第02話 【失う・2】
孤児には色々と成り方、どうして孤児になってしまったのか、それぞれ理由がある。
貧しさで親に捨てられた者、親の虐待から逃げた者、親が亡くなり身寄りも無い者。
そんな中でグレンは、赤ん坊の時に教会の前に籠に入れられた状態で置かれていたのだと、教会を出る時に神父から聞いた。
◇
「グレン。また泣いてるの?」
「うぐっ、だ、だって……」
幼少期のグレンは気が弱く、よく泣く泣き虫だった。
気弱で体が小さいグレンは、一緒に暮らす孤児仲間から小さなイジメをたびたび受けた。
仲間外れにされたり、転ばされたり、物を隠されたり……。
子供だから仕方ないと育ての親である教会の人間はそう思っていたが、グレンはこの仲間外れにされたりするのが嫌だった。
「僕がこんな性格だから、皆から仲間外れにされるのかな……」
ある日、グレンは弱虫で泣き虫な自分をどうにかしたいと思い立ち、その方法を探して教会の書庫で色んな書物を漁った。
そして、とある本と巡り合った。
【精神魔法】
その名の通り精神に対して効果がある魔法が載ってる本で、魅了や幻惑などといった魔法が書かれていた。
グレンはその本に、もしかしたら今の自分を変える術が載っているかもしれない! という期待を見出し、連日その本を読み続けた。
駄目駄目なグレンだが、読み書きに関しては同年代では出来る方だった。
なのでイジメ回避も兼ねて、毎日書庫で本を読み続けた。
そして、難しい専門用語などを読み解きながら理解を深め、ついにとある説が書かれているページを見て、グレンは「これだ!」と叫んだ。
そこに書かれていたのは、脳に【雷魔法】を与えると脳の働きを変える事が出来るという内容が書かれていた。
これまでこの本では、主に【闇魔法】ばかり載っていて、グレンには使えない属性だった為、有益な情報を得る事は出来なかった。
しかし、このページに出ている【雷魔法】はグレンが使える魔法の一つだった。
その内容は【雷魔法】の力を手に纏わせてから頭に手を当て脳波へと働きかけ、性格や記憶を弄る事が出来ると書かれていた。
「これだ! これをすれば、今の僕を変えられるッ……」
グレンは直ぐに、そのページに書かれている技術を実践しようした。
もしも失敗した時の為にと、誰にも見つからない様に書庫から教会の裏に出た。
そして、グレンはそこで両手に【雷魔法】を纏わせた。
「えっと、こうして……」
そして、本に書かれていた通りに両手を頭へと持っていき、魔力を頭へと当てるイメージをした。
「や、やるぞっ……うぐッ!」
今の自分が嫌いなグレンは、いつもの臆病さを振り払うように、その勢いのまま両手で頭を掴んだ。
そして、微量の雷を脳へと流し込むと、激しい痛みを感じ、その場で倒れてしまった。
次に目覚めた時、グレンは教会のいつものベッドの上で寝ていた。
裏庭で気絶していたグレンを教会の大人が見つけ、ここに運んだのだと教えられた。
そして、あんな所で寝たら病気になると説教をされた。これまでのグレンなら泣いていたであろう厳しさで。
しかし、この日は涙を浮かべる事も無く、説教を聞く事が出来た。
「グレン。最近、変わった?」
「んっ? そんな事は無いぞ、いつも通りだろ俺は」
あの日以降、気弱で泣き虫だったグレンは居なくなった。
そして、新しく誕生したグレンは気が強くなり、イジメられる事も無くなった。
一人称が変わった事に最初は周りの人間は戸惑っていたが、これも成長だろうと直ぐに何も思われなくなった。
グレンにとって初めての〝治療〟であったが、この魔法を覚えたグレンは嫌な事があると何度も同じ事を行う様になった。
慣れて行く中、雷魔法を強くすれば更に改変出来るという事に気が付いたグレンは、特に嫌な事があると強い雷を流す癖がついてしまった。
グレンは今までの人生の中で3度、強い衝撃を脳へ与えた。
一度目は一番最初の〝治療〟で、幼いグレンが調整を間違えて強い衝撃を与えた。
二度目はアレインに幼馴染を寝取られてしまい、発狂しそうになった自分を抑え込むために。
そして三度目は、育ての親達が自分の証拠がない噂を信じ込み、自分を追いやった記憶を忘れる為に。
三度の強い衝撃を受けた脳は、これまでのダメージの蓄積で酷い損傷状態となっていた。
◇
森の奥地で倒れているグレン。
そんなグレンの傍には、この世界では珍しい生き物。
妖精族が数名、倒れているグレンを心配げに見守っていた。
「ねぇ、どうする?」
「どうしましょう……」
「私達じゃ、どうにもできないよ……」
妖精族は、気に入った人間を見つけるとその者について行くという習性を持っている。
そしてここに居る妖精族達はグレンに興味を持ち、偶に妖精界から出て来ては彼の様子を見ていた者達だ。
「そうだ! 長に聞こうよ! 長なら何か知ってるよ!」
「そうだね。長は何でも知ってるよね」
「最初にグレンを見つけたのも長だったし!」
「長もグレンの事は気にしてたもんね! きっと、何か知ってるよ!」
この中で一番行動力のある赤い髪をした妖精がそう言った。
すると、他の妖精達もその意見に賛同して、取り敢えずグレンをこのまま森に寝かせておくのは危ないからと、一緒に妖精界へと連れて帰る事にした。
人助けのつもりで行った妖精達の行為だったが、グレンは人類で初めて妖精界に入った者となった。
そんな事は気にも留めず、自分達の興味がある人間を助けてあげたいと思っている妖精達は、妖精族の長が待つ妖精界へとグレンを連れて向かった。
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