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03

 第一章 絶望の都市


 《アルファリア草原》


 魔法陣の放つ光が収まると、そこは広大な草原と、そう表記されたウィンドウが見えた。

 吹き抜ける風も、青臭い草の匂いも、まるで現実そのもので、俺は少しだけ呆けた。


「本当に俺……VRMMOの世界に来たんだな……」


 雲ひとつない晴天が、俺に太陽の光を浴びせている。


「すっっっげーーーーっ!! この時代に生まれて良かったァァーーーー!!!!」


 驚愕だった。何もかもが本物だった。

 拳を天に突き出し、大きく叫び声を上げる。

 ひとしきり走り回り、自分がこの世界を駆けている確かな感覚を楽しんでいると、フィールドのあちこちに、無造作にお金や装備品が落ちているのがわかった。

 おそらく女神様からの贈り物だろう。チュートリアル中にアイテムを貰えたりするあれだ。

 俺はありがたく頂戴すると、そのまま遠くに都市が見えたので、早速そこを目掛けて走った。


 《商業都市シューノ》

 都市に着くと、ウィンドウがこの都市の名を教えてくれた。ここら辺も昔よく読んだ小説にそっくりでテンションが上がる。

 まずは先ほど拾ったアイテムを確認しようと、パラメータを操作する。


 《ファストソード×10》

 《流浪者の服×10》

 《流浪者のズボン×10》

 《流浪者の靴×10》

 《流浪者の手袋×10》

 《10000G》


「あれ、同じアイテムが滅茶苦茶かぶってるな。まぁ店で売れば少しは資金になるか。というか一万Gって気前いいな女神様」


 そうして被ったアイテムを売り払うと、現在の俺のステータスはこのようになった。


 ラビ・ホワイト

 召喚者 Lv.1

 HP 50

 MP 80

 STR 5

 VIT 5

 DEX 18

 INT 21

 MND 36

 LUK 15

 《E ファストソード》

 《E 流浪者の服》

 《E 流浪者のズボン》

 《E 流浪者の靴》

 《E 流浪者の手袋》

 所持金 12000G


 あれだけあったアイテムが、たった二千Gにしかならないとは少し驚いた。だが見るからに初期装備だったし、それだけになれば御の字なのだろうか。

 俺はそのまま街の散策を始めた。シューノは中世を思わせる石作りの都市だった。商業都市ということなので海に面しており、行き交う商船が何隻も水平の彼方に消えていく。

 潮の匂いまで完全に再現されているし、空ではクークーと海鳥が鳴いていて、ちょっとした……いや、かなりの旅行気分だ。

 そのまま露天で買ったリンゴを齧りながら散策していると、脚に衝撃が伝わった。


「きゃっ!」


 五歳くらいの女の子が、曲がり角で出会い頭に俺とぶつかったのだ。


「ご、ごめん! 大丈夫?」


 慌てて女の子に謝ると、その子も「ごめんなさい!」と頭を下げた。


(この子……ネイティブなんだよな?)


 プレイヤーの場合は、感覚でそれがわかるように設計されているらしいので間違いないのだが、あまりに自然な動作や会話に唖然としてしまう。


「そんなに慌ててどうしたの?」

「あ、あの……お兄さんは、召喚者さんですか?」

「え? ああ、一応そうだよ。今この世界にきたばかりだけど」

「……っ!」


 そう告げると、女の子は一瞬体をびくつかせ、そのままもう一度頭を下げると、どこかへ走り去っていってしまった。

 召喚者という言葉に、明らかに動揺したような素ぶりだった。

 ひょっとして俺、いま女の子とぶつかったせいで、職業が悪寄りになってしまったのだろうか?


 気を落としながら大通りを歩くと、先程の浮かれていたときにわからなかった、ある異変に気付いた。

 雰囲気がおかしい。サービス初日だというのに、プレイヤーの面持ちが一様に暗いのだ。中には、


「畜生! どうすればこの街から出れるんだよ!!」


 こんな呻き声を上げる人までいる始末だ。これは少しだけ調査をしてみる必要があるかもしれない。何かレアなクエストが発生しているのかもしれないしな。


「あのー、どうかしたんですか?」

「あ? ああ、どうしたもこうしたもないだろ。お前も相当まいってるんじゃないのか?」

「へ?」


 突然の同意を求められて、思わず素っ頓狂な返事を返してしまった。


「なんだお前、ログインしたばかりか? じゃあそこの武器屋を覗いてみな、だいたいの状況を掴めるぜ」


 首を傾げつつ、男の言う通り大通りに面した武器屋に入ると、壁にはずらりと剣が並び、どれもこれも強力そうな武器だらけだった。というか、明らかに強かった。刃筋から辺なオーラが出ているものもあれば、刃が青白い謎の金属でできたものまである。どう考えても始まりの街で売っているような代物ではない。


「……まさか……」


 そして俺はひとつの、恐ろしい仮説に行き着いた。まさか、そんなはずはない。そう思って隣の防具屋に入るが、武器屋と同じように、頑丈で頼りになりそうなフルプレートが並び、その値札には十万Gを超えるものばかりが散見された。

 店を出てきた俺に、男は「わかったろ?」というような顔を向ける。


「どこもかしこも同じさ。俺たち初心者に買えるようなアイテムは、この都市にはひとつも売ってないんだ」

「そんな……じ、じゃあ他の街に行けば……」

「無理だ。ここら一帯のモンスターは強すぎる。何人も敵の目を掻い潜って脱出を試みたが、全員索敵されてゲームオーバーだ」


 予感は的中した。


「なら、やっぱり、ここは……」

「ああ、中級から上級の奴らが拠点にする街だ。あの女神、三国の次に大きい街を見繕ってくれたはいいが、難易度を考慮していなかったんだな」

「……」


 思わず天を仰いだ。天然っぽい女神様だったからまさかとは思ったが、そんな終盤の街に送られてしまうとは。


「な、なにか手があるはずだ! みんなで考えよう!」

「へっ、例えばあいつらみたいにか?」

「え?」


 男はそう言って、諦観したように、ある一団に視線を向けた。

 そちらへ振り向くと、その一団は一人の女の子を囲み、ニヤニヤと笑みを浮かべている。明らかに不穏な雰囲気を漂わせており、反射的に顔をしかめる。


「あれ、なにやってるんですか?」

「囮のネイティブを捕まえてるのさ」

「囮?」

「この世界は良くできてる。今までのゲームとは桁違いの自由度だ。だからネイティブを誘拐して、外の敵の注意を惹きつける餌にする……なんてこともできる」


 それを聞いたとき、目眩で足が震えた。

 確かに俺も子供のときに、ゲームのキャラに戦いを挑んでアイスブレードを奪ったり、道行く旅人を川に落として笑ったりしていた。

 だけどこのゲームのネイティブは他のゲームのキャラとは違う。明らかな感情を持っていて、自分だけの思考を持ってる。

 そんな人たちを囮にする? あんなニヤニヤしながら、そんなことができるのか?

 気付くと一団の方へ歩き出していた。男は静止の声を上げたが、どうしても我慢ができなかった。

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