記入日 A,C, 27/03/05
体調、良好。ライゼさんの所為で変に緊張していたが、追加した日課で解す事が出来た。毎朝の楽しみが増え、少しだけ浮かれてしまう。
でも、彼女も癒しと思ってくれているようだ。ならば問題ないと、自身を納得させた。
今日は所謂非番だ。異世界の慣れない生活でズレてしまった彼女の生活リズムを整える良い機会と思う。私としても、旅先という事で変に肩肘を張ってしまっているようだ。少々体に疲労が見える。
マリスタザリアが増えていく中で、私達が出動しないのは少々引っ掛りを覚えてしまうが……この際、頂いた休息を満喫しようと思う。
いよいよ拙い時は呼ばれるだろう。私情で状況判断を間違える程、アンネさんは甘くない。ライゼさんや私達の担当を務めるアンネさんを信頼し、緊張を解いておく。
バイトをしながら一日を過ごすつもりだったのだが、ライゼさんが彼女に稽古をつけるという事で、着いて行った。朝の事を警告しようとしたのだが――あの場では言えなかった。何れ時間がある時にしようと思う。
その稽古だが……彼女はライゼさんに、追い詰められてしまった。万全の状態で挑んだはずだったが、彼女はもう一歩の所で、ライゼさんに……負けてしまった。
とはいえ、お互い直撃なしだ。稽古だから中断になったが、まだまだ続けようと思えば続けられる状況だった。
心が乱れていなければ彼女に直撃はない。先日ライゼさんに蹴られたのは、私の所為だ……。
彼女は観察眼と第六感で全て避けきる。だけどライゼさんは、その観察眼を狙ってきた。横薙ぎをするという動きをあえて彼女に見せることで、防御姿勢を取らせたのだ。その動作の間に彼女は見落としてしまった。ライゼさんが殴りに移行する瞬間を。
彼女の目を盗み、それが出来るだけで驚愕だが、彼女の行動を操れた事が一番の驚きだ。それが、経験の差というものなのだろう。彼女のお母さまも、そうして彼女に勝利していたようだ。
フェイントと呼ばれる技術。これは彼女も得意とする技術だが、経験がこんなにも如実に出る物とは思わなかった。
しかしライゼさんの誤算は、彼女の第六感は経験を覆す力を持っていたという事だろう。
誰もが持っている第六感。だけど、彼女のそれはまさに――未来予知と言っても過言ではないのだから。
彼女の才能は、ライゼさんの瞳に歓喜を灯す程のものだった。よく、原石という言葉で表現される。だけど彼女はすでに宝石のような輝きを持っている。磨く手間は最小で良い。後は、いかに光を当てるか、だ。その光が何なのかは、私には分からない。でも彼女は、いかようにでも輝ける。
出来る事なら……彼女の、戦う以外の才能を……光らせたい。彼女の過去に僅かに見えた、ダンスや歌。それを、見たい。
それを見るには、魔王が邪魔だ。私も、彼女の輝きをもっと強くするために、私を磨こう。
まずは――日記を書き終えたらアンネさんに連絡を入れなければいけない。一般依頼探しをしてくれているだろうから、その中に花屋の手伝いを混ぜて貰おう。
彼女が最も癒しを得られる場所。あの、商業通りの花屋が受けてくれるか、それに掛かっている。




