第18話 【後悔・1】
時は遡り、グレンが王都を旅立った時に戻る。
「おい! グレンは何処に行ったんだ! まだ見つからんのか!」
グレンがパーティーから追放され、故郷からも追放された数日が経った日。
王都の冒険者ギルドに怒りを含ませた怒鳴り声が、ギルドに響き渡った。
「落ち着け、フローラ。こっちも急いで調べてるんだ……」
声の主の名は、フローラ・ルナーバ。
年齢は20代前半であるが、ルナーバ商会の長、花街の女主人、商業ギルドのドン。
様々な異名を持っており、王都でも有名な人間である。
「その言葉なら、五日前も聞いたよルドガー!」
「ちょっ、だから殴るなって! 取り敢えず、部屋に来い!」
フローラの対応をしていたギルド職員の男、ルドガーはそう言ってフローラの手を取り別室に移動した。
「ったく、前からフローラはグレンの事となると、何でそう我を忘れるんだよ……」
「当然でしょ、あんな危なっかしい子を放っておける訳ないじゃない。それに、今のルナーバ商会があるのは、グレンの力があったおかげってルドガーが一番知ってるでしょ?」
「まあ、確かにな……」
フローラとルドガー、この二人は王都でアレイン達以外で、グレンと特に関わりが深かった人物たちである。
フローラは商会が傾いた時、グレンに力を貸してもらい立て直した縁がある。
ルドガーもフローラと似たように、自身の過失をグレンに助けてもらった過去があり、グレンに対して二人は恩義を抱いている。
「それでどうなのよ。調査の方は、さっきはギルド内だったから詳しく言えなかったんでしょ?」
「……王都でパーティーを抜けた後、故郷の街に戻って、その際に教会から走って出て行くグレンを見たって報告は受けた。だが、それ以上の情報は全くだ」
「……もしかして、外でアレをしたんじゃないの?」
「いや、流石にグレンもそこまでは……いやでも、走ってる際のグレンは悲しい表情をしていたって報告もあったな……」
二人はグレンが自身の記憶や感情を魔法によって、力技で抑え込んでいるのを知っていた。
何度も止めはしたが既に癖付いていて止める事が出来ず、二人はただ見守る事しか出来なくて歯痒い気持ちでいた。
「やっぱり、グレンの噂を改善するべきだったかしら……」
「本人が無駄だって言ったけど、俺達で動けば良かったよな……」
噂を止めようと二人は、動こうとした。
しかし、それをグレンは止めた。
自分の為に二人を巻き込みたくないと、真剣な表情で言われた二人はその約束を守った事を後悔した。
それから少しして、話し合いは落ち着き話題はグレンが元居たパーティーになった。
「そう言えば、あのパーティーだけどグレンが居なくなって早速、ボロが出て居る様ね。私の店までくるって事は、もうギルド側も把握してるのかしら?」
「まあ、既に出回ってる話ならギルドも知ってるな。今までグレンという存在にどれだけ、助けられてきたのか身をもって知ってる頃だろうな……まあ、本人達は新しく入った剣士のせいにしてるみたいだから、反省の色は全くないがな」
「フフッ、それは今後の動きが楽しみね……」
フローラは悪い顔をして、ルドガーの言葉にそう返した。
それから話し合いを終えたフローラは立ち上がり、部屋から出て行った。
一人、部屋に残されたルドガーはソファーにドサッと座り込み、グレンの調査資料に目を落とした。
「何処に行ったんだよ。グレン……」
ルドガーの嗚咽交じりの呟きは、部屋の扉の外に居たフローラに小さく聞こえ、フローラは何も言わず去って行った。
その後、ルドガーとフローラは自身の縁や力を使い、グレンの足取りを探し回った。
一ヵ月、二ヵ月、三ヵ月……成果は、最初の頃のほんの僅かしか得られなかった。
そしてグレン失踪事件から半年が過ぎた頃、フローラの元に若い女性が現れた。
その女性は服装から貴族だと分かる程、綺麗な女性でフローラは若干緊張していた。
「初めまして、私はルナーバ商会の長をしております。フローラ・ルナーバと申します」
「初めまして、私はマリア・ベイルーンです。ベイルーン伯爵家の三女ですが、そんなに畏まらないで良いわよ。公の場では無いですから」
「あっ、そ、そうですか?」
緊張しているフローラは、ルドガーと話す時の様な覇気は無く、少しタドタドしくそう返事をした。
「それで、ベイルーン様はどんなご用件で来られたのでしょうか?」
「ふふ、マリアで良いわよ。それと、ここに来た理由はグレン君の事を聞きに来たの」
「ッ!」
グレンという言葉に、フローラは反応してマリアの顔を凝視した。
その時、フローラの頭に昔、グレンから聞いた話を思い出した。
「グレンって、孤児なのよね? それなのに、よく色んな事知ってるわね」
「ああ、まあ昔はこんな性格じゃなくて本ばっか読んでたんだよ。文字は一番俺の事を見てくれてたマリアさんって人に教えて貰って、色んな本を読んで貰ったりもしたんだよ」
その事を思い出したフローラは目の前に居る同じ名前で、グレンの事を聞きに来たと言った人物に先に質問をした。
「その前に一つ、聞いてもよろしいでしょうか? マリア様は、グレンが教会で世話になったマリアという方と同一人物でしょうか?」
「あら、グレン君ったら私の事話してたのね。ええ、そのマリアと私は同一人物ですよ」
質問にそう答えたマリアは、笑みを浮かべてフローラを見た。
「それじゃ、次は私から質問して良いかしら? グレン君が消えた理由、最初から聞かせてくれるかしら?」
「ッ!」
マリアは先程までの〝のほほん〟とした雰囲気から一変、表情一切変えずに威圧を感じさせる雰囲気へと変わった。
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