03
「リズレッド、こいつ、なんとか直せないかな」
「《ナイトレイダー》……そうか、ついにこの時がきたか」
「このとき?」
「戦士にとって、慣れ親しんだ愛剣との別れは辛いだろう。だがそれは誰しもが通る道だ。そこまで破損してしまっては、修理屋でも直すのは難しいし、ほぼ打ち直しになるだろう」
「そうか……」
「そう落ち込むな。慣れ親しんだ武器との別れは、新たな道への第一歩だ。それは自分が成長しているという証でもある。その剣は自分の身を以て、そのことを教えてくれたんだ」
「……そうか……そういう考え方もできるか……」
「戦闘職の者たちなら全員が通る道だ。武器は、言うなれば命を預けあった分身のようなものだからな。壊れたら悲しむのはみんな一緒だ。街に戻ったら、きちんと供養してやろう」
「ああ、そうだな」
そう言って折れた《ナイトレイダー》を鞘に収めると、服についた埃を払って帰路につこうとした。そのとき、
「ゴーレムを倒しちゃうなんて、すごいですねーっ!」
あどけない少女の声が響いた。
突然の第三者の言葉に、俺とリズレッドは驚いてそちらを振り向く。
目を向けた先には、白を下地として赤い模様が装飾されたローブを纏った、ひとりの女の子が立っていた。
歳は十三から十五くらいだろうか。耳が尖っていないので人間であることは間違いない。俺は感覚をその子に向け、プレイヤーではないことを確認した。つまり彼女はネイティブだ。
「いやー、城塞都市まで行く途中ですごい音が聞こえたから、思わず見にきたら……ひょっとして、あなたが噂の『召喚者』さんですか?」
「……え、いや、誰?」
まるで慣れしたんだ知人のようにずけずけと距離を縮めてくる彼女に、思わず面食らう。リズレッドに至っては剣に手をかけている始末だ。これは不味い。疑わしき者は罰せよ。久々の《スカーレッド・ルナー》モードだ。
その対応で察したのか、少女は手をひらひらと振りながら、愛想よく笑った。
「あっ、私、別に怪しい者じゃないですよっ! ただの通りすがりの冒険者です!」
「……あやしい」
リズレッドがぼそりと呟いた。
それを訊いた彼女は大仰な振る舞いで、露骨にショックを受けたように肩を落とした。
「うう……ひどい。冒険者同士は助け合いじゃないですか! 人と人はまず信じ合うことで関係が生まれるんですよっ!」
「いや、最初に信じることを強制する人間は大抵ろくでもない奴だ。やはり斬るか」
俺は本当にそうしかねないリズレッドをいさめると、二人の間に割って入った。
……入ったはいいが、これからどうすれば良いのだろうか。俺としても彼女のことは何も知らないし、どうせならリズレッドと一緒に疑問符を浮かべたいくらいなのだが。
「あー……もう話は済んだかな? 俺たちはそろそろ街に戻ろうと思うんだ。ほら、ゴーレムとの戦いでボロボロだしさ。……まあここで会ったのも何かの縁だし、またどこかで会ったら、そのときまたゆっくり話そ……」
「あーっ! まってまって! 不自然に去ろうとしないでっ!」
離脱作戦失敗。
適当にあしらおうと話している途中で、叫び声を上げながら彼女は強引に俺の手を握ってきた。
「ッ!?」
瞬間、恐ろしい殺気が後方にいるリズレッドから放たれた気がした。……気がしたが、気のせいにした。
この子が現れてから妙に殺気立ってるというか、少し怖いくらいである。
このままでは面倒なことになると直感した俺は、なんとか手を離してもらおうと少女を見た。
だがそのとき、少女の体がぼう、と緑の光を放つ。
「っ!?」
驚く俺を他所に、謎のローブの子はぎゅっと俺の手を握ると、小さく呟いて魔法を発動させた。
「《ヒールライト》」
彼女の手から暖かな緑光が伝達し、俺の体を巡った。ピピピ、と細かな電子音とともに、HPのバーがぐんぐんと補充されていく。四分の一を切って赤に変色していたそれが、光の力によって青の正常領域まで戻る。
「これは……」
俺は目を見開いた。これは間違いなく回復魔法だ。
だが真に驚いたのはそこではない。回復魔法はもう珍しい魔法ではない。さすがに一年もログインしていると、神官のプレイヤーやネイティブと組むこともあるからだ。
しかし彼らが使用できる回復魔法は、一様に《ヒール》までだった。ポーションと同程度の効果を発揮するその魔法が、この世界の神官が扱える回復魔法の平均値だとリズレッドから訊いたのは、そのあとだった。
だが、いま彼女が使った魔法は紛れもなくその上位存在、《ヒールライト》だった。レベル26の俺のHPバーを赤から一気に青まで回復させたのが、そのなによりの証拠だ。
俺の驚きを見て満足したのか、彼女はにへ、と笑うと、弾むような調子で告げた。




