第19話 【後悔・2】
雰囲気が変わったマリアに対し、フローラは自分達が調べた調査結果をマリアに告げた。
「そうなのね……ごめんなさい、怖かったでしょ?」
マリアはそう言うと、出していた威圧感を消した。
たった数十秒間の出来事だったが、フローラはドッと疲れて額に汗をかいていた。
マリアの雰囲気に押されていたフローラだが、話を聞いたマリアの雰囲気を見て質問をした。
「あの、マリア様はグレンの悪い噂を信じてない方なんですか?」
「信じてないわよ。だって、あの子の事を一番知ってるのは私だもの」
その言葉には一切の迷いが無く言い切り、フローラは先程まで感じていた威圧感とは別の圧を感じた。
それから少しの間、フローラは王都でのグレンについてマリアと雑談をした。
「ふふ、グレンは王都で随分と変わってた様ね」
「マリアは、グレンとは会って無かったの?」
話している途中、フローラはグレンの味方側だと気付いたマリアは「マリアって呼んで、それと敬語も無しよ」と言い。
フローラはその指示通りに〝マリア〟と呼び捨てに、更に敬語も無しで会話をしている。
「ええ、教会での仕事も忙しかったし、最近は実家の方のお手伝いもしてたからグレンとは教会を出て以来会っていないわ」
「そうなのね。結婚しない代わりに、教会のシスターになるって貴族は大変ね」
「そうでも無いわよ。元々、子供は好きだったし、縛られた生活も無くなって貴族の女性の中ではシスターになる子ってかなりいるのよ」
マリア自身もそうだが、同じ職場にも元貴族のシスター等も居た。
生活が変わり大変ではあるが、それ以上に自分を偽る事はしなくて良くてとても気持ちのいい生活を送っていると、マリアはフローラに言った。
「ねぇ、グレンのパーティーって確か同じ教会出身の子で作ったって言ってたけど、他の子の事は気にならないの?」
「元々、私って小さい時から教会に手伝いに行ってて、その時に赤ちゃんだったグレンと会ったのよね。その時に、グレンの顔を見た瞬間こう心をギュッと掴まれた感覚がして、それ以来グレンの事を特に気にしてるのよね」
「それって恋したとかじゃないの?」
「う~ん、そんな感覚じゃないわね。どちらかというと、グレンを見守りたいっていう母性愛みたいなものかしら? まあ、当時は私も子供でそんな言葉知らなくて、とにかくその時にグレンに心を掴まれてから、教会に行く頻度が上がったわね」
マリアは、当時の出会い話を楽しそうに話をした。
そんなマリアを見てフローラは、何となく自分と同じ感覚でグレンと接してきた人だと認識した。
フローラもまたグレンの事を恋愛感情や友情というより、何処か放っておけない感情で見守っていた。
「という事は、あのパーティーには今の所興味はないって事?」
「そうね。今、大変なんでしょ? 来る時に噂話程度には聞いたけど」
「ええ、グレンが抜けてから今まで隠されてたパーティーの実態が出て来てるわね」
グレンの元居たパーティー、アレイン達はグレンが抜けた後から徐々にこれまで隠されてきた事が明るみになった。
そもそもグレンの代わりに入った冒険者、ラウスが一ヵ月たった辺りで抜けた。
その理由はパーティー内での役割分担への不満からで、どういった内容なのか他の冒険者はラウスに直接聞いた。
流石に情報を晒すのはと思ったラウスは、詳しい内容はそこまで言いはしなかった。
しかし、そんなラウスの気持ちに対し、アレインは「使えないから捨てた」と言い放った事でパーティーで行われた事をラウスは告発した。
・女は三人共アレインの女で、毎晩やりあっている。
・旅の道中、迷宮内でやるのは普通で監視はラウス任せ
・戦闘ではラウスに殆ど任せ、自分達は後衛から魔法を放つだけ
・テントの設営、食事は全てラウス任せ
たった一ヵ月間だけなのに、これだけの事をラウスはアレイン達にされた。
その中でも最初の2つは、ギルドの冒険者達も見覚えが有りこの内容が真実に近いと噂が流れた。
そしてその噂が流れてから、アレイン達を見る目が変わり今まで隠してきたであろう事も明るみになっていった。
「強姦未遂って噂もあのアレインって男じゃないかって言われてるけど、そこはどうなのマリア?」
「うん、それが真実じゃないかって思ったわね。だって、グレン君が強姦未遂よりもアレイン君の方がシックリ来るもの」
そう言ったマリアの言葉に、フローラは教会の時に何かあったのだろうと察した。
「まあ、その内あのパーティーは落ちる所まで落ちるでしょうね。今までグレンを蔑ろにしてたんだし」
「そうね。アレイン君達、それと教会の人間は落ちる所まで落ちるでしょうね」
「えっ、教会の人間?」
自分の言葉に頷きながら言ったマリアの言葉に、引っかかりフローラはそう聞き返した。
するとマリアは「あら、まだこっちには噂も流れてないのかしら?」とほほ笑んだ。
「マリアの教会に何かあったの?」
「ええ、ちょっとした不正が発覚して教会の責任者や、それに付いてた人間が牢に入れられているわ」
「そ、そんな事があったの!? 詳しく聞かせてくれる?」
「良いわよ。その内、こっちにも話が流れるでしょうしね」
そう言ってマリアは、事件の内容をフローラに話した。
まず事の顛末は、グレンが最後に訪れた際に投げ捨てた麻袋であった。
毎月欠かさずアレイン達のパーティー名義で送られてくるお金は、教会にとってとても有難いお金だった。
しかし、その袋をグレンが投げ捨てた翌月から送られて来なくなった。
すると、どうなるかと言うと、それまで教会に援助金として渡されていたお金は変わっていないのに食事の量が減ったり、服が汚いままになったりと徐々に環境が悪くなっていった。
そこで調査が入り、ある不正が発覚した。
それは教会の責任者と複数名が援助金を懐に入れて、自分の為に使っていたことが明るみになった。
「……そんな事があったのね」
「私も驚いたわ、まさかそんな不正をしてたなんてね。まあ、グレン君が渡してたお金が大きかったから目が眩んだんでしょうね」
「そう言えば、グレンってソロで沢山依頼を受けてたりしてたわね。教会に渡す為、一人で頑張ってたのね。それなのに名義はパーティーって所が、グレンらしいというか……」
「まあ、そう言う訳で今は教会の方も大変だから、アレイン君達が里帰りしたくてもする所は無いわね。残ってた教会の子と事件に関係ないシスターは、今は私の実家に置いて、ちょっと落ち着いたからグレン君の事を聞きに来たのよ」
「そうだったのね」
フローラはマリアの話を聞いて、顎に手をやり考えた。
そして、マリアにこんな話をした。
「ねえ、マリア。何か困ってる事は無いかしら?」
「困ってる事? ……そうね。事件に関しては国に任せてるから問題無いけど、やっぱり子供達の服だったり食事かしらね。寝床の提供は出来ても、食材や衣服は実家も負担は厳しくてね」
「了解。それなら、私が何とか用意してあげる」
「えっ、でもお金がそもそもないのよ?」
「良いわよ。グレンの家族を見捨てたって後で知られるより、断然良いわよ」
そうフローラが言うと、マリアは「助かるわ」と言ってその提案を受け入れる事にした。
その後、フローラはマリアの実家であるベイルーン家の王都の家に出向いて、子供達の数やシスターの数を確認して物資の搬入を始めた。
その物資の量にベイルーン家は、ルナーバ商会の力をこれでもかと見せられた。
そしてこれまで関わりが無かったがその一件から、ルナーバ商会とベイルーン家は繋がりを持ち、大口の取引先を紹介されたりと大きな一歩をルナーバ商会は進んだ。
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