第59話 【作戦決行・3】
そして転移した場所は、王都から少し離れた平原だった。
「誰だッ!」
その場にいた男は、突如現れたグレンに声を荒げて武器を構えた。
そして、男と一緒に居る3人の女もまた同様に武器を手に取った。
夜遅く、丁度月が雲に隠れてしまったタイミングで、男はグレンを認識する事が出来なかった。
「誰とは酷いな、アレイン。こんな夜更けに、王都から逃げるように出て行くのを見かけて、追いかけて来てやったんじゃないか」
「ッ!」
グレンの声を聞いて、アレインと元仲間達は驚愕に顔を歪めた。
「得意の話術ではどうしようもなくなって、逃走の準備をしていたのは前もって知っていた。そして、俺が王城に居るであろうこの日を狙ってるのもな……昔の方が用意周到だったぞ、冒険者になって腕が鈍ったんじゃないか?」
「な、何を言ってるんだよグレン。俺達はただ依頼を受けて、そこに向かってるだけだぞ」
グレンの言葉に、アレインは慌てて言葉を返した。
そんなグレンとアレインの会話に、女達が割って入って来た。
「グレン君、今更私達の所に来て何をしたいの、グレン君は私達とはもう関係ないのよ」
「そうよ! あんたは関係無いんだから、付きまとわないでよ!」
「もしかして、今更仲間に入れて欲しいとでも言いに来たの?」
エミリー、ユリ、エレナの順にグレンを責めたてる。
そんな女達の言葉に、グレンは溜息を吐いた。
「ああ、確かに俺はお前らとは無関係だ。関わりたくもない、ただな、元仲間としてケジメは俺がつけてやろうと思って来たんだよ」
グレンの言葉に、アレインは苦虫を噛み潰したような表情となった。
正直、グレンは本当にアレイン達に関わるつもりは全く無かった。
王都に帰って来たのも知り合いが居るし、暮らしやすいからという理由だ。
アレイン達の事は嫌いだが、復讐心などはほぼ無いに等しかったから、関わらないならそれで良いとさえ思っていた。
そんなグレンの思いが変ったのは、アレイン達とギルドで再会した時だ。
再会して直ぐに、アレイン達に鑑定眼を使用した。
その際、グレンはアレイン達がこれまで犯した罪を確認していた。
「お、俺は何も知らない! 出鱈目を言うんじゃねぇ!」
「出鱈目か……確かに当時、その場を見ていた者はこの場には居ないな、だが証拠ならお前が沢山持ってるだろ? その剣だって、証拠の一つだろ?」
「ッ!」
アレインの持っている剣、それの本当の持ち主は既にこの世界には居ない。
「それ以外にもお前等が身につけている装備は全て、お前らが盗み、騙し、殺して奪った物だろ」
グレンのその言葉に、アレイン達は最早グレンを生かしておいたら自分達の生活を脅かされるだけだと悟った。
エミリー達は魔法を発動させ、アレインは剣を構えて突っ込んできた。
「死ねぇぇぇ!」
叫びながら突撃してくるアレインにグレンは溜息を吐きつつ、魔法をアレインの持つ剣を狙って放った。
「グゥッ!」
グレンの魔法は剣に直撃し、アレインは剣を手から離してしまい武器を失った。
「くっ、くそッ! なんで、お前が今更俺を邪魔するんだよ!」
どうしようもない実力差に、アレインはそう叫んだ。
自らの行いに対して、非を感じていないその叫びに、グレンは冷めた目でアレインを見つめた。
そしてそんなアレインに対して、グレンは風魔法を放ちエミリー達の元まで吹き飛ばした。
「アレイン君!」
吹き飛ばされたアレインを見て、エミリー達は慌ててアレインの元に近寄った。
そしてアレインの痛ましい姿を見て、エミリー達は怒りの形相でグレンに魔法を複数放って来た。
グレンはそれらの魔法を全て、自身の持つ魔力だけでかき消した。
魔法を使った事で魔力切れを起こしたのか、座り込んだエミリー達にグレンはゆっ
くりと近づいた。
「く、来るな!」
「来ないで!」
近づくグレンに恐ろしさを感じるアレイン達、既に逃げる力は残って居らず近づくグレンをどうする事も出来なかった。
「謝罪の気持ちも無い程、腐っていたんだな……じゃあなアレイン、エミリー、エレナ、ユリ」
「「ッ!」」
グレンはそれだけ言うと、アレイン達に向けて【雷魔法】を放ち気絶させた。
少しでも罪の意識を感じていたのであれば、まだ人として道を取り戻せるように取り計るつもりでいた。
心の底から嫌いな奴等だが、それでも同じ場所で育った幼馴染であるアレイン達に情けをかけてやろうと考えていた。
それからグレンは、アレイン達を縛ってガリウス達の居る牢屋へと運んだ。
「グレン、大丈夫か?」
牢屋にアレイン達を連れて来たグレンの顔を見たガリウスは、心配した様子で声を掛けた。
「まあ、疲れてるな……この後の事は、任せても良いか?」
「ああ、任せろ。だから、今日はもうゆっくりと休め」
ガリウスからそう言われたグレンは、「ありがとな」と言っていつの間にか戻っていたフレイナ達と一緒に宿に帰宅した。
それから数日後、国から国民に向けて驚きの報が発せられた。
その内容とは、デュレイン国の貴族の4分の1が反逆罪で捕縛され、更には王都で隠れていた犯罪者達を一掃したという内容だった。
更に多くの者が驚いた事実は、その事件解決に多大な貢献をした人物の名前だった。
「なあ、マジでまた王様に会わなきゃいけないのか?」
「当たり前にゃ、あたしは殆ど役に立てにゃかったけど、グレン君は事件の解決に貢献したにゃ。そんなグレン君を国が称えない訳無いにゃ」
「……はぁ、もう良いよ。サッと終わらせて、早く温泉旅行に行くか」
グレンはそう呟き、温泉に心惹かれながら、重い足取りで王城へと向かった。
それから連れていかれた広間では、国王の横に王妃様が居て、グレンは達成感を少し感じた。
その後、グレンは多くの貴族が見守る中、国王と王妃様から感謝の言葉を送られ、そして感謝の言葉だけではなく大量の金貨も送られた。
「あっ、グレン様!」
そうして式が終わり、さぁ後は旅行の準備をして温泉旅行だ! と意気込んでいたグレンの元に、前にも会った事のある兵士が現れ呼び止めてきた。
嫌な予感を感じつつも足を止めたグレンは、嫌そうな顔をして振り向いた。
「す、すみません。国王様達がグレン様とお話があると……」
――嗚呼、俺の温泉~!
口には出さなかったグレンだったが、心の中でそう叫び兵士と共に国王達の元へと向かった。
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これにて第一部は完結です! 幼馴染達へのざまぁまで約10万文字も掛かってしまいましたが、何とか出来て作者はホッとしています。
まだ物語は続きますので、これからもよろしくお願いします!
2020/12/29:多くの方からご意見を頂き、キャラ同士の掛け合いを少し増やしました。





