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六花立花巫女日記 外伝  作者: あんころもち
6.進化
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冒険者

A,C, 27/03/01



 月が変わっても、寒さは然程変わっていないようです。リッカさまも少し寒そうに、私に抱きついています。


(部屋の中でも、寒さを”拒絶”した方が良いでしょうか)


 ですがそれは流石に、過保護すぎますよね。


(シーツを厚手の物にして、それでも寒そうなら実行しましょう)


 外では”拒絶”で寒さを遠ざけていましたが、こういった自然な寒さも、リッカさまにとっては楽しい物のはずですから。


 それに……。


(こうやって抱き合っていれば、暖かいです)


 リッカさまが眠っている時しか、自然に出来ませんけど! いつかちゃんと、目を見てやりたいです。心の中の、リッカさまとの共同生活メモに追記しておきましょう。




 リッカさまの暖かさから渋々抜け出し、朝食を作り始めます。スープの下拵えを行い、軽めの朝食を心がけましょう。目が覚める程度の物が理想です。


(リッカさまの料理は、素材の味を重視していましたね)


 私も調味料に頼らない料理作りを心がけていますが、もっと素材を活かす手法を考える必要があります。


(まずは素材を知る事からですね。今日まではいつも通りに作り、空いた時間で調べましょう)


 今日はギルド登録の日です。登録後すぐに鍛治師探しを依頼して、宿探しをしましょう。今日の予定は、これくらいでしょうか。


(リッカさまと街を見て回りたいですが)


 宿探しとは別でしたいと思っているのです。居住区とリッカさまに見せたい場所は別のようですから。


「さて。始めましょう」


 予定を詰めれば、行けるはずです。花屋さんにっ。




(今日は、夢を見ていないようです。残念と思ってしまう自分が浅ましいです、ね)


 ぱちりと目を開けたリッカさまは、ぱちぱちと瞬きを二回した後、私を見つける事が出来たようです。


「おはよう、アリスさん」

「おはようございます、リッカさま。朝食の用意は出来ていますよ」

「うんっ。じゃあ、身支度するね!」


 私が目の前に居てくれたという喜びと、私のスープの香りに、リッカさまに笑顔の花が咲きました。この笑顔をもっと近くで見るには、どうすれば良いのでしょう。スープの用意をすると笑顔を間近で見られず、スープを怠るとリッカさまを落ち込ませてしまいます。


 両立は難しいのでしょうか。


「あ。ありふはん」

「ひゃいっ?」


 歯磨きをしているリッカさまが、慌てた様子で私の名前を呼びました。もごもごとなってしまって頬を染めたリッカさまは、更に慌てて口を濯いでいます。


「えと、明日から朝食遅らせられるかな?」

「リッカさまの都合が良い時間で構いませんよ」


 遅らせても良いのであれば、両立出来るかもしれません。しかし理由によっては、時間の余裕がなくなる可能性もあります。


「私ね。朝の日課で走ったりストレッチしたりするんだけど、それを再開させようかなって」

「鍛錬の一環、ですか?」

「うん。体力つけたり、体の調整かな? 魔力を練ると力が上がるっぽいから、それに慣れないと」


 これは、リッカさまがやって来て知った事の一つです。どうやら、魔力を体内で練ると力が増すようです。私達はその状態が普通であり、自然と行っていたものですから、そういうモノとして受け入れていました。


 でも、リッカさまにはその変化が劇的で、慣れる為に調整が必要のようです。


「分かりました。無理のない範囲でお願いしますね? 後、出来るだけ遠くに行かないで頂けると」

「うん、それは大丈夫。大通りを通って、南門から左に曲がって、市場の裏を通って雑貨店前を走るつもり。大体十キロくらいかな?」


 一周十キロですと……そう、ですね。駆けつけるのに二分かからない範囲でしょうから……。


「ストレッチは、広場で行うのですね?」

「うん。この宿からも見える、かな?」

「屋上からならば見えると思います」


 リッカさまの日課を眺める事は可能です、ね。感知範囲外となりますが……大丈夫、です。我慢出来ます。


「無理はダメですよ?」

「うんっ」

「それでしたら私は、リッカさまが日課をしている間に朝食の準備と瞑想をしますね」

「ありがとう、アリスさん」

『帰ったらスープが待ってるって凄く嬉しいかもっ。それに、アリスさんのお出迎え――』


 私も想像してみます。少し汗をかいて戻って来たリッカさまに、タオルを渡しながら「おかえりなさい」という私……良いですね。ドキドキします。


 この街でリッカさまと離れるのはなるべく避けたいですが……早朝であれば人は少ないはずです。リッカさまにとって必要な早朝鍛錬ですから、ね。その時間を、リッカさまの為に使いましょう。リッカさまの為に朝食を作り、リッカさまを守る為の魔法を考え、リッカさまの生活が充実するように勉強をします。


「それでは、朝食を食べましょう」

「はーい」


 様々な組合が寄り合った組織ですから、始業時間も早いです。朝食を摂り、身嗜みを再確認した後目指せば丁度良い時間になるでしょう。




 ギルドに向かう途中、リッカさまがとある親子の会話を気にしていました。学校に行きたくない子を諌めているようです。


「こぉら。我侭を言ってると、我侭おばけが襲ってくるわよ」

「えー……分かったよ……」

『我侭おばけ、かぁ。こっちじゃ洒落にならないんだよね。負の感情はマリスタザリアになるんだから』


 子供教育の一環です。おばけとはマリスタザリアであり、それが襲ってくるという一言は全ての愚図りを一掃します。子供は段々と愚図る事をやめますが、それはあくまで言わなくなるだけ、なのです。根本的な解決になっていません。


(両親としては、それで良いのでしょうけど)


 それを変えたいのです。怖いから我慢するでは、意味がありません。昨日の喧嘩然り、その教育は一切効果を持っていないのです。脅す相手の前でだけ良い子になるような、そんな子が増えていっていると問題になっています。


『んー……』

「リッカさま?」

「エルケちゃんとエカルトくん、大丈夫かなぁ。”神林”にも出るかもだし……」

「大丈夫です。あの二人もそうですが、オルテさんとお父様もいますから」

「うん……。そう、だよね」


 心配するのも無理はありません。ですが、あのマリスタザリアが魔王によるものであるのなら――私達がこちらに来た事で興味は王都になったはず、です。


(はず、ですが……。”巫女”が狙いなのか、世界の中心である”森”が狙いなのか、魔王の目的が分からない事には、ですね)


 ”森”にも、戦士はいます。


「私達は私達のやるべき事をしましょうっ」

「うんっ」


 リッカさま。出来るなら、ご自身の心配だけを――。




「朝とはいえ、人が多いようですね」

「うん。活気がある証拠かも」


 大通りはすでに賑わっていました。旅装をしている人もいますし、遠出する人も居るのでしょう。王都の告知前ですから……護衛をつけてくれるでしょうか。今はまだ、費用が嵩みますから。


「ここがギルドかな?」

「はい。この中の一階、左側にあると聞いています」


 色々な組合が集まっていますし、受付だけでも沢山あります。


「私が受付をしますね」

「はーい」


 資料の確認があるでしょうから。


「ごめんください、冒険者組合はこちらでしょうか」

「はい。ここで間違いありません。希望者の方でしょうか」

「はい」

(噂の巫女様達、かしら。巫女様も冒険者とかになるのね)


 資料と、履歴書でしょうか。名前や経歴を書く欄があります。


「記入後、再びこちらにお願いします」

「分かりました」


 リッカさまの元に戻り、記入していきます。名前、性別、住所――は、後程修正出来るようです。冒険者になったら王都住みになるかもしれないから、ですね。


「住居の欄はあとから変更できますので、ひとまずは神林集落の私の家にしておきました。問題はありませんか?」

「うん、問題ないよ」

『同じ住所――』


 リッカさまも、そこでドキリとしましたか。私もです。何故でしょう。この冒険者用の書類が、別の物に見えてしまいます。それはまだ早いです…………早い? 


 え、えっと……経歴は”巫女”で……最後に誕生――。


「……っ」


 何、でしょう。頭に痛みが……。リッカさまも、頭を押さえています、ね。同時に頭痛が起こる……アルツィアさまが、何かしたのでしょうか。リッカさまと私が同じという事を強調していましたし……これも何か――。


「大丈夫? アリスさん」

「はい、少し痛みが……。でも、もう大丈夫みたいです」

「よかった。じゃあ書類もっていこっか?」

「はい」


 リッカさまも問題ないようですし、今は気にする事ではなさそうですね。何かしなければいけなかったような気がしますが……先に提出しましょう。


「記入出来ました」

「お預かりします」

(あれ。誕生日書かれてない。巫女様のルールかしら…………王宮で歓迎されたって話だし、身分証明はこれくらいで良いわよね)


 書類が通ったようです。名前が呼ばれるまで待機となったので、暫くはリッカさまと談笑しながら椅子に座って待ちます。


『人が増えてきたかな』


 冒険者とそれ以外の方は分かりやすいです。冒険者の方は動きやすい格好をしていますし、体が鍛えられた人が多いです。それと、表情が違いますね。常に回りを威嚇するような、硬い表情です。


(昨日の大男が思い出されますが……)


 冒険者の方というのは、人の為に命をかける者です。あの硬い表情も、自身の命がかかっているという緊張からでしょう。大男の神経質な性格とは別物です。


「アルレスィア・ソレ・クレイドル様、ロクハナリツカ様。どうぞ」


 呼ばれたので、受付に向かいます。


「大変申し訳ございません。此度の募集に対して、希望者の数があまりにも多く。そのことを担当へ伝えましたところ、先着順ではなくより優秀な冒険者を募るために、試験方式を取る事となりました」


 リッカさまと視線を合わせ、頷きます。試験を受ける事に問題はありません。人の命を預かる職なのですから、優秀な人からというのは納得です。


「試験内容は、どんなものでしょう」

「はい、これより明日の日が落ちきるまでの間に、マリスタザリア一頭、またはそれに匹敵する害獣の駆除となります」


 害獣でも良いのですね。戦闘力と判断力の試験ですか。戦う力を量るのは当然の事として、いかに迅速に被害を出さずに討伐出来るかを見るのだと思います。

 

 害獣はリスト化されているので、そのリストを受け取っておきます。クマやイノシシが主ですが、ネズミも対象のようです。疫病の元になっているのでしょう。


「マリスタザリアを討伐された方は、無条件で選任枠となります」

「わかりました。では、すぐにとりかかります」


 マリスタザリア狙いでいきますが、もし余裕があればリストの害獣も狩ります。困っている人が居るのですから、出来るだけ人の為に戦いましょう。


「選任っていうのになった方が良いのかな」

「多分、そうだと思います。マリスタザリアの討伐が条件みたいですから、マリスタザリア専門の冒険者ではないかと」


 最近出来た制度らしく、私も余り詳しくは知らないのです。ですが、マリスタザリアが条件に入るくらい周辺に居る可能性があるのです。狙いはマリスタザリアのままで良いですね。


「それじゃ、行こっか」

「はい。まずは薬屋に行きましょう」

「うんっ」


 準備を整え、早速行動します。



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