第153話 【状況変化・1】
変わり果てた兄の姿にグレンは、兄をこんな姿に誰がしたんだ! という怒りが湧いた。
その怒りは大きく、大きく膨れ上がり内に眠る魔力が怒りを表すかのように漏れ始めた。
妖精との契約で増えた魔力、更には鍛錬で見つけた魔力が怒りによって放出された魔力は王都に住まう者、王都付近の魔物達に大きな影響を与えた。
ある者は泣き喚き、ある者は震えあがり、魔物は王都から離れるように逃げて行った。
「グレン! しっかりしなさい!」
怒りにより暴走しているグレンに、フレイナは声を掛けるがグレンには届かなった。
そんなグレンにフレイナは焦ると、グレンの手の中で眠っていたグラムが目を開けて困った表情となった。
「あ~……グレン、そのごめん」
「えっ?」
死にそうだったグラムから突然そう言われ、何が起こったのか分からずグレンは呆気に取られた。
◇
「……」
「グレン、ごめんってあんなになるとは思ってなくてさ!」
俺の前で謝罪をする兄の姿に、俺は眉間に皺を寄せて睨み続けた。
「自分がもし傷ついた姿で現れたら、俺が心配してくれるか試したかったって……時の場合があるだろ!」
「いや~、うん。グレンの言う通りだね。本当にごめん」
怒気を含んだ俺の言葉に、グラム兄さんは身を縮こまして謝罪をした。
そんな俺達を俺の魔力に気付き、慌ててやって来たティアさんはマーリンも俺と同じような顔をしている。
「グラムさん、それでどうしてこのような事をしたんですか? それに貴方は帝国から出れないと、以前おしゃってませんでしたか?」
「うん、ちゃんと説明するよ。だから、グレン。その怖い顔で睨まないでくれないかな?」
「言い訳を聞いて、考える」
そう言うと、グラム兄さんはシュンッと落ち込んだ顔をして話始めた。
まず、瀕死状態の自分の姿を見せたのは、口にした通り俺が心配してくれるかな? という思いからした事だと改めて言い。
怒った俺がどういう風になるのか検証をしてみたかったと、付け加えてグラム兄さんは言った。
「検証って……そりゃ怒るだろ、現状知ってる肉親があんな傷だらけの姿で現れたら」
「うん、でもほら出会ってそんなに時が経ってないからさ、弟から心配してもらいたいっていう気持ちがあったんだよ」
「時間は関係ないだろ、フレイナが認めた時点で兄さんは俺の血の繋がった兄だ。そんな兄を帝国に一人残して、俺はずっと心配してたよ」
そんな俺の言葉にグラム兄さんは、嬉しそうな顔をした。
「それで、何でグラム兄さんはここに来れたんだ? 帝国から離れられないって言ってただろ?」
「ああ、その事だけど帝国の動きが変わってね。僕が動いても気付かれない状況なんだよ」
「……それは少し前に起こった。大量の気絶者が出た事件に関係してるんですか?」
「関係してるよ。だって、あの気絶した人達は、全員元悪魔憑きの人間だからね」
「「ッ!」」
その言葉に俺達は驚き、詳しくグラム兄さんに聞いた。
「まずこの事件が起こった理由だけど、それはグレンに関係してるんだ」
「えっ、俺?」
兄さんの言葉に、マーリンから「何かしたのか?」と尋ねられた。
「最近は、訓練しかしてないから特に何もしてないぞ?」
「最近の事じゃなくて、少し前の事だよ。ほらっ、グレンが悪魔と戦ったの覚えてる?」
「忘れる訳無いし、今でもあの時の事は覚えてるよ」
「うん、その時に戦った悪魔をグレンの技で消したでしょ?」
グラム兄さんの言葉に、俺は「ああ」とあの時の事を思いだしながらそう返事をした。
「本来、悪魔ってこの世界で活動する時は、人間の肉体を奪ってる状態だから、死んでも悪魔の世界に戻るだけで特に痛手は無かったんだよ。だけど、グレンと戦ってこの世界から消された悪魔達の姿は、悪魔の世界には戻らなかったんだ」
「確かに儂の作った魔法は、消失系の魔法を極限に高めたものじゃったが、悪魔も消し去る事は可能じゃったのか?」
「いや、多分だけどグレンだから出来た事だと思う。グレンは魔力の総量が人間の領域を超えているでしょ? 人外レベルのその魔力があってこそ、悪魔を完全消滅させる事が出来たんだと僕は思ってる」
「成程のう。確かにその説はあるの、グレンの魔力は儂と比べても遥かに上じゃしの」
マーリンはグラム兄さんの言葉を聞き、納得気にそう言った。
そんな二人の会話を聞いていた俺は、結局何でそれが帝国で大量の気絶者が出たのと関係を聞いた。
「うん、その戦いって実は僕達の方でも確認してて悪魔の存在を消す力を持つグレンに怯えた悪魔達が、自ら乗っ取った体を捨てて悪魔の世界に戻っちゃったんだよ」
「えっ? それじゃ悪魔は逃げたって事?」
「全員じゃないけど、下級の悪魔は我先にって逃げて行ったよ。上級悪魔の命令を聞かなく痛めつけられたりはするけど、グレンと戦って消されるよりマシだって言ってね。それで悪魔が体から抜けた事で、大量の気絶者が出たって事件が起きたんだ」
事件の真相を聞いた俺達は、その内容に驚き暫く何も言葉が出なかった。
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