第01話 【失う・1】
新作です!
よろしくお願いします!
「グレン。君の評判の悪さはパーティーにとって不利益だ。今日限りで出て行ってもらう」
「……はい?」
朝早く、話があるからとギルドに呼び出された俺は呆然とした。
何となく予想をしていた言葉だったが、所属しているパーティーのリーダーであるアレインからの言葉に驚きを隠せなかった。
「これまで君の活躍に免じてパーティーに残らせていたが、先日君の代わりとなる剣士を見つけた。だから、グレン。君はパーティーから脱退してもらう」
アレインからグレンと名前を呼ばれた俺は、ふとアレインの後ろに立つ仲間達へと目をやった。
魔法使いのエレナ。
僧侶のエミリー。
盗賊のユリ。
そして、最近王都へやって来たと噂の大剣を背負った剣士が立っていた。
成程な、替えが見つかったから俺を切り捨てるって事か……
アレインがリーダーを務めるこのパーティーは、先日受けた依頼を無事に達成してBランクパーティーに昇格した。
その昇格と同時に俺を捨てるという事は、大分前から考えていたみたいだな。
そうでもないと、こんな良いタイミングで代えの剣士なんて用意出来ないだろう。
これでも12歳から3年間、幼馴染だけで組んだこのパーティーに結構貢献してきたんだけどな……
「そうか、分かったよ。丁度ギルドに居る訳だし、脱退手続きを済ませるか」
「物分かりが良くて、助かるよ。これまでの功績に免じて、お前が持つ装備はそのまま持っていくがいいさ」
悪気無く言うアレインは心の底から、そう思っているのだろう。
俺が着用している武具や道具は、全て俺の分け前や一人で稼いだ金で購入した物なのに、さも自分達の物だと言っている口ぶりだ。
「ああ、でも最後に一応引継ぎって事でそこの剣士と話しても良いか?」
「ふむ……確かにそうだな。戦闘面ではグレンは使えてたし、それだけやって抜けてくれ」
アレインは俺の言葉を聞くと機嫌よくそう返し、後ろに控えていた男に俺から引き継ぎをするようにと言って自分達は先に受付の方へと向かった。
そして二人になった俺達、先に口を開いたのは相手の男だった。
「グレン。お前の評判はよく耳にしていた。悪い噂を聞く事が多いが、剣士としての腕は最高峰だという噂も聞いた事がある。そして、今こうして会って理解できた。あの噂は本当だったのだと」
男はそう俺の体をまじまじと見ながら、剣士としての腕を察し、褒めてくれた。
「そうか。まあ、そう言ってくれるのは嬉しいぜ」
褒められる事は殆ど無い為、俺は苦笑しながらそう返した。
そして互いに挨拶を済ませ、この男がラウスという名だと知った。
そして俺はアレインのパーティーでの大事な事を伝えた。
「まず最初に一番重要な事だが……耳栓は必ず用意しておけ」
「み、耳栓? 何でだ?」
「なあ、ラウス。お前が聞いた俺の悪い噂って、どんな内容か言えるか?」
「……行く先々の街の娼館に入り浸ったり、時には町娘に手を出したり」
ラウスは俺の悪い噂の中で、一番噂されている一部を口にした。
そしてそれらを言った所で何かを察した。
「彼奴らは、旅の道中だろうと迷宮内だろうとお盛んだ。それを聞きたくないなら、耳栓。もしくは自分専用で音を遮断する魔道具を用意するのをおススメする。一応、俺はパーティーの面子の為に他パーティーと合同になる時は、彼奴らにも防音の魔道具を使ってたが、少々お高い。そこはラウスに任せるよ」
「ま、マジなのか? というか、パーティーの女3人に手を出してるのか?」
「マジだよ。仲間外れは辛いぜ? 迷宮内だと特にな~、見張りの組分けが俺と他三人で彼奴らがテントに入ってる間は、殆どやりあってるからな。それで何度も一晩中、見張りをさせられた事もある」
「う、嘘だろ……そんな話聞いた事も無いぞ……そもそも見張りが耳栓してたら危ないだろ」
「そりゃ、見てるのが俺だけだからな。街に戻れば、普通のカップルみたいに見られてるしな。あんな声聞かされ、一人残されたらそりゃ娼館通いもしてしまうさ、そうだろう?」
俺の言葉にラウスは頷き、パーティーに入った事を既に後悔している様子だった。
「それと、ここからが本当の引継ぎの内容になるんだが。覚悟は良いか?」
「……今の内容でさえ堪えれないんだが、それ以上の事があるのか?」
「あるぞ、というかあのパーティーは問題だらけだからな」
そう言って俺は、ラウスにこのパーティーについて一から説明をした。
それから10分程経った頃、待ちくたびれたであろうアレイン達が俺達の所へと戻って来た。
「グレン。話が長いようだが、まだなのか?」
機嫌悪そうに、そう俺に言うアレイン。
そんなアレインに伝えたい事は伝え終わった俺は、普通の顔で返答した。
「んっ? ああ、もう終わったよ。一応、高ランクパーティーだからな、引継ぎの内容も色々とあるんだよ。んじゃ、まあそう言う事でラウス。頑張れよ」
「あ、あぁ……」
そう言葉を掛けると、意気消沈してしまったラウスは力なく返事をしただけだった。
その後、俺は受付に行きパーティーの脱退手続きを済ませた。
そして次の仕事の手続きはせずにギルドを出て、そのまま王都の外へと出た。
「ん~! っと、最初は驚いたけど抜けて正解のパーティーだったし、スッキリしたな!」
パーティーを抜けた俺は、自分の中に溜まっていた何かが抜け、スッキリとした気持ちになっていた。
アレイン達とは幼馴染で、12の時に一緒に故郷を出て、3年間冒険者パーティーとして活動をしてきた。
最初は冒険者という職業は色々と大変だったが一年もすれば慣れ始め、2年目くらいからアレインはパーティーの女に手を出し始めた。
その中には、幼少期に特に仲が良く将来結婚しようね! と約束をした事があった女も居たが、今はアレインの女の一人だ。
その女とアレインが交わった光景を見たその日は、流石にどうにかなりそうだったが、翌日には普段通りを装い生活を送って来た。
そしていつの日かそれが普通となり、いつの間にかパーティーメンバーからも嫌われ始めた。
「あ~でも、パーティー抜けたからパーティー名義で故郷に送ってた仕送りどうしようかな……今後はパーティー名義は使えないし、丁度良いから故郷の様子でも見に行くか……」
冒険者という職業を辞めた訳では無いが少しの休息くらいはいいだろうと、俺は一度故郷に戻る事を決めた。
そうして計画を練った翌日、俺は故郷の街に向かう馬車に乗っていた。
これでもBランクパーティーで前線を張ってた俺は、王都付近の魔物程度なら一人でも対処できる能力を持っている。
というか、俺の場合は一人で依頼を受けていたりして、個人ランクはあいつらの上のAランク冒険者という肩書を持っている。
この事はギルドに余り知らせないでくれと言っておいたので、ギルド職員以外は俺がCランクかBランクだと思っているだろう。
勿論、そこにはアレイン達も含まれている。
嫌われている相手に自分の情報を渡すのは、冒険者として悪手だと最初に習った通りに俺はそうしていた。
「というか、殆ど依頼を受けないのにBランクパーティーってよく認められたよな……俺の依頼は俺個人で受けてたから、パーティーとしての貢献度は変わってないだろうし……」
まあ、でも既に抜けた身、あのパーティーの事を考えても意味がないか。
強いて言うなら、あのラウスと名乗った剣士が何処まで持つのか興味が少しあるくらいだろう。
そう結論付けて、故郷の街に戻るまでのちょっとした馬車の旅を楽しむ事にした。
◇
馬車の旅で数日、故郷の街に戻って来た俺は育ての親が居る教会にやって来た。
俺やアレインを含めた幼馴染達は、全員この教会の孤児だった。
子を育てきれない者達が教会に捨てて行く、それはこの国では当たり前に行われている。
そんな孤児達の面倒を国が支援をしている教会の神父や修道女等が世話をしていて、俺の親はそんな教会で働く者達だ。
「グレン。ここから出て行け」
教会に入ると、子供達と遊んでいるジジイと目が合った。
楽しそうにしていたジジイは、キッと俺を睨みつけ子供達を教会の奥へとやり、俺にそう言って来た。
「はっ? 今何て言ったんだよ!?ジジイッ!」
出て行けと言われた俺は、その言葉が信じられず聞き返した。
そんな俺に対し、ジジイは更に睨みつけてきた。
「お前の噂は、この街でも良く聞いていた。そんな奴が教会に出入りしていれば、子供達まで悪く見られる」
「ちょっ、はあ? まさか、ジジイ達まで俺の悪い噂を信じてるのか!?」
俺の噂は一部、というか娼館通い以外は全て捏造された噂だ。
そしてそんな噂を育ての親であるジジイ。
更には、修道女や料理人といった教会で働く者達全員が睨むような目線で俺を見ている事に気付いた。
「チッ!…わーったよ!金輪際こんな教会には近づかん!これは最後の仕送りだよッ!」
睨み続けるジジイに俺は、仕送りを入れていたいつもの袋を投げつけた。
その袋を見たジジイは驚いた顔をしたが、もう他人となった相手。
俺は振り返り、入って来た扉を開けて外に出て行き、止まらず街の外まで出て行った。
「クソッ! クソッ! クソッ!!」
怒りのまま街を飛び出し、そのまま魔物を見つけては怒りの矛先として殺しまわった。
他人が噂するのは別にいい、他人が噂を信じてもいい、他人が噂を捏造するのはいい、他人となった者達が噂を信じ捨てられるのも良い。
そんな気持ちで、俺はこれまで生きて来た。
しかし、そんな俺の気持ちを裏切る様に、あの人達なら心配いらないと思っていた育ての親達も噂を信じていた。
「クソックソッ……何で、こんな事ばっかり、起こるんだよ……」
魔物を斬り殺し、周囲に魔物が居なくなった森の中で俺は膝から崩れ落ちた。
信頼する者達からの裏切りに、心をズタズタにされたような気分となり、涙があふれ出た。
「うぐっ、ぐぞッ……」
次第に感情が分からなくなった俺は両手に魔力を練り、両手で頭を抱えた。
そして次の瞬間、俺は森の奥で意識を失った。
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