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「……なあアミュレ、リズレッドはどうしたんだ? 姿が見えないけど……」
「あー、リズレッドさんなら今日は別行動を取るって言ってましたよ? 深刻な顔をして宿屋を出ていきましたけど、お二人なにかあったのですか?」
「そうか……いや、なにもないよ」
冷静を装うが、焦りで声音が少し上ずる。幸い二人には気づかれなかったようで、ロズとアミュレは今日のプランを楽しそうに話し合っていた。
「では、そろそろ出発しましょうか。武器屋はこの街の中央街に多数ございますが、今回は特別にサービスの良い店をご紹介しますね」
いつものスーツ姿と打って変わり、ボビーレッドのスカートを起点にシックに纏めた衣装をひるがえしながら、ロズは笑った。それを見て、落ち込んでいた気分が少しだけ回復する。
リズレッドのような一瞬で人の目を引きつける華やかさと違い、彼女は夜の湖辺に咲く醇美な花のようで、美人なことに間違いはない。そんな女性と隣を歩けるのだから、年若い男として気持ちが上向くのは、なにも悪いことではないだろう。
「ささっ、ロズさんもああ言ってますし、昨日すっぽかした分、きちんと返してくださいね!」
それに追随するようにアミュレが俺の手を引き、前へと引っ張る。
二人の楽しげな様子に感化され、俺は気分を入れ替えて新たな武器を探すことに集中することにした。リズレッドのことは気になるが、せっかく俺のために時間を作ってくれたロズやアミュレに、浮かない顔のまま歩いても失礼だと思ったのだ。気分転換をして、今度会ったときに謝ればいい。そう思い直して、中央街へと歩を向ける。
ウィスフェンドの中央街は様々な店が分類ごとに整然と区分けされた、よく整頓された商品棚のようだった。武器屋や道具屋が区画ごとに分けられ、利用者の利便性を最大限に考慮された街造りとなっているようだ。堅牢なこの城塞都市らしい、効率を重視した都市設計と言えるだろう。
ロズに案内された武器屋はレベル20から装備できる剣や斧が壁一面に立てかけられており、シューノほどではないが、そこそこのものが揃えられていた。
「最低価格で五万Gか。今後のことを考えると、あまり出し惜しみして質の悪いものを買う訳にはいかないし……かと言ってこっちの十万Gを超えるのはなあ……」
悩ましいながらも、やはりこういう場所でのショッピングは男の心をくすぐるもので、綺麗に磨かれた商品たちを眺めながら、俺はうんうんと唸った。
しかしそんな俺を見て、ロズがにこりと笑いながら言った。
「提示されている値段から、一割くらいは安くなると思いますよ」
「えっ、そうなんですか? セール中……ではないですよね。そんな告知、どこにも書いてないし」
「実はここ、ギルドによく《鉄鉱石》の採取クエストを発注してくださるお得意様なんです。その関係でギルド員が口利きすれば、ちょっとだけお安くなるんですよ」
「……ロズさん、昨日は個人的な意思で俺と同伴するって言ってませんでしたっけ……?」
「……ふふ、そうでしたっけ?」
怖っ。
彼女の笑顔が、今は底の無い暗闇のように得体の知れないものに映り、それ以上の探求はよすことにした。一割引きだとしても、店側の原価は割れないからこそギルド価格を提示しているのだろうし、それで商品が売れるなら、きっとどちらもウィンウィンなのだろう。きっとそうなのだろう。はい思考終了。
彼女は俺の横に寄り添い、丁寧に武器を見繕ってくれた。
自分のレベルに合った武器のグループの中から、さらに自分の手に馴染む物を選定し、《ブラッディスタッフ》という品を手に取る。
スタッフという名前の通り、片手剣ではなく杖なのだが、MNDを攻撃力に変換することを考えると、こちらのほうが自分のスタイルに合っていると思ったのだ。
《ブラッディスタッフ》
装備条件:魔導系の職Lv22以上
MND:+156
効果:打撃攻撃の際に《出血・中》状態を付与
金額は元値が九万Gなのでロズのギルド証を見せて八万一千Gとなる。MNDのプラス値も申し分なく、強力な戦力になるのは間違いない。唯一の難点は、傍目にこれを使って戦っているところを見られたら、杖を棍棒のように振るって戦う冒険者に見られるということくらいだろう。
「……まあ、背に腹は変えられない状況だしなあ」
「ベルリンド樹を使用した杖ですね。魔力をよく通して柔軟性も高い、人気の樹素材で造られた品ですよ」
横にいたロズが、フォローするように武器の品評を教えてくれた。もとより格好など気にしていられる場合ではないのだ、彼女がそう言うのなら、断る理由もないだろう。
俺は《ブラッディスタッフ》をカウンターまで持っていき、店主に購入する意志を伝えた。
屈強なスキンヘッドの親父が愛想よく支払った料金を確認すると、品物を受け渡す際の最終確認として、杖に不備がないかを確認するかと訊いてきた。そちらも特に断る必要がないので首肯する。
確認の間、俺は視線が暇になり、店内をぐるりと見渡した。すると、視界の隅で白い影がちらちらと動いた。
目を止めると、それがナイフを構えたアミュレであることがわかった。鞘に納められた状態で腰を低くして構え、息を整える彼女。独特の空気を体に纏わせ、次には目にも止まらぬ連続攻撃を繰り出した。
「――!」
思わず目を見張った。三連から成る刃の連撃が、音もなく演武を思わせる美しさで、アミュレの小さい体躯から放たれたのだ。
回復役とは思えず体裁きに、思わず拍手を打って賞賛する。
「すごいなアミュレ!」
「っ!」
しかしアミュレはびくりと肩を跳ね上げると、持っていたナイフを急いで元の場所に戻してしまった。
「ラ、ラビさん! 見てたんですか!? いやだなあ、お恥ずかしいところを……!」
「いや、大した物だったよ。まるで戦闘職のような身のこなしだった。やっぱり一人旅だと、ヒーラーでも戦闘術の心得はできるものなのか?」
その問いに、彼女は困ったように俯いで黙り込んでしまった。
「……あ、悪い。隠しておきたいことだったか?」
「……いえ、そんなことはないですよ。ちょっと驚いてしまっただけです。ええと……先ほどのご質問ですが、自分を守るために、ソロで活動するヒーラーが武技を修めることもありますよ。パーティで活動した経験が少ない人ほど、癒術よりも武技のほうが長ける傾向がありますね」
彼女はそう言うと再び目を反らして、そそくさと離れていってしまった。
悪いことを聞いたのかもしれないという不安が脳裏をよぎる。彼女の体裁きはかなりのものだった。パーティ経験の少ないヒーラーほど武技に長けるという彼女の話をもとに考えるなら、それは決して誇れるものではないのだろう。
先ほど買っておいた翡翠を渡すなら、いまが丁度良いタイミングだと思い、近寄ろうとしたとき、
「ラビ様、杖の確認が終わりましたよ」




