第169話 【罪・1】
獣人国との協力体制が決まり数日が経った。
その間、グレンは情報伝達の為に何度も王都と獣人国を往復していたが、途中で「魔道具使えばいいじゃん」と通信用の魔道具を獣人国に設置した。
「最初から、これ設置してたら俺が何度も転移しなくて良かったじゃん……」
設置した後、魔道具で殆どの仕事が出来たのを見たグレンは、一人ポツリと言葉を零した。
その後は言うまでも無く、通信魔道具のおかげでより情報交換が進み、獣人国は対悪魔戦に向けて準備を進めた。
そうして周りが進む中、仕事が無くなったグレンは訓練を一時ガリウスに任せ、一人迷宮の奥へとやって来ていた。
◇
「そらッ!」
「——ッ!」
「……ふぅ~」
魔物との戦いを終えた俺は、深呼吸をして汗を拭いた。
獣人国との橋繋ぎを終えた俺は、部隊訓練から一時離れ迷宮へと来ている。
ここ最近、話し合いばっかりで体が鈍っていると感じていたが、まさか中層辺りで息が切れ始めるとは思いもしなかった。
「グレン、そろそろ一回休憩したらどう?」
「そうだな、ここまで体力が落ちてるとは思いもしなかったぜ……」
「最近は話し合いやらで一日動いてたものね。仕方ないんじゃない?」
フレイナはそう言うと、風魔法で涼しい風を俺に向けて吹かせ、俺は心地よい気持ちになった。
「だとしても、まさか魔法剣の持続時間が1時間を切ってるのは、流石にどうかと自分でも思うぞ、俺の代名詞でもある物なのによ」
何故、俺が部隊から離れて訓練に来たのは、これの理由が大きい。
以前までは本気を出して戦える相手が居たが、悪魔戦以降俺は強くなり過ぎて真面に戦える奴が居なくなった。
それのせいで、制御した状態で魔法剣を使っていた。
制御した状態で使い過ぎていたのか、一度本気で魔法剣を使ってみた所、30分で限界を迎え一時間経つ前に魔法剣が消えてしまった。
流石にこれで悪魔との戦いは出来ないと考えた俺は、マーリン達に事情を説明して一人迷宮へと訓練に行く許可を貰った。
「魔法剣の持続時間も減って、更に身体能力も若干落ちてるって本気でやばいな……」
若干焦りを感じながらそう俺が言うと、フレイナは「大丈夫よ」と優しく頭を撫でながら言って来た。
「その根拠は?」
「グレンが頑張って得たのは力だけかしら? 今のグレンには、心強い味方が沢山居るでしょ? 確かに悪魔との戦いにはグレンが必要だけど、グレンだけが全部を背負う必要は無いわ」
「……まあ、そうだな。グラム兄さんやレオナード、マーリン達が居るしな」
「そうでしょ? 昔とは違って、グレンには心強い味方が沢山居るんだから」
改めてフレイナからそう言われた俺は、自分でも知らず知らずの内に溜め込んでいたんだなと気付かされた。
「何か昔はこういう暗い気持ちになる前に、アレ使っていたから分からなかったが。俺って、もしかして結構落ち込みやすいのかな?」
「まあ、今のグレンはストレスが溜まりやすい環境に居るし、そのせいもあるんじゃないの? 悪魔の事も全部終わったら、また温泉旅行にでも行きましょう」
「そうだな」
フレイナの言葉にそう返した俺は、休憩を終わりにして訓練を再開した。
その後、ある程度自分でも満足できるくらい、動けるようになった俺は迷宮から自宅へと帰宅した。
そして帰宅後すぐに風呂に入り、疲れと汚れを落として夕食を食べ、一日訓練で疲労が溜まっていた俺はベッドに横になると直ぐに眠りについた。
「——、——ん。グレンくん!」
誰かに呼ばれてる。
そう感じた俺は、目を開けた。
「何だ。今のは?」
夢みたいな、夢じゃない様な……。
そして突然起きた俺に気付いたのか、一緒に寝ていたフレイナは目を開けた。
「どうしたのグレン?」
「いや、何か今俺を呼ぶ声が聞こえてよ……」
「夢じゃないの?」
「う~ん、なんか引っかかって否定できないんだよな……」
歯切れの悪い言い方をする俺に、フレイナは眠たそうに「頭の中、見てみましょうか?」と聞いて来た。
「そんな事出来るのか?」
「グレンの脳を治したのは私よ? 人の子の頭の中を覗くなんて簡単に出来るわ」
フレイナはそう言うと、俺の頭に手を置いて目を閉じた。
そしてフレイナは俺の頭の中を見終わったのか、手を頭から離した。
「どうだった?」
「……ごめんなさい。私もちゃんとは見れなかったわ、でもあの顔。何処かで私も見た事があるような」
「顔? やっぱり、誰かが俺を呼んでいたのか?」
「多分だけど、脳内に話しかける系の魔法を使ったのかもしれないわ。本人がそれを自覚して使ってないからか、声が微かにグレンに届いたのかも知れないわ」
フレイナの言葉を聞いた俺はさっきの声、性別的には女の声が誰なのか眠気が覚めたせいで、それから一人考え込んだ。
そして陽が昇り、朝日を見た俺はあの声の正体を思いだした。
「フレイナ、あの声の正体分かったぞ」
隣で見守っていたフレイナに声の人物の名を告げた俺は、服を着替え誰も起きてない早朝に家を出てその人物の所へと向かった。
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