第159話 【これからの動き・4】
「……えっと、何でそう言い切れるのかしら? 私達とは、獣人国は一度も関わった事が無いのよ?」
王妃はグレンの言葉に困惑しながら、そう聞くとグレンは言い辛そうに次の言葉を言った。
「その実は、レオナードからは言うなって言われてたんですけど……あいつ、この大陸。というか、この国で一時期修行しに来てたんですよ」
「「ッ!?」」
グレンの言葉にこの場に居た者達は、今度は驚いた声を出した。
「えっ、グレン君は何でその事を知ってるの?」
「……昔の事ですよ? 俺がまだ冒険者になる前、まだ教会で暮らしてた時の事なんでずか」
◇
レオナードと出会ったのは、グレンがまだ教会で暮らしていた時の事だ。
当時、既にグレンは今の自分が嫌で雷魔法で自分自身を変えた後、誰も自分を気にしない事を良い事に勝手に外に出掛ける回数が多くなっていた。
王都の様に街全体を囲む壁はあっても、王都の様に出入りが厳しくない為、一人で勝手に外に出歩いていた。
「ぐがー」
「……何してたんだ?」
妖精達出会ったあの森の中でグレンが歩いていると、大柄の獣人族がテントも張らずに地面に倒れるように寝ていた所に遭遇した。
気味が悪いなと思いながらグレンが去ろうとした時、目の前からこの辺には生息していない凶暴な魔物が現れた。
その頃から色々壊れていたグレンは驚かず、ただどうやって逃げるか考えてる最中に目線の先で寝続けている男の姿が目に入った。
「起きないと、死ぬぞ」
グレンはそう言って、軽く雷魔法で寝ている男に放つとビクンッと反応して体を起き上がらせた。
「んぁ? 俺、寝てたのか?」
ポリポリと頭を掻いてる男に、グレンは「魔物が居るぞ」と教えた。
「んっ、お~。ベアー種の亜種か、こんな所で出会う何て珍しいな~」
「何、呑気な事言ってんだ? 逃げないのか?」
そうグレンが言うと同時に、魔物は動き近くに居る男に攻撃を仕掛けた。
しかし、魔物の攻撃はその男には当たらず、逆に一瞬で背後に回った男に魔物は締め落とされ、倒れてしまった。
「……あんた強いんだな」
「まあな、ってかこんな所に子供一人で居て、親は心配しないのか?」
「生憎心配してくれる人は居ないからな、それであんたこそこんな所で何やってるんだ?」
グレンがそう聞くと、男は空を見上げ「財布を無くしちまって、腹が空いて倒れてたんだ」と悲しげな表情で言った。
それからグレンは森の奥にある秘密の場所に案内して、そこで先程倒したベアーを調理して男に振舞った。
「助かったぜグレン!」
塩で味付けしただけのベアーの肉を美味しそうに食べる男に、グレンは呆れた顔で見つめた。
そしてベアーの肉をほぼ一人で全部食べてしまった男は、満足した顔で「ごちそうさん!」とグレンに言った。
「いや~、こんな腹いっぱい食べたのは久しぶりだ」
「さっきみたいに魔物を狩って、その肉を食べたりしてなかったのか?」
「……料理した事なくてよ。焼くだけだろって思ってたんだが、焼きすぎたり生焼だったりで食えたものが作れなくてよ」
「それでよく旅なんてしようと思ったな……」
レオナードと名乗った男に、グレンは呆れ顔でそう言った。
「というか、そもそも街を拠点にしたりしないのか? そんな料理も出来ないなら、それが良いだろ?」
「それが出来たらしてるっての、この大陸に来る時に財布を無くしちまってよ。冒険者ってのに登録しようにも、登録料がいるだろ? それすら持ってないから、取り敢えず森とか山で生活してたんだが、流石に五日間も満足に飯を食って無くてさっきの所で倒れちまったんだよ」
「成程な……」
レオナードの話を聞いて当時のグレンは、強いのに馬鹿な奴なんだなとレオナードに対してそう評価した。
それからグレンは教会で手伝いをした際に貰っていたお金を集めていた袋から、冒険者登録に必要な金額をレオナードに渡す事にした。
「これやるから、冒険者になって金を稼げ」
「いいのかッ!」
「ああ、ただ倍にして返せよ? ただで貸すわけじゃない、お前のその力があればすぐに稼げるだろ?」
「ッ! この恩は、絶対に返す! ありがとうグレン!」
グレンはレオナードの強さをみて、今の手持ちより増やせるだろうと思いそう提案した。
それに別に返ってこなくても、いいやという思いもあった。
その後、グレンはレオナードを連れて街に戻り、レオナードの冒険者登録を行った。
レオナードはとある理由で、個人情報は伏せないといけないとなり〝レオナルド〟という偽名で登録をした。
◇
「それから暫く街で過ごして、また旅に行ったんです」
「……大柄の獣人族でレオナルドじゃと? 確かに、その名は聞いた事があるぞ!」
グレンの話を聞いていた賢者はそう叫び、他のメンバー達もその名を聞いて当時の事を思いだした。
「あたしも聞いた事あるにゃ、登録してたった一ヵ月でAランクまで上がった冒険者が居るって、確かその記録を出した名前が〝レオナルド〟にゃ」
「私も聞いた事が有りますよ。防具は身につけず、己の肉体のみで戦うその戦い方に、彼の戦いを見た者は〝武神〟と呼んでいたと」
「……そのレオナルドという冒険者の正体は、獣王レオナードという事ですか?」
「はい、それでもし何かあったら、いつでも手を貸すって言ってたので俺の名前を使えば、もしかしたら獣人国が手を貸してくれるかもしれません。ただ忘れられてる可能性もありますが」
昔の事ですし、とグレンは付け加えてそう言った。
その後、どうにかして早く獣人国と連絡は取れないかという話になった。
文はどうだ? 冒険者ギルドの通信機はどうだ? という話し合いの中、フレイナのたった一言で場は静まった。
「獣人国、妖精界を使えば直ぐに行けるわよ」
「えっ、マジで?」
フレイナの言葉に、グレンは目を見開き驚いた表情でそう聞き返した。
「ええ、別にこの大陸だけに妖精が居る訳じゃないし、あの子達がいつでも帰ってこれるように大陸毎にいくつか入口を作ってるのよ。でも、妖精界はグレンだけしか通れないから、他の人は来れないわよ」
「逆に、グレン君だけでも通れるのは助かります。グレン君、獣人国で協力をしてくれないか話をしてきてくれないかしら?」
王妃のその願いにグレンは「分かりました」と答え、グレンは獣人国へ行く事が決まった。
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