表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/492

37

 すっと指差して感覚した方向を告げる。俺はそこで、とある思索が浮かんだ。ヒールは光玉として撃ち放つことができた。ならばファイアはどうなのだろう? ゴーレム戦では掲げた手の平から少し距離を空けたところで炎が発生した。あの魔法を習得してから今までずっとそうであったし、リズレッドもそれに対して深く言及なかった。


 もしかすると魔法によって発動形式に違いがあるのかもしれない。しかしこの疑問を頭の中だけで解決しようとしても、解答は出ないだろう。であれば次に取る行動はひとつだ。疑問を晴らすために、次はそれを実験する。幸いにもあの岩向こうには的がいるらしく、そして更に幸運なことにあちらはこちらの存在に気づいてすらいないので、集中する時間もある。俺は腕をアミュレが示した方向へ掲げると、訊いた。


「アミュレ、ここから敵まで何メートルあるか、大体でいいから教えてくれないか」

「え? あ、ああ、わかりました。……ええと……およそ七メートル……と言ったところでしょうか」

「七メートルか……オッケーだ」

「ラビさん、なにを?」


 訝しげに訊いてくるアミュレには悪いが、今は腕に意識を集中させる。ヒールの光弾のようにファイアを飛ばせるかの実地研修だ。だが困ったことに野球の遠投と違い、投げる動作を必要としないため、標的への目星を付ける感覚がわからなかった。これでは魔法を着弾させるのは難しいだろう。そこで考えた結果、俺はこの腕を銃に見立てることにした。引き金を引くことと魔法を発動させることの違いはあるが、振りかぶる運動を必要としないので一番違和感がない。


 指を大きく開き、中指に焦点を合わせる。これが銃でいうところの照星だ。だがこれだけでは的確な射線を維持できない。本来ならば銃口付近に設けられた凸型の照星を、後方にある凹型の照門に合わせるようにして引き金を引くのがセオリーだ。だったら……照門も作ればいい。俺は掲げている右腕にもう一方の左手首を乗せて固定すると、ピースサインを作った。この二本の指が凹型の照門の代わりだ。指の間から右手の中指を覗く。こいつをピースサインの中央に位置するように調整すれば、ひとまず狙いは担保されるはずだ。


「まあそうそう当たるものじゃないと思うけど……物は試しってやつだな」


 岩が邪魔になり直線軌道では狙えない。放物線を描くイメージで腕に角度を付けると、ひとおもいに呪文を唱えた。


「《ファイア》!」


 掛け声と共に火球が腕から放出された。放射火炎ではなく球体の赤い光が勢い良く放物線を描いて飛ぶ。


「よしっ!」


 思わず声に出して成功を喜ぶ。そしてわずかな間を置いて、岩陰の向こうで地面に着弾、燃え広がる感覚が伝わった。それと同時に、耳の片隅で『ピ』という聞き慣れた電子音も聞こえた気がするが、その音は岩向こうから聞こえる断末魔にかき消された。


『ギギィィイイイ!?』


 岩同士をこすり合せるような鈍く、そしてけたたましい声だった。

 驚いたことに、最初の一撃でうまく敵に命中したようだ。射撃どころか球技すら得意ではないので、まさか当たるとは思わなかった。


「ラビさん、いまのは!?」


 アミュレが目を白黒させながら訊いてきた。だが話はあとだ。いまは敵の状況を確認したい。「説明は少し待ってくれ」と言い残して岩陰に移動すると、彼女も慌てて後ろに追随してきた。そして俺たち二人が目にしたものは、


「うわあ……」


 燃え広がった炎の残火と、瓦礫と化した《岩トカゲ》だった。焦げ跡から見て奴に直接着弾はせず、熱の余波を受けたようだ。自分でも初めての実践でいきなり着弾するとは思わなかったので、疑問がひとつ解けた。だがそれと同時に、新たな疑問が生まれる。


「俺の《ファイア》……こんなに強かったか?」


 ファイアを習得したのはだいぶ前だが、ここまで威力を発揮したことはなかった。ガスボンベにライターの火を近づけて簡易火炎放射器として使った程度の (それでも十分ではあるが) 火力だったはずだ。しかし焼け焦げて焦熱音を鳴らす岩肌を見るに、着弾時の様子はそれを超えていたのは明確で、火炎放射器というより小型の手榴弾でも投げ込まれたような有様だった。


「通常使用時と集中使用時で炎の威力が変わるのか……?」


 アミュレのヒールが光球状に飛ぶのを見て、もしかしたら自分にもできるのではないかと試して、実際にそれは成功した。俺はもう一度推論を確かめるべく、今度は照準を合わせずに呪文を唱えた。するとやはり手の平からは火球ではなく、炎が勢いよく吹き上がる。しかし火力は明らかにゴーレム戦で使ったときより増強されていた。理由はわからないが、どちらの場合でも基本的な威力が増大しているようだ。


 ひとまずこの疑問は置いておき、実験の成功を喜ぶことにしよう。どうやらスナイパーのように意識を集中して撃つかどうかで、発生する魔法の性質に違いが出るようだ。放射火炎か手榴弾か。これは戦略のバリエーションを増やすのに重宝しそうだ。……それにしてもリズレッドも、こんな小技があるなら教えてくれれば良かったのに。それともここまで気づくまでが修行の一環だったのだろうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ