第07話 【眼の力・2】
「そんなに大きな声を上げちゃって、グレンは気づかなかったの?」
「気付くわけないだろ、妖精が契約したとかって普通の人間は分かるものなのか?」
「分かる人は分かるわよ。だって、妖精と契約したらその妖精の力の一部が契約した相手に行くもの」
「そ、そうなのか? あっ、いや前に確か本で見た事があるな……」
幼少期の頃の記憶に、妖精に関して書かれていた本を見た記憶がある。
確か妖精と契約すると、魔法の威力が上がったり、腕力が上がったりするって書かれていたっけな?
「でも俺そんな変わった感じなんて、全く感じてないぞ?」
「……多分だけどグレンが気づかなかったのって、私のせいかもしれないわ」
「へ?」
フレイナは申し訳なさそうに、次のような事を言った。
フレイナは妖精族の頂点に立つ存在。
そのフレイナが唯一契約者として選んだのが俺で、そんな俺に対して普通の妖精が契約してもフレイナの力が強すぎて俺が気づいて居なかったかも知れないと言われた。
「って事は、フレイナのせいじゃないかッ!」
「し、仕方ないじゃない! 私だって初めての契約者なんだもん!」
「も、もんってキャラに似合わない言葉遣いするなよ……」
フレイナの返し文句にそう俺が言うと、フレイナは目をウルウルとさせてギュッと抱き着いて来た。
ちょっ、おまっ!
「は、離れろフレイナ! 流石にそれはヤバいって!」
「煩い煩い煩い! グレンが悪いんだもん!」
「わ、分かったから! 俺が悪いから、離れろって!」
逃げようとすれば、逆に力を入れて離さない様にフレイナは抱き着いてくる。
「ま、マジで……おい! お前ら助けろよ!」
「え~、超楽しそうだし~」
「グレン。僕達の力気付いてなかったしな~」
こ、こいつら……困ってる俺の姿を見て、ニヤニヤと笑いやがって! 絶対に楽しんでるだろ!
その後、俺はフレイナから逃げる為に転移眼を使ったが、転移した先に待ち構えていたりと逃げるに逃げられず、裸のまま妖精界を追いかけっこする事になった。
「はっくしょんッ! うう、完全に風邪ひいた……」
「ご、ごめんねグレン……」
次の日、裸のまま追いかけっこした事で体冷えたまま寝た俺は、目を覚ますと風邪の症状が出ていて、ぶっ倒れていた。
そんな俺の傍には、申し訳なさそうな顔をしたフレイナが居る。
「もういいよ。俺も悪かったし、お互いさまって事で今回の事は水に流そうな」
「うん……」
フレイナは下を向いたままそう返事をすると、果物持ってくるねと言って椅子から立ち上がり部屋から出て行った。
「……そういや、病気になったの久しぶりだな」
幼少期の俺は、よく病気になってその度にシスター達を心配にさせてたな……
「そういや、マリアさん元気かな……」
あの日、故郷に戻った時にあの場に居なかったけど、マリアさんも俺の噂信じてたんだろうな……
そんな事を考えながら、俺はフレイナが帰って来るまで少しの間、眠る事にした。
◇
風邪でぶっ倒れた日から数日後、完全に調子を戻したグレンは眼の訓練を続けていた。
フレイナや妖精達の力に気付いたグレンは、それまで不安定だった力の制御が大分ましになり、訓練のスピードが格段に上がった。
「グレン。次はもっとスピードを上げるわよ」
「おう。今の倍のスピードと倍の量の魔法を頼むぜ!」
眼の力に慣れたグレンは、気合十分にフレイナにそう宣告した。
その言葉にフレイナは「うふふ、良いわよ!」と返し、それまでの倍のスピードに倍の量の魔法をグレンへと放った。
グレンはフレイナの攻撃に対し、眼の力を存分に使い全てを避け切った。
「たった数日でここまで変わるなんて、人間の生態ってほんと良くわからないわね~」
「自覚して無い力を自覚して、自分の限界も知れたからだろうな。前までは、セーブしてた所もあって、それで本来の力を引き出せてなかったんだろうな」
「自覚するだけでそこまで変わるのは、そんなにいないと思うわよ……」
そう言うフレイナだが、心の中ではグレンが完全に眼の力を扱えるようになって嬉しい気持ちでいっぱいだった。
今すぐにでもグレンに抱き着きたい気持ちだが、先日のお風呂事件の事もあり最近は自分の行動を自重している。
「ねえ、グレン」
「んっ? 何だ?」
訓練を終えたグレン達は、風呂場に向かっているとフレイナがグレンに歩みを止めて話しかけた。
「グレンはいつ、妖精界から出て行っちゃうの?」
この一月の間、フレイナはその事をグレンに聞く事が出来ていなかった。
これまで力の訓練という課題があり、この一月間妖精界に滞在していた。
しかし、その訓練も今日で終わってしまった。
フレイナは、いつグレンが自分の元から消えてしまうのか、心配で今日まで聞く事が出来なかった。
「……あぁ~、うんそれ俺も忘れてたんだよな」
「えっ?」
「いや、妖精界って人間には住み辛いのかな? って最初は思ってたけど、俺の部屋も用意してくれてるし、訓練にはフレイナが付き合ってくれるし、飯がちょっと種類が無いけど、風呂もあって意外と住みやすい環境なんだよな」
グレンは外の世界の暮らしよりも、妖精界の生活はかなり楽しんでいた。
「あっ、でも折角訓練とかして強くなってるから、外の世界で腕試しはしてみたい気持ちはあるな……」
「ね、ねぇグレン。出て行こうって考えてなかったの?」
「えっ、何で?」
「何でって、ここ私と子供達しか居なくて同じ人間が居ない世界だから、出て行きたいのかなって……」
「いや、俺そもそも外の世界で酷い男呼ばわりされてるんだぞ? ここなら、まあ多少不便はあるけど外の世界と妖精界。どっちで暮らして行きたいかって聞かれたら、迷わずこっちを選ぶぞ?」
そうグレンが言うと、フレイナは呆気に取られ数秒間固まると、目から涙を流してグレンに抱き着いた。
「ちょっ、またか」
行き成り抱き着かれたグレンは、フレイナを引きはがそうとしたがフレイナの様子がいつもと違う事に気付いた。
いつもなら楽しそうに抱き着くフレイナが、今はただただ涙を流して小さな声で「良かった」と呟いていた。
流石のグレンもこんな様子のフレイナを引きはがすのは忍びないと思い、今はただ抱き着かれていようと考えた。
【作者からのお願い】
作品を読んで面白い・続きが気になると思われましたら
下記の評価・ブックマークをお願いします。
作者の励みとなり、作品作りへのモチベーションに繋がります。