第39話 【キャロル・2】
門での手続きを終えて、王都の中に戻ったグレンとキャロル。
もっと話がしたいと駄々をこねたキャロルに根負けしたグレンは、個室がある食堂で飯を食べる事になった。
勿論、お金は話し合いがしたいと言い出したキャロル持ちなので、グレンは好きな物を沢山注文した。
「私の情報だと、グレン君って小食だった筈にゃんだけど……」
「一年で胃が大きくなったみたいだな」
「うう……」
キャロルは若干泣きそうになりながら、足りるかな? と心配そうに財布を覗いた。
それからグレンは一通りの食事を済ませ、異空間から防音用の魔道具を取り出した。
「もう満足かにゃ?」
「ああ、満足だ。それで態々俺を引き留めてまで話し合いの場を作ったのは、何か話したい事があったんだろ?」
改めてそうグレンが尋ねると、キャロルは一呼吸をして真剣な表情となり話し始めた。
「グレン君が変わった理由、それって脳の治療を完全にしたからにゃ?」
「……クソ猫は、それを知ってたのか」
「当たり前にゃ、それでどうにゃ?」
「まあ、その通りだと言っておこう。お前の見解通り、俺は自分で傷つけていた脳を完全に治療してもらっている」
そうグレンが言うと、キャロルはグレンの眼を指して「その目もその時かにゃ?」と聞いた。
「ああ、まあこれが何かまでは言えないが、俺の元の眼とは違う物だな」
「成程にゃ……グレン君の話が本当だとすると、その治療をした人は〝聖女〟様よりも治療技術が上になるにゃ」
キャロルのその言葉に、グレンは「何で今、聖女の話が出るんだ?」と聞き返した。
「グレン君は忘れてるかにゃ? 2年前にギルドの受付の所で、女性に回復魔法を掛けてもらわなかったかにゃ? その女の人、Sランク冒険者のティア・リュレクスにゃ。二つ名は、さっき言った通りの聖女にゃ。グレン君も聞いた事くらいはあるにゃ?」
「聞いた事はあるというか、冒険者で知らない奴は居ないって程、有名な冒険者だろ……でも聖女って確か、聖国の中央都市にあるギルドで活動してるんじゃなかったか?」
「偶々、その時に王国に患者が居て来てたにゃ、あたしは王妃様の依頼で聖女様を影から見守っていたにゃ」
◇
いや、まさか自分を治療してくれた相手が〝聖女〟なんて思いもしなかった。
確かにあの時の回復魔法は、その辺の冒険者や教会の治療師以上の技術を感じた。
「……この話、ここでやめても良いか?」
このまま追及されたら、話したくなくてもボロが出てフレイナの事を話してしまう可能性がある。
恥を忍んで、俺はそうキャロルにお願いをした。
「グレン君ならそう言うと思ったにゃ、別にあたしもその事を追及する事はしないにゃ。聖女様より回復技術が上って事は、それだけおっかない相手って分かるにゃ」
おっかない相手って……まあ、キャロルの場合は職業上、そういったものに対して敏感に反応してるんだろうな。
そうじゃなきゃ、情報屋なんて職業で生きていけないだろうしな。
「まあ、そうにゃ。その代わりにグレン君に一つ、お願いがあるにゃ」
俺が断れない状況だと理解してこれを言うって事は、最初から俺に頼みがあって話し合いの場を作ったな……
「聞ける範囲なら聞く、流石にお前の仲間になれと言われても嫌だからな?」
「それに関しては一旦保留にゃ、あたしが今回頼みたいのは王妃様の護衛を頼みたいにゃ」
「王妃様の護衛? それ騎士団が居るから大丈夫だろ?」
「……グレン君。今の王国の状況って、かなり複雑にゃ」
深刻そうな顔をして、そう言ったキャロル。
王国がヤバい状況って、何だそれ? フローラ達からは、何も聞かされてないぞ?
「あたしが今から話す事は、まだ公になってない事にゃ。多分にゃけど、フローラちゃん達の独自の調査程度じゃ分からない事にゃ」
「俺の情報筋はフローラ達だが、彼奴らもかなり金を注ぎ込んで情報をかき集めてたぞ?」
「あたしが話してないのもあるにゃ、依頼中はその情報に関して依頼主からの許可が無い限り話してないにゃ。それで今回、王妃様からグレン君への許可が下りたから、こうして話し合いの場を作ったにゃ」
「何で王妃様は、俺に情報を話す許可を下ろしてんだよ……」
「あたしが説得したにゃ! グレン君なら、力になってくれるって勘が働いたにゃ!」
キャロルの言葉に俺は頭が痛くなり、カップに入っていた水を全て飲み干し暫く考え込んだ。
その後、キャロルからの説得に根負けした俺は、一度王妃様と話す事になってしまった。
「……一年ぶりに帰って来て、何で早々にこんな面倒な事態に巻き込まれるんだよ」
「グレン君って、知り合いが少ないのにその少ない知人が色々と厄介な人なのよね」
宿に帰りベッドに横になって愚痴る俺に、フレイナはそう呆れた口調でそう言った。
王妃様との話し合いは明日の正午と急で、ガリウスには明日用事があるからとクランに顔を出さない事を伝えて宿に帰って来た。
「取り敢えず、明日の為に今日は体力を残しておくか……昨日、稼いでおいて良かったよ」
「本当にね。夕食の時間になったら、起こしてあげるから少し寝てたら?」
「ああ、そうするよ」
フレイナのその言葉に、俺はそのまま目を閉じて一先ず諸々の問題から逃げるように眠りについた。
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