは言わないが、その癖は治した方が良いな。もしも、実戦で気持ちに変動して力が左右されていたら命を失うリスクは高いからな」
「……はい」
グレンからの言葉にニーアは、少し落ち込みそう返事をした。
その後、試合を申し込むような者はニーアしかいないので、いつもの訓練へと戻り一日を過ごした。
「グレンさん!」
「リックか、どうした?」
訓練が終わった後、全員をクランハウスに連れ帰ったグレンは帰宅しようと建物から出ると、リックから声を掛けられた。
「この後って用事ありますか?」
「いや、特に無いな。それがどうした?」
「その、グレンさんが良ければなんですが、ちょっとだけ訓練に付き合ってもらえませんか!」
リックのそのお願いにグレンは、少し考え「良いぞ」と返した。
グレンから了承の言葉が帰って来ると、リックは満面の笑みで「ありがとうございます!」とお礼を言った。
「それで、どうする? もう日は落ち始めてるから、外で訓練は危険だしクランの訓練場を借りるか?」
「はい、剣術を見て欲しいのでクランの訓練場でお願いします」
そうしてリックと訓練をする事になったグレンは、クランの正面玄関とは反対にある屋外の訓練場へと移動した。
訓練場には既に自主練をしているメンバーが居て、グレンを連れてやって来たリックに「許可してもらったのか!?」と驚いた様子だった。
「んっ、何だ。お前等も俺に訓練見てもらいたかったのか?」
「あっ、その毎日訓練付けて貰ってるのに、訓練が終わった後も付き合ってもらうのはと……」
「何だ。そんな事を気にしてたのか? 別に用事が無い日は、俺も暇だし声を掛けてくれたら来るぞ? まあ、でも今日はリックが先約が入ってるから、もし見て欲しい奴がいるならリックのが終わってからだけどな」
そうグレンは言うと、木剣を棚から二本取り一つをリックに渡した。
「さあ、リック。始めるか」
「はい! お願いします!」
元気よく返事をしたリックは、グレンと向き合い剣を構えた。
「それじゃ、行きますよ。グレンさん!」
「おう。いつでもかかってこい」
グレンがそう言うと、リックは勢いよく駆けだした。
体の動かした方で言えばリックは、悪い方では無い。
元々弓使いだったリックはグレンに憧れ、剣士になったが弓使いで培った動体視力や観察眼は剣士となった今でも活かされている。
「ハァッ!」
グレンへと接近したリックは、木剣を強く握り振り下ろした。
リックのその攻撃に対して、グレンは片手で握った木剣で受け止め、弾き返した。
「前の時から、力も大分上がっているな」
「はい。毎日、グレンさんから教えて貰った筋トレをやってるおかげですっ!」
木剣を弾かれ体勢を崩していたリックは、素早く体勢を戻してそう言葉を返すと、再びグレンに向かって攻撃を仕掛けた。
山で鍛えられた身体能力に、元弓使いとしての観察眼、そしてグレンに教え込まれた剣術に、体の鍛え方。
それら全てを出すリックは、剣士として中級冒険者並みまでこの二週間で一気に成長していた。
「ふぁ~……やっぱり、グレンさんには一回も当たられなかったぁ~」
試合が始まって一時間程が経ち、リックは体力の限界を迎え地面に横になり、そう悔しそうに言った。
そんなリックに近づき、グレンはタオルを渡した。
「良い動きだったぞリック」
「でも、まだグレンさんには当てれそうにないですね……」
「まあ、そこは頑張り次第だろうな。リックは眼と観察眼が他の奴と比べて高いから、そこを使った戦い方をもった訓練すれば良い剣士になれると思うぞ」
そうグレンが言うと、リックは笑みを浮かべて「ありがとうございます。これからも、頑張ります!」と嬉しそうに言った。
その後、訓練場で待っていた他のメンバーの訓練の成果をみたりしてる間に、完全に陽が落ちてしまっていた。
歩いて帰るのも面倒だなと感じたグレンは、訓練場に残っているメンバー達に「じゃあ、また明日な」と言って転移眼で自宅へと帰宅した。
「……何で、お前が家の中に居るんだよ」
「にゃ? グレン君の帰りをまってたにゃ!」
家に戻ったグレンの視界に何故か、家の中で寛いでいるキャロルの姿があった。
「フローラに頼んで防犯用の魔道具でも設置しておくか……」
特に高価な物がある訳では無いからと、防犯用の魔道具を設置していなかった事をグレンは後悔してそう言った。
「それで、何の様だ。クソ猫、新しい情報でも入ったのか?」
「それは残念ながら無いにゃ、上手く隠されてるみたいにゃ。あたしが来たのは別の理由にゃ」
「別の理由?」
キャロルの言葉にそうグレンが返すと、キャロルは懐から一枚の手紙を取り出し、グレンに渡した。
「手紙?」
「そうにゃ、グレン君宛てにゃ」
手紙なら普通に出せばいいだろうと思いつつも、その渡された手紙の封を切ったグレンはその中身を確認した。
その手紙には、直接会いたいという内容が書かれていた。
「俺に会いたいなら、態々手紙をキャロルに渡さなくてもいいだろ」
「そう言う訳にはいかない相手にゃ。ちゃんと、名前を確認したかにゃ?」
キャロルにそう言われたグレンは、見落としていた差出人の名前を確認した。
「聖女ティア・リュレクス……」
その差出人の所に書かれていた名前に、グレンは驚きその名前を口にした。
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