第36話 【グレンの力・2】
そうして移動して来た場所は、王都から少し離れた平原。
ここは隣街への道だけの野原が続いてる場所で魔物も殆ど出ない為、よく魔法の練習場として使われている。
「んじゃ、得意な魔法から使って行くから、風に吹き飛ばされない様に強化魔法や壁を作って耐えてろよ」
グレンのその言葉を聞いたガリウス達は、慌てて自分達の安全な場所を作り上げた。
その様子を見ていたグレンは、近くに浮かんでいるフレイナと会話をしていた。
「あの人達に本気の技を見せるの?」
「まあな、ガリウスが良い奴ってのは知ってたし、他のクランメンバーも悪い奴は居なさそうだ。それに眼の事以外は、いずれ他の冒険者達にもバレるし今見せた所で変わらないからな」
「確かにそうね。眼の力は誤魔化す事は出来ても、魔法の実力は隠せてないものね」
「ああ、抑えて魔法を使う事も出来るけど、折角鍛えたのに使わないのは勿体ないしな」
そう言ってグレンは、ガリウス達の用意が出来たのを確認して平原に向けて魔法を放ち始めた。
最初はグレンが元々持っていた属性魔法でガリウスも威力に関して驚いていたが、徐々に知らない属性を使い始めて周りのメンバー達と同じように驚愕の目でグレンを見ていた。
◇
(な、何なんだよ彼奴……)
俺、ガリウス・シルヴァーは目の前で起こっているこの事態に言葉を失っている。
グレンの実力は、彼奴の元パーティーメンバーより知っている自信があった。
それだけ、俺はグレンという男の強さに惚れ込んでいた。
(それなのに、この力は俺が知ってるグレンの力とは桁違いだぞ……)
悪い噂の方が目立ち、グレンの本来の強さや功績は噂によって捻じ伏せられていた事の方が多かった。
グレン自身特にそう言った事に興味が無く、気にしていなかったがグレンの事を良く思っていた俺やルドガーなんかは腹を立てていた。
本人から口止め紛いの事をされていなかったら、俺やルドガーは大々的にグレンの事を評価しろと冒険者共に殴りかかっていただろう。
「リーダー、グレンさんって本当に凄い人だったんですね……」
ふと、昔の事を思い出しているとグレンの噂に惑わされ、グレンに対して嫌悪感を抱いていたメンバーの一人がそう口にした。
「そうだろう。今の彼奴は昔よりも凄くなってるが、当時からその才能は冒険者の中でも随一だったからな……」
ランクこそAランクであるが、その力は当時からSランクに近く、Sランク冒険者はグレンの〝実力〟は認めていた。
魔法と剣術、どちらも独学で覚えたグレンの力は相当な腕で、魔法使いの中でグレンの事を嫌ってる奴でさえ、グレンの魔法を見て学ぼうとしていた奴も居た。
「ガリウスさん、グレンさんって一体何者なんですか……」
また、別のメンバーがそう口にした。
「それは俺にも、分からんな。一年姿を見せなかったのに突然戻って来て、戻ってきたら前のグレンとは似ても似つかないほど変わり果てていたからな……ルドガー達が認めなかったら彼奴がグレンだと確証する奴は居なかったかも知れないな……」
「そ、そんなに変わってるんですね。僕達、一度も会った事無いんですが、グレンさんってどういった人だったんですか?」
「どういった人か……まあ、そうだな取り敢えず〝努力〟をする人間だったのは確かだな。彼奴はパーティーに属しては居たが、馬が会って無いのか殆ど一人で行動していて、一人で訓練もしていたからな」
俺がそれを知ったのは、確かグレンが王都に来て2年目の頃だろう。
グレン達が来る前から王都で活動していた俺は、新人で来たグレン達を〝新しく来た新米〟程度に認識して、そこまで積極的に絡むことは無かった。
2年目のある日、ギルドから〝特殊依頼〟として集まったメンバーの中にグレンは一人で居た。
記憶力だけは良い俺は、あの5人の内からグレンだけが来てる事に違和感を感じて、その時初めてグレンと話した。
「お前、5人でパーティーを組んでたよな。そいつらはどうしたんだ?」
クランとは違いパーティーは基本的に一緒に依頼を受ける。
その為、その時の依頼にもパーティーで呼ばれてる奴か、俺みたいにクランの中から精鋭を選ばれるかの二択だった。
しかし、グレンはたった一人でその集まりに参加していた。
「知らん。俺は呼ばれたから来ただけだ」
その時のグレンの声には、ほぼ無の感情しかなかった。
後から情報屋経由で調べて分かった事だが、グレンはその時自分自身に魔法を使い、精神を壊しているという状態だったらしい。
何故、そんな事をしているのか? 俺はグレンの実態が気になり、色々と情報屋を使い調べ回った。
その結果、グレンは噂通りの人間ではなく、たった一人で冒険者としての活動をして、故郷へ仕送りまでする良い奴だと知った。
【作者からのお願い】
作品を読んで面白い・続きが気になると思われましたら
下記の評価・ブックマークをお願いします。
作者の励みとなり、作品作りへのモチベーションに繋がります。





