第15話 【一年・1】
フレイナとの訓練を受けたり、妖精達と楽しい時間を過ごし、気付いたらもう直ぐ妖精界に入って一年が経過しそうになっていた。
それに気づいたのは、グレンが偶々フレイナに聞いた言葉だった。
「そういや俺が居た所は四季があったけど、妖精界は違うんだな」
「ええ、住みやすい気候で過ごせるように私が調整しているもの」
「そうだったのか? えっ、それじゃ今って外はどんな季節なんだ?」
その一言にフレイナは「丁度、冬が終わった頃かしら」と言った。
その言葉にグレンは、最初は「へ~」と答えたが直ぐに立ち止まり、思考を巡らせた。
「俺が妖精界に入ったのって、確か春先の夏に入る頃だったよな……」
「ええ、そうね」
「あれっ? って事は、もう直ぐ一年が経過するんじゃないか!?」
「あっ!」
◇
住みやすい環境で半年が超えた辺りから、日付の感覚が狂っていたグレン。
気分的にはまだ8ヵ月位だろうなという気分だったが、気付けば残り3か月を切っていた事実に驚いた。
「過ごしやすい環境で日付感覚が狂ってたみたいだな……」
「ごめんね。私もグレンと過ごすのが楽しくて、途中から狂ってたみたいだわ」
互いにそう謝罪をしたグレン達は、取り敢えずもう直ぐ妖精界を出る日が近いという事で準備をする事にした。
「準備と言っても、何をするかだよな」
「そうね。まあ、でも一番最初に決めるのはやっぱりアレね」
「アレって?」
グレンがそう聞き返すと、フレイナは眼を瞑るとカッと目を見開き大きな声で叫んだ。
「グレンと一緒に過ごす権利!」
「「ッ!」」
フレイナのその言葉に、妖精達はビクッと反応をした。
言われた本人であるグレンは「何の事だ?」と首を傾げると、フレイナはその内容について説明した。
「グレン。貴方には、ここに居る妖精が契約しているわ」
「ああ、そうだな?」
「契約した妖精は、契約者である人間について行き一緒に過ごすのが基本。それは知ってるわよね?」
「まあ、何度も聞いたし、前に妖精を連れた冒険者を見た事があるから知ってるぞ?」
何を言っているんだ? という感じにグレンはそう答えると、フレイナは周りに居る妖精達を見渡してこう言った。
「それじゃ、グレン。この数の妖精を連れて、ギルドや街を出歩くのかしら?」
「……ああ、成程な」
そこでようやくグレンは、フレイナの言葉の意味を理解した。
しかし、そこでグレンはこう言葉を続けた。
「別に良いんじゃね?」
「え?」
「いやだって、フレイナもこいつらも俺の事を気に入ってくれて契約してくれたんだろ? それなのに、数を選んで残りは留守番って可哀想じゃないか?」
そうだよな? とグレンが妖精達を見ると、妖精達は〝そうだけど……〟という感じに困った顔をした。
「でも、グレン。この数の妖精がグレンと一緒に居たら、きっと面倒な事も起きるわよ?」
「えっ、その為に俺を強くしてたんじゃないのか? まあ、でも常時この数が居たら人の邪魔にはなるかもな、そこは考えないといけないな……」
フレイナはそこでようやく、グレンの思い。
グレンは最初から、誰を連れて行くか何て考えておらず、ここに居る自分も含めて全員と一緒に旅をしようと考えている事に気付いた。
「グレン。もしかして、その為にあんなに辛い訓練をしてきたの?」
「辛いって気づいたのに、それをしてたのか? まあ、でもその位しないといけないなって考えもあったからな。妖精を悪いように使う奴も居るって、聞いた事があるし、そいつらに手だしされない位には俺が強くなろうってな」
そのグレンの言葉に、いつもであればフレイナだけ号泣して抱き着いてくるのだが。
今日に限って、その言葉に妖精達も泣いてグレンの元に集まり、フレイナと共に泣き叫んだ。
「ちょっ、どうしたんだ!? 何で、泣いてるんだ!?」
いつもであれば、こんな状態になったら妖精達と話して時間を潰すのだが。
今回は、その妖精達も一緒に泣いている。
そんな状態で一人グレンは、訳も分からず泣き叫ぶフレイナ達に抱き着かれ、混乱してフレイナ達が落ち着くまで、ただ抱き着かれた状態となった。
その後、一時間程が経ち落ち着いたフレイナ達は、グレンに「一緒に皆で過ごす為の会議」と言って話し合いを始めた。
話し合いの席には、当然グレンやフレイナ、そして500の妖精達が参加した。
「で、この数をどうするかだよな」
「そうね。最初は、人数を決めて行くつもりだったから、その事は考えてなかったけど、一番いい方法は、グレン以外が居る所では妖精族が使える魔法で姿を消した状態になる事ね」
「えっ、そんな事出来るのか?」
「出来るわよ。偶にグレンが人間界で生活してた頃、姿を消した状態でこの子達近くに行ってたわよ」
そう言われたグレンは、全くそんな気配を感じた事が無く「一回見せてくれないか?」と言った。
その言葉にフレイナは近くに居た妖精に、姿を消す様に言うとパッとその場から姿を消した。
「おお、本当に姿を消してるな。あれっ、でも薄っすらと姿が見えるぞ?」
一瞬で消えた妖精の姿だが、数秒経つとグレンは妖精の姿が薄っすらと確認出来た。
「多分、それは眼のおかげね。それって、私の魔力で作った物だから妖精が消えた状態でも見えるようね」
「へぇ、流石便利な眼だな。この姿を消すのって、ここに居る妖精は全員出来るのか?」
そうグレンが聞くと、妖精達は「出来るよ~」と一斉に言って、パッと姿を全員消した。
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