第30話 【アレイン・2】
恋人という程まで、発展していたエミリーという女性を取られたグレン。
狂う事はしなかったが、自分に対して更に強い〝治療〟を加え、他人の言葉を聞き入れなくなっていった。
「おい、グレン。お前、少しは休めよ」
「休んでる」
仲間が仲間じゃなくなり、見知らぬ相手からも侮辱され続けたグレン。
いつしか心を閉ざし、誰の声も聞かなくなっていた。
面識のあったルドガーやフローラ、噂に惑わされない者達はグレンの姿を見て悲しい気持ちを感じていた。
想い人を奪い、幸福を感じていたアレインは冒険者としての成功よりも、女と盛る事に夢中になった。
それとは逆にグレンは、全ての事を忘れる為に依頼や迷宮へ挑み続けた。
〝実力は強いが、性格が最悪〟
そんな噂がいつの間にか追加されていたが、グレンは気にする事もなく淡々と日々を過ごした。
アレイン達とも徐々に距離を置かれ、一人になる事が増えたグレンはいつの間にかギルドのランクもAとなっていた。
「グレン。お前辛いなら、あのパーティーを抜けたらどうだ?」
「いい、何もしなくて」
〝無〟
それを感じさせるグレンの言葉に、ルドガーはそれ以上言葉を掛ける事は出来なかった。
もうグレンは、壊れていた。
そんなある日、一人の女性がギルドへと訪れた。
ルドガーとやり取りをしていたグレンを見た女性は、グレンへと近寄りジーと見つめた。
「あら、貴方。随分と壊れているわね」
出会って初めての相手に、そんな言葉を掛けた女性にグレンは少なからず〝驚く〟という感情が芽生えた。
「そのままだと死ぬわよ?」
「……冒険者はいつ死んでもおかしくない」
「う~ん、そう言う意味じゃないんだけどな~。職業柄こういうの見たら、治しちゃいたくなるから勝手に治させてもらうわね~」
笑顔のまま女性はそう言うと、グレンに対して回復魔法を掛けた。
魔法の光がグレンを包み込むと、魔物によって付けられた外傷は勿論、グレンが壊し続けた脳も治してしまった。
それにより、感情が殆ど無くなり無機質となっていたグレンの顔に、少し感情が現れた。
「あら、完全に治す事は無理だったみたいね。ごめんね中途半端に治しちゃって」
女性がそう言うと、ギルドの奥からギルド長が現れ、その女性を呼びグレン達の前から消えた。
「ぐ、グレン。大丈夫か?」
「んっ? 大丈夫だな。というか気分も何かスッキリしてる」
「ッ!」
自分の体を不思議そうに確認してるグレンの姿を見たルドガーは、グレンの声が〝無〟では無い事に気付き涙を流しそうになった。
その後、ルドガーは今度こそあんなグレンは見たくないと思い、なるべくアレイン達とグレンを一緒にさせないようにした。
ギルド職員がそんな事を本来してはいけないのだが、壊れた姿を二度とみたくないとギルド長へと直談判し、その行為が許された。
「グレン。最近は何とか大丈夫そうだな」
「ん~まあ、何か最近は一人で行動する事が多いから無駄な事を考えなくて済んでるからだろうな。ギルドが俺に個人依頼をずっとするって、なんか裏がありそうだけどな」
グレンを守る為と言えば、グレンはその行為を止めてくるだろう。
しかし、いくら引き剥がそうとしたところでグレンは同じパーティーメンバーでアレイン達と接触はしてしまう。
折角回復したグレンだったが、徐々にまた壊れて行った。
アレイン達と行動すれば、必ずアレイン達の〝遊び〟を目にしてしまう。
いくら気持ちを消そうとしても、グレンの中で吹っ切る事が出来なかった。
そうして時が過ぎて、冒険者3年目となりグレンの名声を地の底まで落としたところでアレインは最後の計画を進めた。
「グレン。君の評判の悪さはパーティーに取って、不利益だ。今日限りで出て行ってもらう」
全ての責任はグレンだと言い放ち、アレインはグレンを切り捨てた。
勿論、グレンが居ない所で仲間達にグレンと話し合いを何度もしたけど、一向に治らないから辛いけど追放するという嘘の話もしていた。
自分達のアレインを困らせたグレンに、エミリーを含めた女達は最後までグレンを敵視した。
そうしてアレインは、自分の為だけのパーティーを作り上げた。
◇
そして時は戻りグレンが王都に戻って来たという噂が流れ始めた頃、アレイン達はボロい宿に4人で暮らしていた。
冒険者としての実力はグレンの活躍のおかげで誤認しており、アレイン達の実際の実力はDランク程度であったためグレンの居た時のような生活は一ヵ月も持つ事は無かった。
半年が経つ頃までは、新しい仲間を入れれば直ぐに元の生活に戻るだろうと軽く考えていた。
しかし、ラウスの脱退以降は誰も自分達のパーティーに加入しようとしなかった。
更に、合同での依頼を提案しても「無理」と断られ、募集していた所に行けば「もう決まった」と爪弾きにされている事にアレイン達は気づいた。
アレイン達はそんな状態を直ぐに改善しろとギルドに文句を言うが、「問題行為があった訳ではありませんので」と塩対応された。
確かに問題行為では無い為アレイン達もそれ以上強く言えず、結果的に自分達でも行けるレベルの迷宮に行き、日銭を稼ぐ事でなんとか生活をしていた。
そんなアレイン達の元に、冒険者達の話声が聞こえて来た。
「グレンが戻って来ただと?」
その言葉にアレインは、笑みを浮かべ女達が待つ宿へと戻った。
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