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「こういった類のアイテムの場合はあまりおすすめしないが、この状況じゃあねえ。頃合いを見計らってもとに戻してやれば問題ないと思うよ」


 その言葉を聞いて安堵する。ナイトレイダーのアビリティを抜き取ったら、こいつに宿った運命も消えてしまうのではないかと心配したのだ。


「わかりました。付術が必要になった際は、是非またお願いしに来ます」

「言ったねえ。私の仕事は高いよ? 娘が助けてもらった恩はあるが、値引きはなしだ。ギルドの世界で生きると決めたのはこの子なんだからねえ」


 アドはロズを一瞥しながら告げた。それは俺への申告というより、彼女への忠告のようだった。厳しい世界で生きると決めたからには、トラブルは起きて当然であり、被害を被ったとしても、それを振り払えない自分に責任があるということなのだろう。孫娘への厳しい愛情と取るべき言い分であり、俺にとっては耳が痛い言葉でもあった。


「甘えは通用しない……ということですね。自分で決めたことなら、結果が伴わなかったときに吐く言葉は、どんなものでも言い訳にすらならないと」

「……ほう」


 自責の念を込めて独り言のように呟いただけなのだが、アドは意外そうに目を見開くと、にやりと笑った。


「召喚者なのにラビ殿は、良く心得てるねえ」

「……昨日、パートナーから教わりましたから」

「召喚者っていうのはモンスターを殺しただけで心を病む者も少なくないというからね。それくらい厳しさを教えこませたほうが良いと思ったんだろうさ。私もその意見には同意だよ。甘っちょろい冒険者なんて、とっととくたばっちまうからね」

「……そうですね」


 考えれば考えるほど、昨日の彼女の気遣いがわかり、自分を殴りたい衝動に駆られる。向かい合った老女はその雰囲気を察し、眉根を寄せて訊いてきた。


「……ふむ? なにかあったんかね?」

「……ああ、いえ……とても個人的な話です。そこまで気遣ってくれた相手に、俺は……昨日ひどいことを言ってしまって……」

「ああ、なんだ喧嘩したのかい」

「っ」


 全くもってこの人は、相手の心を読むスキルでも習得しているのではないかと疑いたくなるほど、確信を突いてる。

 言い淀む俺に対し、彼女は特に何事もないように、あっけらかんと告げた。


「そんなもの、いちいち気にする必要なんてないだろうさ」


 まるで、それがどうしたとでも言うような口調だった。だが俺には当面の大問題であり、なおも苦い顔を面に出してしまう。

 アドはお茶を飲みながら、淡々と告げた。


「信頼した相手と喧嘩をすりゃあ、誰だって最初は気落ちする。でもね、違う人間同士、心を寄せ合ったときに衝突しないほうがおかしいんだよ」

「……そういうものでしょうか」

「……ふむ、ひょっとして喧嘩は初めてかい?」

「……はい」

「しかも、今まで女とそこまで親しい仲になったこともないと」

「っ!? なんでそこまで!?」


 図星を突かれて顔が真っ赤になる。

 今、両隣にいるアミュレとロズはどういう顔をしているのだろうか。確認したい気持ちもあるが、その勇気が出せずに、俺は目の前のアドを凝視した。彼女はからかうように笑いながら、気さくに言葉を続ける。


「ふっふっふ、女慣れしてる男は、いちいち喧嘩したくらいでそこまで暗くならないもんさね。でも恥じることじゃないよ。話を聞く分には、ラビ殿とその相手は、ずいぶん長い間一緒に旅をしたようじゃないか。だとしたら、お主のそういう純情なところも気に入ってるんだろうさね」

「……なんだか、褒められてるのか冷やかされてるのか判断に困るんですけど?」

「ま、五分五分ってところさね」

「勘弁してください」

「ははは! いやあ、ごめんごめん。つい楽しくなっちまって。……でもねラビ殿。こっちの世界には「喧嘩はレベルアップ」という言葉がある。相手と親しくなるとき、必ず一定の周期で訪れるイベントみたいなものなのさ。そしてそれを乗り越えたとき、お互いの距離はさらに縮まっている。そう考えれば喧嘩も、そう悪いものじゃないだろう?」

「……喧嘩はレベルアップ、ですか……向こうも、同じ気持ちだといいんですが……」

「大事なのは喧嘩をしたからって距離を取ろうとせずに、相手の心とぶつかり合うことさ。……ああ、やだね。歳を取ると説教臭くなってしまって。ま、いまのは老婆からのちょっとしたアドバイスと思っておくれ。この助言はサービスにしておくよ」


 なるほど、今のは彼女なりの俺への慰めだった訳か。アミュレたちに挟まれながらこういう話をされるのは堪えるものがあったが、確かにショック療法的な効果はあるかもしれない。証拠に先ほどまで胸を覆っていたもやもやが、少しだけ晴れた気がした。でも女性経験が少ないことは、できれば秘密にしておきたかったけれど……。

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