第161話 【獣王・1】
獣人国の話が出た翌日、グレンは早速獣人国へと向かう事にした。
「一年も経ってないけど、久しぶりだな」
「そうね。私もこんなに長く、ここを離れた事が無かったから少し不思議な感覚だわ」
王都から転移眼で妖精界の入口がある森まで移動したグレン達は、結界の一部を解いて妖精界の中へと入った。
出て行く時から何も変わってなく、美しい自然が溢れるこの世界に戻って来たグレンは故郷に戻って来た感覚を感じていた。
「まあ、実際グレンはこの世界から新たな人生を歩みだした訳だし、故郷と言ってもいい場所ね」
フレイナはそう笑みを浮かべてグレンに言うと、妖精達も「グレン、一緒だね~」と嬉しそうに飛び回った。
それから暫く、妖精界を歩き目的の獣人国に繋がる所へと到着した。
「見た感じ、さっきの森の出口と変わらないが、本当に獣人国に繋がってるのか?」
「ええ、向こう側も少しの範囲は妖精界同様に隠れてる状態だから、人に見つかる事はないから安心して通って良いわよ」
そう言われたグレンは、言われた通り道を進んで行くと妖精界から外の世界へと出た。
その場所は先程入った森と似たような森だが、周りの雰囲気のちょっとした違いからグレンは別の場所だと認識できた。
「本当に移動で来たのか……改めて妖精の力って凄いって感じたよ」
「ふふっ、そうでしょ」
グレンの言葉に、フレイナがそう嬉しそうに反応した。
その後、グレン達は森からまずは出る為に移動を始めた。
移動を始めて少し経った頃、グレン達は近くに水の音と人の気配を感じ取った。
「どう思うフレイナ?」
「そうね。一度話しかけてみて、安全そうなら街の場所を聞いてみるのもありと思うわ」
グレンとフレイナは少し話し合うと、人の気配がする方へと近づいて行った。
そうして人の気配の方に近づくと、水の音の正体が〝大きな湖〟だった事が分かった。
「気配的にこの近くに居るけど、もしかして湖で水浴びしてたら俺達完全に不審者じゃないか?」
「……そうね。女性だったら尚更ね。少し離れた所に移動しましょうか」
自分達が危害を加えない存在だと最初から認知されるかどうか分からない為、グレン達は湖から少し離れた位置でその気配の人物が出るのを待つ事にした。
それから少し経った頃、グレンとフレイナの感知に魔物気配が映り、その魔物は湖の中から気配の人物の方へと勢いよく接近していた。
「ッ!」
「グレン、どうするの?」
「助けた方が良いだろ、この気配の奴呑気にまだ湖の中に入ったままだ!」
気配的に生きてる事は確認できるグレンは、そうフレイナに言うと森の中から湖の方へと走って向かった。
「——!」
魔物の正体は水棲魔物の〝クラーケン〟。
本来、海に生息している魔物だが大きな湖等にも偶に出現する魔物。
その魔物の出現にグレンは一瞬驚いたが、別に自分の力なら直ぐに倒す事は可能だと切り替えて、剣を抜いて攻撃を仕掛けようとした。
しかし次の瞬間、気配の人物は湖の中から「バァンッ!」と勢いよく水の中から出て来ると、襲って来たクラーケンの頭部に踵落としをくらわせた。
その人物のたった一度の攻撃にクラーケンはそのまま水の中に沈むと、クラーケンを仕留めた人物は片手で陸へと引き上げた。
「っしゃあ! クラーケンの丸焼きだ! って、誰だ?」
剣を抜いて攻撃を仕掛けようとしたグレンは剣を抜いた状態で固まって居り、クラーケンを一撃で仕留めた人物に見つかった。
「普通こういう場面って女の子が居て、それを助けるのがセオリーだろ……何で俺はオッサンの裸姿を見なきゃならないんだ……」
グレンはそう溜息交じりそう言うと、目の前のクラーケンの足を持った気配の人物に目をやった。
「その赤い髪、そして瞳の色は違うがその目付きの悪さ……お前、グレンか!?」
「ああ、久しぶりだなレオナード」
気配の人物の正体は獣人国の国王、獣王レオナードだった。
「いやいや、あいつがここに居る筈ないだろ……いや、だがこんな目付きの悪さをした人間はそうはいないし……」
「……森の奥で行き倒れた所を助け、冒険者の登録料も貸してやった恩人を忘れたのか?」
「ッ! その事を知ってるのはあいつしかいねぇ! って事は、本物何だな! うぉぉぉ、大きくなったぁぁぁ」
レオナードは目の前のグレンが本物だと理解すると、何も身につけていない生まれた時と同じ格好でグレンに抱き着いた。
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