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 彼女の過去を聞いたパーティが殺しにかかってきた話はあったが、流石にそんな人間と同じにされてはたまったものではない。アミュレは自分の意思で殺人に走っていた訳ではないし、死霊の道を歩んだ訳でもないのだ。加入を断るようなことはあっても、刃を手にする理由はない。というか、癒術を使える仲間がいない今、アミュレの参加希望を断る理由もないのだ。……お金があれば、であるが。


「……恩人」


 アミュレが俺の言った一言に、目を大きくして、呆然とした様子でその単語を繰り返した。そして、


「……やっと、初めて人からそう言っていただけました」


 それが最大の宝であるように、彼女は噛みしめてそう言った。

 気づけば涙が、彼女の柔らかそうな頬にひとつの筋を作り、その言葉を心の奥に大切に仕まうように、胸の前で拳を強く握った。

 それを見て、彼女がいままでどのような思いで旅を続けてきたのかわかり、目を細めた。


 感謝の言葉は、旅の中で何度もされてきただろう。きっと彼女は昨日の俺に対して行ったように、傷ついた人を見れば誰彼構わず癒術を使っていたはずだ。しかしそれは、アミュレの『盗賊』という前提を省いた感情だ。真に感謝されるべきは癒術を自分に譲ってくれた友人であり、その友人を殺したのは自分なのだと、誰かに感謝されるたびに心を痛めていたのだろう。


 だが彼女は、やっと己の本来の姿を晒して、感謝の言葉を受けることができた。『ヒーラー』としてではなく『ヒーラーを目指す盗賊』として。人から蔑まれる職を無理やり神託させられ、それを覆すために故郷を離れたというのに、その先々でも冷笑や暴力にしか出会うことができなかった少女が、やっと手にした賞賛。それがいま、俺がなんの気なしに語った『恩人』という言葉だったのだ。


 ……できるなら彼女を俺たちのパーティに加えてやりたい。そう思ったが、資金のない者が他人を幸せにできるほど世の中は優しくないことくらいは、俺でもわかる。

 しかし彼女は、そんな俺の思いとは裏腹に、


「じゃあ、私を加入させてくれるってことでいいんですね」


 にっこり笑いながら、それが当たり前の道理であるように告げた。


「なんでそうなる!?」

「だって食べていくくらいのお金なら、自分で稼げますもん。私の職業をなんだと思ってるんですか」

「…………あ」

「まあお二人を養うくらい稼げる訳でもないので、そこはなんともできませんけどね。でもその解決の糸口は、おそらくもう見つかってるんでしょう?」

「あ、ああ……まあな。で、でも食べる分は良しとして、寝る場所はどうするんだよ? 毎日ベッドの上で寝れる保証なんて……」

「はい、そういう所ですよ」


 アミュレが人差し指をびし、と俺に突き立て、強い口調で言った。


「私たちがラビさんたちを『召喚者』と雰囲気でわかるのは、そういう求める生活レベルの高さにあるんです」

「……え、俺そんなに贅沢なこと言ったか?」

「言いまくりです。毎日ベッドの上で寝れる保証がない? そんなのこの世界で保証されてる人のほうが少ないですよ。旅が前提条件にある冒険者なら尚更です。私なんてシュバリアからここに来るまでに、宿で寝た回数のほうが少ないくらいです!」

「えええ……ということは野宿か? さすがにそれは危ないだろ。アミュレは女の子なんだし、盗賊にでも会ったら……」

「だから、盗賊は私なんですってば」

「……あぐ。いや、でも……だな……」

「もう、なんでそんなに私の身を案じるんですか! パーティのリーダーはラビさんなんですから、ラビさん主体で考えていただけばいいんです! というか、野宿程度なんともないので、加入させてください!」


 ずい、と小さい体をつま先立ちさせ、凄むアミュレ。だが次には急いで後ろずさる。


「あっ、すみません! お願いしてるのは私なのに、つい調子に乗ってしまいました!」


 自分でもそれが意外だったのだろう。赤面させながらぱたぱたと手を振って謝罪する少女に、思わず吹き出した。


「……いや、いいよ。なんだかそっちのほうがアミュレって感じだ」

「そ、そうでしょうか……?」

「ああ。昔がどうであれ、いまのアミュレが、偽りのない本当の自分なんだと思う。その笑い顔を見てると、そういう風に感じるよ」

「……っ、そのお言葉は……ちょっと過分に過ぎますね。本当の私なんて……誰にも見せられませんよ。心の底にいる私は、いまでも死霊を教育されていた頃の私と変わらないんです。じっと底面に潜んで、外界の様子を観察しては『相手を殺せるか。殺せるとしたらそれを利用できるか』で判断しているんです……」

「……それじゃあ、その自分に負けないような自分にならないとな」

「……え?」

「……昔、リズレッドと初めて会ったときに、俺も同じような経験をした。勿論、アミュレとは比べ物にならないけど、弱い自分に負けて戦いから逃げそうになったことがあるんだ。あのときは踏みとどまることができたけど、きっと本当の俺も、あのときの弱い自分なんだ」

「ラビさんは、なんでそのとき踏みとどまることができたんですか?」

「……リズレッドが命をかけて俺を守ってくれたからだ」

「そうですか……エルフは人族には心を開かないと言われていますが、余程ラビさんを信頼してるんですね」

「……」

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