第209話 【皇子・1】
王都を出発して数日後、予定通り帝国国内へと入る事が出来た。
「グレン、頑張れよ」
「ああ、アーノルド達も頑張れよ」
帝国との国境では、結界組と帝都組に分かれる。
近衛騎士率いるアーノルドに加え、何人かの魔法剣部隊と魔法使い部隊、そして結界組がそれぞれそこに残り、グレン達は帝都へと向かった。
「……なんか一気にどんよりとした雰囲気になったね」
「相手も自分達の存在を隠す気が無いのは報告で聞いていたが、ここまであからさまに魔力を出してるとはな……」
「まさか、悪魔達が迎え撃つって作戦をとるなんてね。ベルも驚いてたよ。ここまで悪魔を本気にさせた人間は、グレンが初めてだってベル言ってたよ」
「そこまでするんなら、大人しく元の世界に戻ってくれれば助かるのにな」
グラムの言葉にグレンはそう愚痴を零し、窓の外を見ると、ふと今進んでる森の方から人間の魔力を感じ取った。
「……グラム兄さん、この辺りって人が暮らしてる所とかあるの?」
「んっ? この辺りには人は住んでないと思うよ? 僕達の事がバレない為に、人が居ない所をえらんで進んでるから」
その言葉にグレンは、その人の気配がした方をより注意深く確認した。
すると、気配を感じ取れたのは一人だけで、妖精に確認をしてもらうと着ている服もボロボロで弱ってる人間だという事が分かった。
「……目立たないように行動してるけど、あれを放置するのもな」
グレンはそう呟き、馬車の中から外にいる兵士に声を掛けた。
その後、魔力を抑える魔道具を兵士に持ってもらいながら、グレン達はその人物の所へと向かった。
「……あれ、本当に生きてるのか?」
現場に到着したグレンは、その光景をみてそう言った。
魔力的にはギリ生きてる判定ではあるが、その人物は地面に俯けになって倒れた状態だった。
かなり弱ってるせいか、魔物にも見向き去れず襲われる事はなかったのだろうとグレンは思った。
「……あれ?」
「グラム兄さん、どうした?」
「いや、ちょっと……」
グラムはその倒れてる人を見ると、首を傾げそのまま近づきポンポンと肩を叩いた。
しかし、それに反応を示さない人物にグラムは「失礼しますね」と言って、優しく顔を確認した。
「……何で、ここにこの方が?」
「グラム兄さん、その人知ってる人なの?」
意外にも倒れてる人物がグラムの知り合いと知ったグレンは、そう尋ねるとグラムは深刻そうな顔でグレン達を見て人物の正体を伝えた。
「この方は、ウィルド皇子。帝国の皇子だよ」
「「ッ!」」
グラムの言葉にその場にいた者達は、息を飲み驚いた顔をした。
その後、取り敢えずベルに確認した所、皇子には悪魔がついてない事を確認して、グレン達は皇子を馬車の所まで運んだ。
馬車の所まで運んだ後、グレンはフレイナに頼み皇子に回復魔法を掛けて貰った。
「あれ、ここは?」
魔法を掛けられた皇子は、外傷も綺麗に無くなり顔つきもよくなると目をパチリと開けて回りを確認してそう言った。
そして混乱している皇子に、知り合いでもあるグラムは丁寧に今の現状を説明した。
「成程、だとしたら僕は命を助けられたのか……ありがとう。デュレイン国の皆さん」
皇子はそうお礼を言うと、グラムからどうしてあの場所に居たのか聞かれた。
「……グラムも気づいてると思うけど、僕に憑いてた悪魔はあの騒動の際に抜けたんだ。幸い僕は、精神力が強かったのか悪魔が抜けて直ぐに自我が回復してね。混乱に乗じて、帝都を抜けだす事に成功したんだ」
帝都を抜け出した後、悪魔が憑いてた時に得た能力を活かし、人里から離れた所でなんとか暮らしていたと皇子は続けて言った。
「でも、流石に強い魔物とは戦闘経験も無くて、ギリギリで倒せはしたけど酷い怪我を負ってしまってね。それで動く事も出来ず、あの場で倒れていたんだ」
「そうだったんですか。だからあんな酷い怪我を……」
「まあ、でも逆にそれで良かったと今は言えるよ。怪我をしたおかげで、こうしてグラムと再会できて、デュレイン国の方達と会えたんだから」
そう皇子は笑みを浮かべてグラムに言うと、二人の話を聞いていたグレン達へと真剣な表情をして向いた。
「僕のもってる帝国の情報。それら全てをお伝えします」
その言葉に、グレン達も真剣な表情となった。
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