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 そう言いながら、頭の中では過去の光景がよぎっていた。一年前のあの夜にアモンデルトと対峙して心が折れた俺は、リズレッドに助けられた。その構図がいま、そっくりそのまま再現されているのではないだろうか。心が悲鳴を上げているアミュレと、それに力を貸そうとしている俺。……であれば、助けたいのだ。目の前の少女を。それがリズレッドを目標として追いかけてきた俺の、次なる試練なのだと思った。


「ラビ、さん」


 気づけばアミュレは俺に抱きつき、泣いていた。腹部に頭を押し付け、ローブを強く握って、手を震わせながら何度も俺の名を呼んだ。


「ラビさん……ラビさん……ラビさん! どうか……どうか死なないで……とても嫌な予感がするんです! 何か取り返しのつかないことが起きてしまうような、そんな予感が――!」

「ありがとう。でもここで死んだとしても必ずまた会える。だから――」


 俺はそこで、彼女の頭を撫でた。栗毛のさらさらとした髪を痛めないように、そして諌めるように。


「――だからアミュレも、危なくなったらちゃんと逃げてくれよ。さっき言ってた気配を消すスキルを使えば安全だ。アミュレが死ぬほうが、自分が死ぬよりも辛い」


 涙を溢し続ける彼女の頬が朱く染まった。目をこすり、落ちる雫をぬぐったアミュレは、精一杯の笑顔を作り、激励を送ってくれた。


「……ぐす……はいっ! どうかお気をつけて!」


 そして彼女はリフレクトシールドを唱えて、俺に付与してくれた。HPバーの下に《物攻被ダメージ軽減》を意味するアイコンが表示される。いよいよ準備が整ったのだ。爆心地に顔を向けると、すう、と息を大きく吸って、吐いた。


「……じゃあ、またあとで必ず会おうな」


 後ろに控えるアミュレに手を振ると、


「……《疾風迅雷》」


 俺は死地へと飛び出した。


 速度を乗せた体が風の如く荒野を走る。この一年で俺の疾風迅雷はレベル4まで上がっている。ドラウグルと戦ったときとは比べ物にならないスピードで、今まさに残りの兵士に迫ろうとするロックイーターに猛接近する。


(――いける!)


 彼らは竜蟲も含めて全員が俺に気づいていなかった。ロックイーターは人間狩りを楽しみ、兵士たちは眼前の敵に恐怖してもはや錯乱状態だ。誰一人、外部から接触してくる者がいるなど思っていない。


 その隙が――《罪滅ボシ》を喰らわせる絶対の好機を生んでいた。日没の時間帯というのもそれを後押しした。ぐんぐん敵に迫り、目算で距離を測る。


 残り五十メートル……三十メートル……


 気づかれないように敵の背後から近づく。ほどなくして会敵の瞬間は近づき、やがて一足飛びすれば奴に刃が届く距離まで詰めると、俺は地を蹴り、最大の好機を掴むため、その名を上げた。


「《罪滅ボ……がッ!?」


 しかしその好機は、そこで幕を下ろした。攻撃の瞬間に視界が急にぶれたのだ。いや、違う。()()()()()()()()()()()()のだ。技を発動する直前に、最大のチャンスを目の前にして、俺は跳躍の力を殺されて地に落ちた。


『ッ!!』


 ロックイーターは背後で起きた奇襲に気づき、慌てて地面を張って距離を取った。俺は頭から落下していく感覚の中で、思考停止したけた頭を強引に再起動させると、受け身を取るために体を捻った。だが体の動きは鈍く、


「ぐがッ!」


 辛うじて地面に叩きつけられるのだけは避けた、という感じの着地となった。見ればHPバーが五分の一ほど削られている。先ほど俺を襲った謎の力が、ダメージとなって硬直時間を生んだのだろう。だがそれはいま考えることではなかった。何故なら俺は奇襲に失敗したのだ。距離を取ったロックイーターがこちらをはっきりと視認しているのがわかった。千載一遇のチャンスを逃し、俺は他の兵士たちと同じように、奴の食卓に並ぶ食材のひとつに成り下がったと理解した。


「……き、君は……?」


 そんな中で、ボロボロになった兵士が突然の乱入者に驚きつつ、声をかけてきた。ウィスフェンド特有の、茶焦げた髪と謹言そうな顔つきの、二十少し前くらいの男だった。見ると他の二人も辛うじて息をあったが、他を気にする余裕は残っていないようだった。唯一体力に余力のある彼が、折れた左腕を支えながらも声をかけてきたのだ。


「俺の名はラビ。あなたたちを助けにきた……つもりだったんですが……」

「ラビか。自分はホークだ。加勢に来てくれただけでも有難い。安心してくれ、ウィスフェンドの兵として、君は必ず逃す」


 どうやらホークは俺がウィスフェンドにゆかりのある人物だと思っているらしい。あわてて訂正するため、かぶりを振って答えた。


「……いや、ホークさん。俺はあなたたちを逃すためにここに来ました。だからその気遣いは無用です」

「……兵士でない君にそこまで覚悟を強いてしまうとは……自分の力のなさが情けない。だがありがとう、先ほどの奇襲が成功していれば、まだ助かる算段もあったのだがな……」

「そうだ、さっきのは……一体、俺は何に攻撃を阻止されたんですか? ロックイーターの動きには細心の注意を払っていたのに……」

「自分にもわからない。だが敵の攻撃でないことは確かだ。距離を置いて見ていたからわかる。君が受けたのは風の魔法 《ウィンドブラスト》だ。風弾がどこからか飛んできて、君に直撃したのを見た」

「……敵にも味方がいるのか」

「ああ、群れを成す魔物ではないと思うのだが、その可能性も捨てきれないだろうな」


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