第275話 【噂を聞いた者達・3】
帰宅後、ニアとグレンはリビングで少し話をしていると、玄関の呼び鈴が鳴った。
「今日は来客が多いな……」
「そうだね。今度は誰だろ?」
グレンはそう愚痴を言いながら玄関に向かい、扉を開けると外には先程解散したばかりのウォルドレットが居た。
「んっ、なんだウォルドレットか、忘れ物でもしたのか?」
「ん~、忘れ物って言うか相談しようとしてた事を忘れてたんだよね。それで宿に戻った後、何か忘れてるな~って考えててようやく思いだしてまた来たんだ」
「お前らしいな……それで何の用だ?」
グレンはウォルドレットが昔と変わらないなと思いつつ、尋ねてきた内容について聞く事にした。
「うん、グレンの領地に住もうかと思ってさ、本当は普通に移住権を得ようと思ったんだけど余りにも人が多くてグレンに直接頼もうと思って」
「……移住するって、お前今まで何処かに定住してた事あったか?」
「書類上は、今はデュレイン国の王都に居る事になってるよ。それで何で移りたいかって理由だけど、少し前から大きい魔物も従魔にして大きい街とかだと中に入れない時とかもあるんだよね。王都だとあまり大きい従魔を住まわせる環境が無いから、何処か移ろうと思ってて、それならグレンの所に行こうかなって考えたんだよ」
「そういう事か、確かにお前の従魔は昔に比べて大きい奴も沢山増えてたしな……」
ワイバーンやグリフォン、その他の体の大きい魔物を思い浮かべながらグレンはそう言うと、ウォルドレットはニコニコと笑みを浮かべていた。
「そうそう。それと、グレンの街に住めるなら、少し位ならグレンの手伝いもするよ。まあ、出来る事と言えば従魔に街の警備をさせるくらいだけどね」
「それは有難いな、お前の従魔は索敵が得意な奴が多く居るしガリウス達と協力してくれたら、より強固な警備体制がとれるよ」
そうグレンは言うと、ニアに「少し出掛けて来る」と言って、ウォルドレットと共にフローラの所へと移動した。
「……行き成り来て、相談内容がウォルドレットの移住書作成なんてどこから驚けばいいのやら」
フローラは話を聞くと、頭を抱えてそう言い、直ぐに秘書を呼び水と頭痛に効く薬を持ってこさせた。
そうして薬を飲んで一息ついたフローラは、どうしてそうなったのか経緯を話す様にグレン達に言った。
「経緯と言ってもな、こいつが俺の領地に住みたいって突然言いに来たんだよ。それでまあ、そういった事はフローラに任せてるしと思って来たんだよ」
「確かに任されてるけどね……はぁ、もう良いわよ言い争っても意味ないわ」
フローラはそう言うと、手続きに必要な書類を引き出しから出してウォルドレットに記入するように言った。
紙を渡されたウォルドレットは、どういう風に書けばいいのかフローラに聞きながら記入して行き。
数分後、全ての項目に記入を終えたウォルドレットは「疲れた~」と言いながらソファーに横になった。
「結構書かされてたけど、普通あんなに書くものなのか?」
「高いランクの冒険者は手続きは面倒なのよ。ガリウス達もその面倒な書類を書いて、今はグレンの領地に暮らしてるのよ」
「そうだったのか、俺の場合は領主でそのまま来たから知らなかったな」
「ちなみに何でそんな面倒かっていうと、ランクが高い冒険者は住んでる街の貴重な人材だからあまり移動させたくないからね。逆に登録してると、ランクに見合って色々と免除されたりするから、冒険者もそれを分かったうえで登録をしてるわ」
グレンは元々住民登録等をせず、冒険者として依頼を解決していただけだったからそういったものがあったと初めて知って少し驚いていた。
「そうそう。王都だとかなり色々と免除してもらってたんだけど、従魔達に広い空間で住んでもらう事が出来なくてどうしようか悩んでたんだよね。そんな時にグレンの話を聞いて、グレンの所ならまだ出来たばかりだし従魔達を住まわせる環境が作れると思って来たんだよ」
「王都でも上に言えば、空いてる土地を渡してたと思うけどな……まあ、お前が来てくれるのは歓迎するよ」
「うん、よろしくね。グレン」
そうして、グレンの街に新たなにウォルドレットが住むという情報は瞬く間に広まった。
あのウォルドレットがグレンの街に——その噂を聞いた人々は、よりグレンの街の貴重性に気付いて移住を踏み留まっていた者達の後押しとなった。
その事に後々気付いたグレンは、仕事を増やした原因が自分だと気付いて愚痴を言う回数が減ったが、その代わりフローラから文句を言われる日々を過ごした。
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