第03話 【妖精族・1】
2020/12/28:何度もご指摘がありました〝眼〟について一部、文章を変更しました。
グレンを連れて妖精界に入った妖精達は、そのまま族長の部屋に直接向かった。
「長~、グレンが~」
「グレンが倒れちゃったよ~!」
未だ起きないグレンを部屋に寝かし、妖精達は族長に慌てながらそう訴えた。
そんな妖精達に対し、妖精族の長を務めるフレイナは「落ち着きなさい」と優しく言った。
「いつものアレをグレンがやったのは、ここから見ていたわ……でも今回のは今までで一番強い衝撃を与えたみたいね……」
「そうなの! グレン、全く起きない!」
「長、グレン死んじゃうの……?」
「大丈夫よ。私が治療するのよ? 貴女達はグレンが使う部屋の用意をしてくれるかしら」
長の言葉に妖精達は落ち着きを取り戻して、グレンを族長に託して部屋から出て行った。
◇
ドタバタと子供達が出て行くのを見届けた私は、床に寝かされているグレンの近くに寄った。
「今回は強くやったみたいね……まあ、最後の砦だった育ての親からの裏切りだったものね」
グレンを見つけたのは、本当に偶然だった。
偶々、その日妖精界から人間界に遊びに出掛けていた私は教会の近くの花畑で、一人で座り込んでるグレンと出会った。
「あれ、妖精さん? 綺麗な羽だね~」
「はぅっ」
当時のグレンは幼く気が弱い性格で、男の子というより女の子に近い雰囲気がしていた。
そしてそんなグレンの笑顔を向けられた私は、一瞬で心を奪われてしまった。
自分が妖精族の長という事を忘れ、衝動のままグレンと一緒に遊び、勝手にグレンと契約まで結んだ。
グレンはその当時の事を忘れているので、私と契約を結んだ事も覚えてはいないけど、今でもちゃんと結ばれている。
「それにしても、この脳の損傷具合はヤバいわね……」
当時の事を思い出しながら、私はグレンの状態を確認した。
そして、脳の損傷が酷く、更に目まで負傷が及んでいる事が分かった。
「全く、無茶ばかりして……」
そう私は愚痴を口にするが、グレンは今回ばかりは死も覚悟の上でやったのだろうと感じ取れた。
いつもであれば、どんなに精神が参っていたとしても安全な場所でやっていた。
でも今回は、魔物が生息している森の奥で一人でやった。
「でもねグレン。私は、貴方が死ぬのは嫌なのよ。だから、貴方の命をこの世界に繋ぎ止めるわね」
自分の我儘、そして子供達の願いの為にグレン。貴方には、まだ生きて貰うわ。
私はその想いを胸に乗せ、グレンに向けて治療の魔法を放った。
「そうだわ、このさい妖精族と繋がりをもっと深めてもらう為に、傷だらけのグレンの目を交換しようかしら……」
治療の最中、私はそんな事を考え、グレンの傷ついて治すのも一苦労な眼を換える事にした。
新しい眼に使うのは、私の魔力で作り出した特別な代物。
いつかグレンが目を壊してしまうだろうと思い作っていた新しい目、名前を付けるとしたら【妖精眼】かしらね。
「さて、そうと決まれば早速取り掛かろうかしら! これは、久しぶりに大仕事だわ!」
そう私は意気込み、グレンの治療を再開した。
グレンの治療は難航した。
普通の治療とは違い、脳と眼は人間にとってデリケートな部分。
いくら私でも、こんな難しい作業はやった事も無い。
でも、私は最後までやり遂げ、グレンの治療に成功した。
「長、グレン。大丈夫?」
「もう治ったの?」
グレンの為に用意した部屋にグレンを移動させ、ベッドに寝かせると、部屋に待機していた子供達からそう聞かれた。
「もう大丈夫よ。無事に治療は成功したし、プレゼントも渡せたわ」
「プレゼント? 長、グレンに何か渡したの?」
「ええ、でもそれはグレンが起きた時に分かるから、貴女達も楽しみにしてると良いわよ」
私は子供達にそう言って、未だ眠り続けているグレンを優しく撫でた。
「ほら、さっきまで苦しそうな表情だったけど、今は可愛い寝顔でしょ?」
「ほんとだ~、いつもの怖い寝顔じゃな~い」
「長が言ってたグレンの優しい顔って、これだったんだ! 可愛い~」
子供達はグレンの寝顔を見て、楽しそうに騒いだ。
それから私はグレンの治療で疲れたせいで、急な眠気に襲われた。
自分の部屋に戻るのも面倒だし、グレンに用意したベッドは人が数人寝れる大きいベッド。
そして私は、気づいたらグレンの横に寝転んでいた。
「長も寝るの?」
「それじゃ、私達も寝る~」
そんな私の姿を見た子供達は、同じようにグレンのベッドに寝転び、皆と一緒に私はグレンの横で寝る事にした。
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