第170話 【罪・2】
家から出た俺は歩きながら何故、今更あいつが俺の名を叫んでいたのか考えていた。
「グレン、寝てないのに大丈夫なの?」
「心配するな、話したら家に帰って寝るから」
眠れなかった俺は前日の疲労もあり、一瞬ふらつくとフレイナから心配された。
そして、目的の場所に辿り着いた俺は中に入り、目的の人物の所へと向かった。
「……グレン君」
「久しぶりだな、エミリー」
声の正体、それは俺の元幼馴染であるエミリーだ。
あの騒動の際に捕まり、今も尚牢屋で暮らし続けている。
変わった点と言えば、女性という点と悪魔に洗脳されていた可能性もあるとみられ、牢屋の中でも少し綺麗めな一人部屋で暮らしているみたいだ。
ちなみにエレナとユリだが、あの二人はエミリーとは違い脱走計画を企てていたらしく、今も前と同じ場所で二人仲良く暮らしていると兵士から聞いた。
「何で、ここにきたの……」
「お前が俺の名前を呼んでいたからだろ?」
俺の言葉にエミリーは驚いた顔をして「な、何で?」と呟いた。
そんなエミリーに対して、俺はフレイナは鑑定を使用した。
すると、思っていた通りエミリーの能力に【念話】という遠くの人物とも、会話が出来るスキルがあるのを確認した。
「そ、そんなスキルが私に……」
「やっぱりこの子気付いてなかったのね」
「みたいだな、知っていたら俺以外の誰かに念話を飛ばすだろうしな」
エミリーの反応を見て、俺とフレイナがそう言うとエミリーは俯いた顔を少し上げ、グレンの顔を見つめた。
「それで、エミリーは何故、俺の名を呼び続けていたんだ?」
「……自分の気持ちを少しでも楽にしたかったの」
俺の問いかけに対して、エミリーはポツリとそう言葉を零し、続けた謝罪の言葉を口にした。
「グレン君に酷い事をして、ごめんなさい」
「……」
今更だな、俺は冷めた気持ちでそうエミリーの言葉に対して思った。
そんな俺の気持ちにエミリーは気が付いたのか、苦笑しながら「今更だよね……」と言った。
「ああ、そうだな……だが、その謝罪の気持ちは受け取っておくよ」
「グレン君……」
そんな俺とエミリーの会話を黙って聞いていたフレイナは、ふとエミリーを見て「えっ?」と驚いた声を出した。
「どうしたフレイナ?」
「えっ、な、なに?」
驚いた声を出したフレイナに、俺とエミリーが反応するとフレイナは俺の耳に口を近づけ小声でこう言った。
〝この子、神から加護を貰ってるわ。〟
「ッ!」
その言葉を聞いた俺は驚いた顔をして、エミリーへと視線を向けた。
俺とフレイナ、二人から見られたエミリーは「な、何?」と俺達の顔を交互に見た。
「エミリー。お前、いつの間に神様から加護なんて貰ったんだ?」
「……な、何の事? えっ、神様の加護?」
エミリーの反応を見て、何も知らないと感じた俺は、エミリーに神の加護を持っている事を説明した。
「わ、私が神様の加護? えっ、昔は無かったよ?」
「知ってる。って事は、牢屋暮らしの中で手に入れたという事か……どんな生活をしてたんだ?」
「ふ、普通だよ? 食事とお仕事、三日に一度のお風呂だけが楽しみに生活してたよ?」
長年の付き合いである俺はエミリーが嘘を言ってないと分かり、何かしてないか更に聞いた。
「休憩中とか何かしてなかったのか?」
「あっ、一つだけ毎日やってた事があるの……」
「何だ?」
俺の問いかけに対し、エミリーはある事を思いだしたと言った。
「……その牢屋に入って、一ヵ月くらい経った頃くらいかな? グレン君に酷い事してたって気づいて、それから毎日朝と晩に一時間くらい謝ってたの」
毎日二時間、誰に言うでもなく淡々とそれを続けていたと言ったエミリーに少し俺は凄いというか、怖さを感じた。
それ程、気持ちが追い詰められていたんだろう。
「って事は、それを見た神様が加護を与えたのか? だとしたら、犯罪者の中に加護持ちが沢山居る事になるんじゃないか?」
グレンの言葉にフレイナは「そうよね」と返し、何故エミリーに加護が与えられたのか疑問のままとなった。
正直な所、神の加護は殆どの事が解明されていない為、どうやって手に入れたのか? を探るのは不可能に近いだろう。
「……加護についても謎だが、それ以上に謎なのは【念話】だな。確か、希少魔法の一つだよな? それを後から、手に入れるってそっちの方が加護よりもおかしいだろ」
「そ、そんなに凄い魔法なの? ただ遠くの人と喋れるだけなのに?」
能力の凄さにイマイチよくわかっていないエミリーは、首を傾げてそんな事を言った。
確かに、どんなに技を鍛えたとしても【念話】は遠くにいる者と話すだけの能力だ。
「【念話】の凄い所は、通信魔道具の様に遠くの人と会話が出来る所では無く、言葉に発さずに人と会話が出来ると言う所だ。要は、重要な話を誰にも聞かれず行う事が出来るんだ」
俺のその説明にエミリーも【念話】の凄さに気付いたのか、ハッとした顔をした。
「……そういや、牢屋に入る奴は大体が〝魔法禁止〟の魔道具を付けられてたよな? エミリーは付けてないのか?」
「一応、模範囚として生活続けてたからなのか、少し前に外されて生活するうえで少しの魔法だったら使用しても良いって許可が下りてたの」
「そうなのか、囚人のルールは知らんが、それだけちゃんと罰を受けていたんだな」
他二人とは違い、ちゃんと自分の罪を償おうと努力して来たのだろうと認識した俺は感心してそう言った。
「しかし、【念話】と神の加護か……それと確か、エミリーは聖属性の魔法も得意としてたよな?」
「い、一応回復担当だったから少しは出来るけど……その2年位真面に使ってなかったから、殆ど使えないかな……最近、手荒れとか魔法で治そうとしても時間掛かったりしてるし……」
言い難そうにそう言ったエミリーに対し、俺は何も言葉を返さなかった。
ふむ、これは一度ティアさん達に話をした方が良いな。
◇
その後、グレンはエミリーに対して「また来る」とだけ言って、牢屋を出たグレンは王城へと転移で移動した。
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