第57話 【作戦決行・1】
昇格した日から数日後、グレンの元に王城からの招待状が届いた。
フローラの所で作った紳士服に身を包んだグレンは、若干緊張しながらいつもの隠し通路からではなく、正面から城の中へと入った。
使用人に案内される形で、国王の元まで連れてこられた。
デュレイン国現国王の名は、グラヴィス・フォン・デュレイン。
王とは思えない程、かなり鍛えられた肉体をもっていた。
この日は、普通に謁見だけであったが、グレンはひどく疲れた様子で広間から出て来た。
「あ~……マジで、緊張した……」
(ふふ、グレンが緊張する顔ってあまり見れないから新鮮だったわ)
疲れた顔をしているグレンに対して、フレイナはそう笑いながら言った。
これで後は、二日後のパーティーに向けて準備するだけだとグレンが思っていると、国王の近衛兵の一人に声を掛けられた。
「すみません、グレン様。国王様が、グレン様とお話がしたいと仰っておりまして……」
帰宅する気満々でいたグレンに対して、兵士は申し訳なさそうにそう言って来た。
流石に国王の願いを断る訳にもいかず、グレンは兵士に連れられる形で広間とは別の部屋に通された。
通された部屋には既に国王が居て、連れて来た兵士は国王に一礼をすると退出し、部屋の中には国王とグレンの二人だけとなった。
「すまんな、急に呼び出してしまって」
「い、いえ! 私もこの後は帰宅するだけでしたので」
国王から謝罪を受けたグレンは、慌ててそう慣れない敬語を使い言葉を返した。
そんなグレンの様子に、国王は笑みを浮かべた。
それからグレンは、国王と向かい合うようにしてソファーに座った。
「ここは公の場では無いから多少砕けた口調でも良いぞ、冒険者の殆どは敬語を使い慣れてないと知っているしな」
「あ、ありがとうございます。あの、それで何故俺は呼ばれたんですか?」
「謁見では深く話す事は出来なかったからな、こうして人目のない場であれば少しは色々と話せると思ってな」
「色々ですか?」
グレンにとって、国王とは初めて会う為、そんな色々と話せるような事はあったかな? と少し頭を悩ませた。
「ああ……お前が、リシアナと組んでいる事は既に知っているよ」
「ッ!」
国王のその言葉に、グレンは驚き立ち上がった。
そんなグレンに対して、国王は「そんな慌てんな、この部屋に入った時点で防音はしている」と言ってグレンを席に座らせた。
内心困惑しているグレンは、ソファーに座りなおして真剣な表情を作り、国王と視線を合わせた。
「知っていたんですね……」
「まあな、あの部屋にリシアナを送ったのは、リシアナに協力者を作らせる為にだからな」
「そうだったんですね……でも、それだと国王様はリシアナ様が自分を殺そうとしたなんて思っていなかったという事ですか?」
「当たり前だ。直ぐに内部に敵が居ると気付いて、一先ずリシアナの安全を確保する為にあの部屋に移動させたからな」
その国王の言葉には、嘘はないとグレンは感じ取った。
「成程、だとすれば国王様は最初からリシアナ様がこうして俺みたいな協力者を作り、別動隊として敵の捕獲に動くと考えていたのですね」
「俺の理想としては、リシアナの護衛を見つける所までだった。だが、俺の想像を超えて、俺自身が1番驚いているよ」
笑みを浮かべながら国王はそう言うと、グレンに対して「ありがとな」とお礼の言葉を言った。
そして国王は、真剣な表情を作りグレンと視線を合わせた。
「グレン、俺は早くこの事件を解決してリシアナとの生活を取り戻したい。協力してくれるか?」
「勿論ですよ。俺はこの国が好きですから、馬鹿な奴等をさっさと排除して日常を取り戻しましょう」
国王の言葉にグレンはそう返し、国王と握手を交わした。
その後、グレンは国王と情報交換を行い、王城から出て宿へと帰宅した。
「あぁ、マジで疲れた~」
宿に帰宅したグレンは、紳士服から直ぐに普段着へと着替えベッドに横になった。
王妃と何度も話した事があったから、国王ともそれなりに話せるだろうと思っていた。
しかし、王妃と国王とでは発するオーラが違っていて、国王の前ではグレンはガチガチに緊張していた。
「なあ、俺変な事言ってなかったよな? 半分混乱してて、何言ってたのか俺も分かってないんだけど……」
「大丈夫だったわよ。ちゃんと、王様とお話し出来ていたわよ」
「それならいいんだけど……あ~、もう早くこんな事件さっさ解決して、温泉に行ってゆっくりしたい……」
「あら、それは良いわね! 最近、外で生活していた妖精の子達と話す機会もあっていい温泉地を知ってる子がいたのよ。事件を解決したら、そこに行ってみない?」
グレンの愚痴に対して、フレイナがそう言うとグレンはその話を聞き、事件を解決したら温泉旅行に行く事を心に決めた。
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