第28話 【妖精達と迷宮へ・2】
稼ぎとしては十分であるが、妖精達はまだ探索したい様子だったのでグレン達は迷宮探索を続けていた。
順番に魔物を狩る妖精達、偶にグレンが魔物を倒すと盛り上がり、迷宮で探索しているのに緊張感が全く無かった。
◇
「うん、分かってはいたけどさ、フレイナ達が居たら全く苦労しないな」
一人で探索してた時は、魔物の急な接近を防ぐために常時警戒して進んでいた。
けど、今は500名以上で迷宮を攻略している為、魔物が現れても直ぐに報告が飛んでくる。
それに個々の強さが高く、俺が出る幕も殆ど無い。
折角久しぶりに迷宮に来たのに、俺の仕事は初心者冒険者を引率する先輩冒険者のような感覚を感じている。
「でも危険より良いんじゃない?」
「そうだけどさ、こう刺激って欲しいじゃん?」
一年間、妖精界に居て刺激の無い生活を送っていた。
別に危険な世界が好きという訳では無いが、これでも男の子だ。
ちょっと刺激があった方が楽しめるというか、こうワクワクしたいんだよな。
「と言う訳で、フレイナ達は一旦休憩しててくれ」
「う~ん、まあグレンがそう言うなら分かったわ」
「「は~い、グレン。頑張ってね~」」
俺の願いを聞いてくれたフレイナと妖精達は、そう返事をすると姿を消して少し離れた。
【妖精眼】のせいで俺には見えて居るが、先程までの楽しい雰囲気は無くなり、逆に緊張感が少し湧いて来た。
「そうそう。迷宮はこんな感じだよ……」
一人になった俺は、そう独り言を呟いて先へと歩みを進めた。
それから少し経った頃、魔物の群れと遭遇した。
「「グルル」」
「ウルフの上位種か、良い殺気を送って来るぜ」
現れた魔物はウルフ種の上位種にあたる魔物で、種族名はレッドウルフ。
名前の通り火系等の魔法を扱うウルフ種で、本来のウルフ種の身体能力に加えて魔法も使える為、意外と厄介な相手だったりする。
「ガァァァ!」
「おっと、早速魔法を使って来たか。んじゃ、俺は接近戦でやるか!」
そう叫んだ俺は、鍛えた身体能力でウルフ達の視界から一瞬にして消え、真後ろへと移動した。
そこから俺は、腰に差していた剣を抜き一気にウルフ達に向かって走り寄った。
群れの中で一匹だけ、感知力が高いウルフが居て数匹逃す事になったが、今の攻撃で半分のウルフ種を倒した。
「グルルルル!」
「はは、仲間をやられて怒り状態になったか!」
魔物にも感情というものがあり、特定の魔物は怒り状態になると、それまでの能力より高い能力を発揮して攻撃する者がいる。
まあ、その能力の上昇の代わりに思考能力が低下して、力任せの攻撃になるから上位の冒険者は楽に殺す為にわざと〝怒り状態〟にする事がある。
「ああ、良い、良いぞ! 戦ってる感覚が凄いするぜ!」
怒り状態となったウルフ達は、数秒前よりも高い身体能力を駆使して俺に攻撃を仕掛けてくる。
しかし、俺はその全ての攻撃を躱し、弾き、戦いを楽しんだ。
フレイナとの修行では、絶対に味わえなかった〝命のやり取り〟。
この感覚は、俺が冒険者をしていた頃の一つの楽しみだった。
「グレン。もうその子達、息絶えているわよ?」
「んっ? ああ、ちょっと楽しみ過ぎちゃったか……死体もボロボロだし、金にならないな」
数分後、フレイナの言葉に半分飛んでいた意識が戻ると、足元には先程まで遊んでいたウルフ達が倒れていた。
半分は殆ど無傷で倒したが、もう半分はボロボロで金になる部分は何処も無かった為、魔法で燃やして残った死体を異空間へと入れた。
「それにしてもグレンのあんな姿、昔のグレンに戻って初めて見たわね」
「まあな、幻滅したか?」
「いいえ、戦ってる姿がカッコよくてそっちに目が行ってたわ、ねえ皆?」
そうフレイナが言うと、妖精達は姿を現して興奮した様子で俺の事を褒めてくれた。
それから俺は、ウルフとの戦闘で大分気分もスッキリしたので今日の探索は終える事にした。
◇
探索を終えたグレン達一行は、来た道を戻り迷宮の外へと脱出した。
戻る際も魔物の素材集めは忘れず行い、妖精達が気になった採取素材も採ってから迷宮探索を終えた。
そして王都の近くまで転移で帰り、出た時と同じように王都の中へと入った。
既に時間帯は夕方で、予約時間にもピッタリだったのでその足でギルドへとグレン達は向かった。
「ルドガー、帰って来たぞ」
受付で仕事をしていたルドガーに対して、グレンはそう声を掛けた。
グレンの言葉にルドガーは一瞬呆けた顔をしたが、直ぐに顔を戻して「おかえり」と安堵感を抱きつつそう言葉を返した。
「荷物が見えないのを見ると、収納系スキルも手に入れたみたいだな」
「ああ、話が早くて助かるよ。地下で素材を出しても良いか?」
「そんなに量があるのか……なら、俺が信頼できる奴を何人か鑑定に回しても良いか?」
そうルドガーに提案されたグレンは、その人物達の名前を聞き「そいつ等なら良いぞ」と言い、ルドガーと数名の職員を連れて地下の倉庫へと移動した。
移動した先の地下倉庫にグレンは、手に入れた素材を種類別に置くと、ルドガー達は口を開けて呆けた顔をした。
「ぐ、グレン。これを一日で採って来たのか?」
「そうだよ。鑑定、よろしく頼むよ」
笑顔でそう言ったグレンに対して、ルドガーとルドガーに連れられてきた職員達は「はは……」と目の前の光景を信じたくない様子だった。
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