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第164話 【獣王・4】


 レオナードと模擬戦の準備を始めて一時間程が経ち、グレンが辺りを見渡すと多くの獣人が集まっていた。


「……レオナード。何で、こんなに人が集まってるんだ?」


「観客が居た方が盛り上がるだろ? それにどうせ、ここに居る奴等は悪魔と戦う可能性もあるんだし、強さは見せておいた方が良いと思ってよ」


「後半部分が理に適ってて、文句が言えないのが悔しいな……」


 グレンはそう強く文句を言いたいが、レオナードの考えも理に適っている為に反論出来ずに少しモヤモヤとしたまま準備を続けた。

 そうして準備が全て終わったグレン達は、それぞれ装備に着替えて戦いの場へと集まった。


「さっきの準備してた魔道具について、グレンは知ってるか?」


 この一時間、せっせこ準備をしていたのは、獣人国で戦いをする際に新たに取り入れられた魔道具の設置を行っていた。


「ああ、俺が世話になってる商会が結構な数の魔道具を扱ってるから効果も知ってるぞ。確か、この装着した腕輪とあの魔道具が繋がってて、一定のダメージを超えると壊れるんだろ?」


「その通り、獣人国は長い間争い続きで土地も酷い状態になっていたからな、俺はまず戦いのルールを定める事にしたんだ。これなら、どっちが負けたかも分かり易いだろ?」


 レオナードの話を聞いたグレンは、感心したような顔で「凄いな」と呟いた。


「それじゃ、魔道具についても知ってるみたいだし、早速戦うか。勝敗はさっき言った通り、どちらかの魔道具が壊れたらで良いか?」


「その方が分かり易いしな、それでいいぞ」


 ルールを聞いたグレンはそう返事をすると、レオナードと距離を取った。

 そして審判役を頼まれた獣人は、二人を交互に見て「試合始め!」と合図を送った。


「フンッ!」


「ッ! 早速、獣人族の奥義【獣化】かよ!」


 試合開始早々にレオナードは、獣人族の戦士だけが使える【獣化】を使用した。

 レオナードの【獣化】に対し、グレンは魔法剣を発動させた。


「行くぞ、グレン!」


 その声と共に、レオナードは地面を抉るほどの脚力で一瞬にしてグレンの正面に移動した。

 レオナードの速さに一瞬驚いたグレンだったが、動きは完全に見えていたため、冷静に攻撃を剣で受け止めた。


「ほう。俺の攻撃をこうも簡単に受け止める奴は、早々居ないんだがな」


「まあ、これでも鍛錬は沢山積んできたからな、次は俺から行くぞ?」


 グレンはその言葉と共に、その場から一瞬にして姿を消した。

 カグラとの戦闘でも見せたように、グレンは魔力が上がった事で身体能力も比例して格段に上がっていた。

 その為、魔力で辿られる【転移眼】では無く純粋な身体能力のみで、レオナードの視界から外させた。


「ぐふッ!」


 レオナードはグレンの匂いを辿り、何処に居るか探ろうとしたが次の瞬間、グレンの強烈な攻撃が脇腹を襲った。

 グレンはレオナードの視界から外れ背後をとると、そのまま回し蹴りをレオナードに食らわせたのだ。


「ふぅ、中々やるなグレン」


 【獣化】していた事で痛みが軽減されていたレオナードは、笑みを浮かべてそうグレンに言った。

 そう言われたグレンもまた笑みを浮かべてレオナードを見つめた。


「レオナード。悪魔の攻撃はもっと強いからな、こっから更に上げるぜ」


「おう。かかってこい!」


 その後、レオナードとグレンの戦いは激しさを増して行った。

 しかし、終わりは直ぐに来てしまった。

 レオナードの攻撃に比べ、グレンの攻撃は手数も多く一打一打のダメージが大きく、先にレオナードの魔道具が壊れてしまった。


「もう終わりかよ!」


 レオナードは魔道具が壊れた事に、悔しそうにそう叫んだ。


「まっ、いい所で負われたと思うぞ。あれ以上やってたら、互いに本気を出していただろうしな」


 グレンの言葉にレオナード以外は、「本気じゃなかったのか?」と驚いた顔をした。

 逆にグレンと戦っていたレオナードは、グレンがまだまだ力を隠している事に気付いており「だから、もっとやりたかったんだよ」と不貞腐れたような顔で言った。


「だけど、俺が戦った悪魔とは同等の力を出していたぞ? その強さにお前は付いてこれたんだし、十分悪魔と戦えるって分かったんだし良いじゃないか」


「それはまあ、嬉しいけどよ……」


 悪魔のレベルは超えていたと言われたレオナードは、少し機嫌を治したがそれでもグレンの力を最後まで見れなかった事が悔しさは上だった。

 その後、模擬戦で使用した会場を綺麗に直して、グレン達は再び話し合いをする為に王城へ戻る事にした。

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